『おちょやん』第19週「その名も、鶴亀新喜劇や」

第91回〈4月12日(月)放送 作:八津弘幸、演出:小谷高義 〉

朝ドラ『おちょやん』万太郎のモデルと思われる喜劇俳優・曾我廼家五郎は喉頭がんで死去
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

鶴亀新喜劇発足!

終戦から3年、鶴亀新喜劇(モデルは松竹新喜劇)が誕生し、新しいターンがはじまる。焼け跡からの出発は明るく清々しかったが、それもつかの間、再び哀しい出来事が近寄ってくる。

【前話レビュー】『おちょやん』救われるときもあれば救うときもある 笑いとは人生のバランスをとること

戦中、大山(中村雁治郎)に劇団解散を命じられバラバラになってしまった家庭劇は、戦後、天海天海家庭劇として復活した。
ただし、小山田(曾我廼家寛太郎)は引退して農業、ルリ子(明日海りお)は田舎で父の世話をするため抜けている。

千代(杉咲花)一平(成田凌)たちは戦後、地方を回るが、家庭劇のモデルの松竹家庭劇は親会社に切られたことはなく、昭和二十年の三月の大阪大空襲で拠点だった中座が焼けてから、地方へ慰問興行に出るようになった。『おちょやん』ではそのドサまわりの様子を、鶴亀興行から離れ、戦後の新たな旅立ちとして描く。

だが、そこにもさまざまな困難が。五厘屋という仲介屋にお金と芝居道具を持ち逃げされてしまった。仲介屋にお金を持ち逃げされるエピソードは朝ドラ前作『エール』(2020年度前期)でもあった(第5週)。
たしかそのときの名前が“鶴亀寅吉”(古舘伊知郎)。奇しくも鶴亀つながりである。

【参照】『エール』22話 古舘伊知郎 あやしい興業師として登場。「ひよっこ」の古舘佑太郎と父子で朝ドラ俳優

芝居道具がなくなったので身ひとつで演じられることを考える千代。みんなでたぬきに扮して「たぬきの嫁入り」をやるが、失敗。そこへ熊田(西川忠志)が迎えに来た。
大山社長が呼び寄せたのだ。

たった3年で立派な劇場・新えびす座が再建されたので、鶴亀新喜劇を発足させ、家庭劇の面々に参加しないかと持ちかける。一平は座長を命じられるが、一度自分たちを切り捨てた鶴亀に戻りたくないと、また得意の意地を張る。一方、千代は道頓堀でまた芝居ができるならやりたいと考える。

朝ドラ『おちょやん』万太郎のモデルと思われる喜劇俳優・曾我廼家五郎は喉頭がんで死去
写真提供/NHK

うどん屋・岡福

空襲で生き残った岡安のシズ(篠原涼子)宗助(名倉潤)みつえ(東野絢香)、そして一福(木村風太)は、うどん屋・岡福の経営をはじめた。岡安と福富を足した屋号で、のれんも仲良く並んでいる。本家・福富と分家・岡安の長きに渡る確執は、ついに合併することで終焉を迎えたのである。


『おちょやん』では主要キャラが安くて美味しいうどんを極めようとしている。同じく大阪を舞台にして、インスタントラーメンを開発した朝ドラ『まんぷく』(2018年度後期)では、主人公の福子(安藤サクラ)と夫・萬平(長谷川博己)が終戦すぐに闇市でラーメンを食べるが、彼らがラーメンを作りはじめるのは昭和33年まで待たないとならない(第17週)。

当「毎日朝ドラレビュー」を読み返すと、ラーメンづくりの勉強のために食べにいったラーメン屋台の主人・熊倉源三郎を演じていたのが松竹新喜劇の渋谷天外(三代目)であった(第94回)。『おちょやん』では京都撮影所の守衛役だった。熊倉は、戦後、家族を亡くしてたったひとりラーメンを作り続け12年と語る。

【参照】『まんぷく』94話 「世の中の主婦を楽にさせてあげたい」萬平さん、ラーメン実食へ

岡福の人たちはかろうじて家族が残ったものの、やっぱり大事な人たちを失って、それでも安くて美味しいものを作って生き残った人たちと分かち合っている。
この世界にはそういう人たちがたくさんいるのである。

万太郎のパーフォーマンスが研ぎ澄まされた

大山社長が新劇団のメンバーになぜ万太郎一座を選ばなかったか。それは万太郎(板尾創路)の体調によるものだった。そうとは知らず訪ねてきた千之助(星田英利)に万太郎はジェスチャーで自分の状況を示す。

「(新たな劇団に選ばれず)悔しゅうて悔しゅうて声も出えへんか」と万太郎の状況を知らずに憎まれ口を効く千之助。ジェスチャーをはじめる万太郎(いちいち、一二九〈華井二等兵〉に太鼓を叩く合図をしながら)。それを読み取った千之助を万太郎一座の劇団員たちが鳴り物で囃し立てる。
「邪魔くさいのう。ほんなもう口で言え。言われへんか」となおも毒づく千之助。万太郎はニヒルに笑うだけ。なんともおかしくも切ない場面であった。

朝ドラ『おちょやん』万太郎のモデルと思われる喜劇俳優・曾我廼家五郎は喉頭がんで死去
写真提供/NHK

万太郎を演じる板尾創路はもともと言葉少なく、間合いでシュールな笑いをつくりあげる芸人なので、しゃべらずとも場を保たせることができる。
この場面で、第87回で、万太郎が千代に、外国の芝居を見たとき言葉がわからないけれど面白かったと語っていたことが思い出される。言葉がなくても笑わせることができる領域に万太郎は到達したのである。でもそのとき余命はあとわずか(?)という哀しみ。万太郎のモデルと思われる喜劇俳優・曾我廼家五郎も喉頭がんで昭和23年に亡くなっている。

【関連記事】『おちょやん』89回 8月15日、終戦。日本は負けた 終戦の日、朝ドラの女たちはどうしていたか
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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■板尾創路(須賀廼家万太郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■藤山扇治郎(須賀廼家万歳役)プロフィール・出演作品・ニュース
■華井二等兵(須賀廼家一二九役)プロフィール・出演作品・ニュース
■木村風太(富川一福役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■曽我廼家寛太郎(小山田正憲役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村鴈治郎(大山鶴蔵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami