今回は、企業型確定拠出年金(企業型DC)の受け取り方の注意点と、老齢給付金として受け取る時の税制上のメリットについて紹介します。
確定拠出年金の給付金には「老齢給付金」「障害給付金」「死亡一時金」の3種類がありますが、確定拠出年金は退職後の資産形成のための制度として位置づけられていることもあり、「老齢給付金」がもっとも基本的な受け取り方法となります。
老齢給付金とは、確定拠出年金の加入者が60歳から受け取れるお金のことを言います。受取時には税制上の優遇措置があり、一時金で受け取る場合と分割で受け取る場合にそれぞれルールが決められています。これは、企業型DCも個人型(iDeCo)も同じであり、メリットのひとつです。
なお、税制は現時点のもの(2018年11月時点)ですから、実際に受け取る時には変わっているかもしれないので、ご注意を!
※前回記事「預け先の金融機関が破綻したらどうなる?」についてはこちら
確定拠出年金の受取年齢と加入期間について
確定拠出年金の老齢給付金は、原則60歳までは受け取れません。一方で、60歳になったら必ず受け取れるとも限りません。通算加入者等期間が10年に満たない場合は、受取開始が61歳~65歳にずれ込むことがありますので、いつから受け取り可能かを確認しましょう。
なお、特定運営管理機関に自動移換された期間は、この通算加入者等期間に算入されませんので注意が必要です。
(自動移換については第6回を参照)
受け取りまでの大まかな流れ
老齢給付金受け取りの大まかな流れを先に説明しておきます。
1.受取方法を決める
(1)一時金で受け取る
(2)年金で受け取る
(3)一部を老齢一時金として受け取り、残りを老齢年金として受け取る(併給)
の3パターンから、加入している確定拠出年金規約等のルール内で決める。
2.「裁定請求書類」の提出
裁定請求書類を運営管理機関に提出します。裁定請求とは、年金受取の権利を持つ加入者が年金を受け取りたいと請求することです。公的年金の請求時にも日本年金機構からの案内通知に基づいて自分で裁定請求を行うルールになっています。
(1)一時金で受け取る場合の税制上のメリット
会社を辞めたときに退職金がもらえる企業も多くありますが、確定拠出年金を一括で受取する場合、その課税額は退職金と同じルールで計算されます。
退職金は給与所得などの他の所得とは区別され「退職所得」として課税され、所得税・住民税の計算においては他の所得より下記の点で優遇されています。
(1)退職所得控除という制度がある
(2)退職所得控除を控除した残額に1/2を掛けて、退職所得を計算する
(3)分離課税される
それぞれ詳細を説明します。
(1)「退職所得控除」の金額・計算方法
退職所得控除という制度があり、勤続年数に応じて控除金額が決まっています。
勤続年数20年、退職金一時金1000万円の場合で、シミュレーションしてみましょう。
20年間の場合の控除額は 20年×40万円=800万円となります。
1000万円から退職所得控除800万円を差し引き、残額200万円となります。
(2)残額に2分の1を掛ける
退職所得控除後の残額に1/2を掛けて、退職所得を計算します。
退職所得=200万円×1/2
で100万円となります。
(3)退職金は退職所得だけで税金を計算する
退職所得は、他の所得と合わせて計算するのではなく、退職所得だけで税金を計算します。これを分離課税といいます。
課税所得が100万円の場合
所得税:100万円×5%=5万円
住民税:100万円×10%=10万円
所得税・住民税は合計15万円となります。
もともと退職金は長年働いたことの報償として一時的に支払われるものなので、税制面で優遇されているのですが、確定拠出年金も長年積み立てて老後の生活に使っていくものですから、同じ計算をするのでしょうね。
この優遇は加入者にとっては、大きなメリットです。
参照:国税庁ホームページ『No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)』
(2)分割で受け取る場合の税制上のメリット
分割受取は20年、15年、10年、5年など受取期間を選ぶことできます。受取期間は、運営管理機関によって異なることがあります。
分割受取する場合、「公的年金控除」が適用され、下の表で計算した金額が雑所得として課税対象となります。
