確定拠出年金で積立している人で「今まで一度も運用商品を変更したことがない」という人や、「毎月積立している商品から生まれた利益・積み上がった残高は、それまでと同じ商品で運用しなければいけない」と誤解している人が結構います。
確定拠出年金口座を開設してから運用商品を変更していない場合は、初期設定商品(デフォルト商品)のままになっています。
そして多くの場合、デフォルト商品は元本確保型商品(定期預金や保険商品)になっています。残高が元本確保型商品100%だとしたら、低金利の現在は運用益はほとんどつかないケースが多いです。
商品を売却して運用益が出た場合でも、「課税されないこと」が確定拠出年金のメリットのひとつです。そのため、「預金では増えないので運用益獲得を目指して投資信託を選びたい」と考える人が増えてきています。
それでは、運用商品を切り替える方法や考え方を見ていきましょう。
※前回記事「金融商品の基本的な選び方」についてはこちら
まず資産の状況を確認
資産の状況は、運営管理機関が提供するWEBサイトのマイページで確認ができます。IDとパスワードでログインし、現在の状況を確認しましょう。
マイページでは主に以下のことが確認でき、またサイト内で運用商品の売買ができます。
・資産状況
・運用商品一覧
・掛金の配分割合
・スイッチング(預け替え)
毎月積み立てしている商品を変更する場合
毎月の掛金で運用する商品は、「運用商品一覧」で確認して、「掛金の配分割合」で割合を決めていきます。
たとえば、以下の割合で3商品に毎月投資しているとします。
(A)先進国株式に投資する投資信託 25%
(B)国内株式に投資する投信信託 25%
(C)定期預金 50%
Cの定期預金をやめて、D「新興国の株式に投資する投資信託」を追加し、全体の割合を見直しする場合、マイページでDを追加して、現在選択しているA、B、Cの割合を変更します。
選択した商品の合計が100%となるように、各商品の投資割合を決めていきます(割合は1%単位で選定できます)。
現在の残高を確認して、他の資産に移し替える場合
現在の資産残高を他の資産に移し替えることを「スイッチング(預け替え)」と言います。
たとえば、確定拠出年金での投資をずっと定期預金で積み立てしていた人が、投資信託商品へスイッチングするとします。
現在の定期預金の残高が100万円であり、半分の50万円分を先進国株式に投資する投資信託Aに移し換えるとした場合、マイページでスイッチングする商品を50万円分売却し、商品Aを選択して50万円分購入します。
なお、売却日や購入日は商品や運営管理機関によって異なりますが、2~4営業日かかる場合があります。
資産ポートフォリオの見直しはどれくらいの頻度で行えばいい?
よく聞かれる質問です。
なかには「一度買ったら、ほったらかしでいいんだ!」と言う人もいます。
それもひとつの答えです。
私はいつも「人それぞれです。あなたの状況や考え方によって違いますね」と回答しています。
運用方針は、以下の基本的な考え方を理解して決めていきたいものです。
まず確定拠出年金での運用は、
・長期間である
・一定額を毎月積み立てる
が特徴です。
長期間運用するうえで一般的な考え方である、一定額を定期的に積み立てる「ドルコスト平均法」(第9回参照)では、「投資信託の価格(基準価額)が上下することに一喜一憂しないこと」が重要です。
急激な下落局面であわてて売却しないことが特に重要になります。
下落時局面では、「もっと下がって損が膨らんでしまう」と思って、急いで売却したくなりますが、ドルコスト平均法は下落時には「量(投資信託の口数)」を購入できます。
基準価額が下落しても、少し回復するだけで利益を出す場合があります。
具体的な事例をみてみましょう。
投資信託の基準価額と投資成績の推移について、数値データを用いて比較します。
〇運用期間:2002年9月~2017年8月まで180カ月(15年)
〇毎月月末に1万円を積み立て(下記4資産に25%ずつ分配)
・国内株式インデックスファンド
・国内債券インデックスファンド
・外国株式インデックスファンド
・外国債券インデックスファンド
※データ参照元:モーニングスター
上記サイトからデータをダウンロードし、2002年9月30日の基準価格を1万円に修正してグラフを作成しています。
基準価額の推移
投資成績の推移
事例の2002年9月から2017年8月までの15年(180カ月)の間には、リーマンショックと東日本大震災があり、投資信託商品の価格が長く低迷している期間があります。この下落時には、投資成績も投資元本を下回っていますが、低迷期を抜けて価格が回復する期間にはいるとすぐに元本を回復し、運用益を出していることが分かります。
ドルコスト平均法で重要な考え方は「長く保有し、継続する」ということです。
ドルコスト平均法では、保有する期間は少なくとも5年以上、できれば10年以上が好ましいと一般的に言われています。
事例でみたインデックス型の投資信託は、マーケット全体に投資する投資信託商品で、マーケットの値動きに連動するので、わかりやすい投資信託の一例です。
自分で売買するのが面倒という人は、投資先を自動的に修正するバランスファンドやターゲットイヤーファンドと呼ばれる投資信託商品を選ぶのも選択肢のひとつです。
これらの投資信託商品は、運用会社が投資先の資産構成をチェックし、投資先を修正する機能や、投資終盤にむけて、価格の変動が大きい資産から価格が安定的な商品へ資産構成を変更する機能が付いているので、自分でタイミングをみて資産売買をする必要はありません。
確定拠出年金制度を活用する際の「2つの自己責任」
確定拠出型年金を活用する場合、次の2点を自己責任として認識しておく必要があります。
1.投資する商品を選択すること
2.状況に応じて資産をスイッチングすること
たとえば投資の序盤は「成長力を期待して、新興国の株式中心にする」。後半は「安全性を重視して、国内債券中心にする」など、自分自身の運用方針を決めていくのが良いでしょう。
なお、少なくとも年に1回は現状を確認しましょう。
企業型確定拠出年金は継続的に投資教育が用意されているので、投資教育の研修会に参加して、知識を付けていく事も重要です。
「運用方針の立て方がわからない」「商品の選び方がわからない」といった場合は、専門家に相談しながら確認していくのも良い方法だと思います。
(解説:加藤博 イラスト:トレンド・プロ)
▼解説者プロフィール
株式会社LSFP 加藤博
保険会社、コンサルティング会社などを経て2013年にFP会社(株式会社LSFP)を設立。
金融商品の知識が深く、確定拠出年金に関しては、個人型と企業型の両方に精通。細かい制度内容や手数料などを、お客様にわかりやすく説明することで、お客様自ら判断できるようコンサルティングしている。
お金の心配をなくして、人生をもっと楽しくイキイキと送ってもらえるよう、金融面で支援することが使命。
▼トレンド・プロ
日本初のマンガ広告制作会社で1,500社、6,300件以上の実績を持つ。
動機付け、興味の喚起、ストーリー性、分かりやすさなど、マンガの持つ強力な訴求力を活用し、効果ある広告
を提案できるノウハウは、マンガ広告だけでなく難しい書籍をコミカライズするビジネスコミック制作にも拡がり
を見せ、10万部を超えるヒット作を続々手がけている。
▼漫画と専門家解説でわかる「企業型確定拠出年金」シリーズ
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(2)企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリット、デメリットは?
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