今回は、退職、転職したときにやるべき企業型確定拠出年金に関する手続き・対処方法などを紹介していきます。
※前回記事「iDeCoやNISAとの同時加入」についてはこちら
企業型の確定拠出年金に加入している人が退職時にやるべき事
60歳まで継続することを前提としている確定拠出年金は、退職した場合には「自分の口座を移し換えることができる」という特徴を持っています。移し換えることを「移換」と言います。
企業型DCの加入者が退職した場合は、退職後の職業や転職先の企業年金制度有無によって移換先が異なります。
(1)他の会社へ転職する場合
・転職先に企業型確定拠出年金がある場合⇒転職先の企業型確定拠出年金に移換します。
・他の確定給付型の企業年金制度がある場合⇒原則、個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換します。(※)
加入限度額は月額12,000円(年額144,000円)
※転職先の制度が確定給付型企業年金で、確定拠出年金からの移換を認めている場合は移換が可能。
・企業年金制度がない場合
⇒個人型確定拠出年金に移換します。加入限度額は月額23,000円(年額276,000円)
(2)個人事業主になる場合
⇒個人型確定拠出年金に移換します。加入限度額は月額68,000円(年額816,000円)
(3)専業主夫(婦)等になる場合(国民年金第3号被保険者になる場合)
⇒個人型確定拠出年金に移換します。加入限度額は月額23,000円(年額276,000円)
(4)公務員になる場合
⇒個人型確定拠出年金に移換します。加入限度額は月額12,000円(年額144,000円)
移換するときの注意点
移換後に積立てを継続する場合
移換後の加入限度額が状況により違うので、転職前より限度額が低くなる場合があります。
個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換する場合、所定の手数料を自己負担する必要があります。
移換するときまで積立てしていた残高の取扱い
移換する場合、運用してきた商品を一旦、現金化する必要があります。転職前と転職後が同じ金融機関(運営管理機関)であったとしても年金規約が異なるので、現金化して移し換えます。現金化するということは、運用商品を解約するということです。
投資信託で運用している場合、「相場下落時に解約」となると元本を下回る可能性があります。
移換手続をしなかった場合
企業型確定拠出年金に加入していた方が、その資格を喪失した日(退職した日の翌日)の属する月の翌月から起算して6カ月以内に移換手続きを行わなかった場合、資産は国民年金基金連合会に自動移換され、手続されるまでの間「自動移換者」の資産として預けることになります。
自動移換のデメリット
自動移換された場合、次のデメリットがあります。
資産運用されない
これまで運用先に預けて運用してもらっていたものが、次の運用が開始されるまでは停止状態になりますので、その期間は資産が1円も増えないということです。
管理手数料が掛かる
・自動移換時 4,269 円(特定運営管理機関 3,240 円、国民年金基金連合会 1,029 円)
・自動移換者である間の管理手数料(自動移換された後4カ月目から) 51 円/月
・自動移換者が年金資産を企業型確定拠出年金・個人型確定拠出年金に移換する時 1,080 円
いったん、自動移換された後、加入等手続き(加入者や運用指図者となる手続き)をする場合は、自動移換時に上記の手数料を負担したうえで、さらに新規加入時等手数料についても負担することになります。
通算加入者等期間に算入されない
自動移換中の期間は、老齢給付金の受給要件となる通算加入者等期間に算入されません。そのため、受給可能年齢が遅くなることがあります。
自動移換者としての期間は、年金資産は運用されず、将来年金受給時に必要な加入期間にも算入されない扱いとなります。確定拠出年金は加入期間10年以上の場合、60歳から受け取る事ができます。この「加入期間10年以上の場合」の加入期間に算入されないということは、とても重要な事です。
平成30年5月1日からの取扱変更点
デメリットが多い自動移換者ですが、情報不足のためか年々増加傾向にあり、自動移換者数は56.7万人(資産額が0円の者を除くと33.6万人)、自動移換された資産額1,428億円という状況です。(平成28年3月末時点)
参照:厚生労働省WEBサイト「第19回社会保障審議会企業年金部会 平成29年6月30日 資料5
このような状況を受け、以前は加入者が自ら移換の申し出をしない限り、所定期間を過ぎると自動移換されていましたが、平成30年5月1日より、以下の場合については申し出がなくとも移換処理が行われるようになりました。
・企業型確定拠出年金の資格喪失後6カ月以内に新たに個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者になったことが確認できた場合(※)
・自動移換の状態で新たに個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者になったことが確認できた場合(※)
※確認できた場合とは、次の(1)から(4)が完全に一致する場合をいいます。
(1)基礎年金(2)性別(3)生年月日(4)カナ氏名
参照:特定運営管理機関WEBサイト
以上、今回は「退職、転職した場合」について詳しくみていきました。
(解説:加藤博 イラスト:トレンド・プロ)
▼解説者プロフィール
株式会社LSFP 加藤博
保険会社、コンサルティング会社などを経て2013年にFP会社(株式会社LSFP)を設立。
金融商品の知識が深く、確定拠出年金に関しては、個人型と企業型の両方に精通。細かい制度内容や手数料などを、お客様にわかりやすく説明することで、お客様自ら判断できるようコンサルティングしている。
お金の心配をなくして、人生をもっと楽しくイキイキと送ってもらえるよう、金融面で支援することが使命。
▼トレンド・プロ
日本初のマンガ広告制作会社で1,500社、6,300件以上の実績を持つ。
動機付け、興味の喚起、ストーリー性、分かりやすさなど、マンガの持つ強力な訴求力を活用し、効果ある広告
を提案できるノウハウは、マンガ広告だけでなく難しい書籍をコミカライズするビジネスコミック制作にも拡がり
を見せ、10万部を超えるヒット作を続々手がけている。
▼漫画と専門家解説でわかる「企業型確定拠出年金」シリーズ
(1)企業型確定拠出年金(企業型DC)とはどんな制度?
(2)企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリット、デメリットは?
(3)企業型確定拠出年金と退職金・確定給付企業年金は何が違う?
(4)企業型確定拠出年金のマッチング拠出 節税メリットはどれくらい?
(5)企業型確定拠出年金はiDeCoやNISAと同時加入できるの?
(6)企業型確定拠出年金は退職、転職したらどうすればいい? 何もしないとどうなる?
(7)企業型確定拠出年金を預けた金融機関が破綻した! 自分の資産はどうなる?
(8)企業型確定拠出年金、一時金で受け取る? 年金で受け取る?
(9)企業型確定拠出年金はどう運用すればいい? 金融商品の基本的な選び方
(10)確定拠出年金を始めたらスイッチングを検討しよう! 運用開始後の見直し方
(11)企業型確定拠出年金のメリットを生かすには投資信託がおすすめな理由
(12)投資信託(企業型確定拠出年金)の20代~30代、40代、50代の世代別にみた活用事例
※全12回