公的年金に係わる雑所得の金額=(a)×(b)―(C)
なお、上記で計算した金額に対してすぐに所得税・住民税がかかるわけではありません。年金以外に所得がある方は、その所得金額をプラスしなければいけません。
そして、その結果に出てきた総所得金額から各種所得控除を引き、そこで出てきた金額に対して税金がかかります。所得控除は、基礎控除や配偶者控除や社会保険料控除などの控除のことです。
公的年金控除後の年金額+その他の所得―各種所得控除=課税対象
確定拠出年金の分割受取金は公的年金の一部として計算されますので、基礎年金や厚生年金と合計して「雑所得」という扱いになり、これに対して、所得税・住民税がかかる仕組みになっています。参照:国税庁ホームページ『No.1600 公的年金等の課税関係』
分割受け取りを公的年金受け取りまでの“つなぎ年金”として活用する
本連載を読んでいる多くの方の公的年金受け取り開始年齢は65歳でしょう。60歳以降も仕事を継続する人が今後ますます増えそうですが、収入が減る場合も予想されます。確定拠出年金を65歳までの“つなぎ年金”として活用した場合、他の公的年金等の収入金額との合計額が700,000円までならば、公的年金等に係る雑所得の金額はゼロとなります。
公的年金が65歳からの支給であれば、他の公的年金等の収入はない場合が多いと思います。この場合、確定拠出年金を分割受け取りしても、年間70万以下であれば、課税されません。
(3)一時金と分割受取を併用した場合
一時金と分割受取を併用した場合、それぞれ計算されて課税所得が決まります。
退職所得の税制上のメリットのほうが大きいと感じ、現状は一時金で受け取る人が多いです。
ただし、他の退職所得を受け取っていた場合などは退職所得控除の計算に注意が必要(※)となりますので、受取時にシミュレーションして有利な方法を計算してみることをおすすめします。
※確定拠出年金の一時金受け取り時から遡って14年以内に別途退職手当等が支給されている場合は、退職所得控除額の調整が行われます。
なお、給付金を受け取る際には、給付一回につき432円の手数料がかかります。年金受取を選択する場合には、給付事務手数料が受け取るたびに給付額から差し引かれるので、注意が必要です。
(解説:加藤博 イラスト:トレンド・プロ)
▼解説者プロフィール
株式会社LSFP 加藤博
保険会社、コンサルティング会社などを経て2013年にFP会社(株式会社LSFP)を設立。
金融商品の知識が深く、確定拠出年金に関しては、個人型と企業型の両方に精通。細かい制度内容や手数料などを、お客様にわかりやすく説明することで、お客様自ら判断できるようコンサルティングしている。
お金の心配をなくして、人生をもっと楽しくイキイキと送ってもらえるよう、金融面で支援することが使命。
▼トレンド・プロ
日本初のマンガ広告制作会社で1,500社、6,300件以上の実績を持つ。
動機付け、興味の喚起、ストーリー性、分かりやすさなど、マンガの持つ強力な訴求力を活用し、効果ある広告
を提案できるノウハウは、マンガ広告だけでなく難しい書籍をコミカライズするビジネスコミック制作にも拡がり
を見せ、10万部を超えるヒット作を続々手がけている。
▼漫画と専門家解説でわかる「企業型確定拠出年金」シリーズ
(1)企業型確定拠出年金(企業型DC)とはどんな制度?
(2)企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリット、デメリットは?
(3)企業型確定拠出年金と退職金・確定給付企業年金は何が違う?
(4)企業型確定拠出年金のマッチング拠出 節税メリットはどれくらい?
(5)企業型確定拠出年金はiDeCoやNISAと同時加入できるの?
(6)企業型確定拠出年金は退職、転職したらどうすればいい? 何もしないとどうなる?
(7)企業型確定拠出年金を預けた金融機関が破綻した! 自分の資産はどうなる?
(8)企業型確定拠出年金、一時金で受け取る? 年金で受け取る?
(9)企業型確定拠出年金はどう運用すればいい? 金融商品の基本的な選び方
(10)確定拠出年金を始めたらスイッチングを検討しよう! 運用開始後の見直し方
(11)企業型確定拠出年金のメリットを生かすには投資信託がおすすめな理由
(12)投資信託(企業型確定拠出年金)の20代~30代、40代、50代の世代別にみた活用事例
※全12回