『おかえりモネ』第20週「気象予報士に何ができる?」
第98回〈9月29日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

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2019年11月5日、百音(清原果耶)が初めてコミュニティFMで天気予報をはじめた。みんながあたたかく百音を歓迎してくれるかと思いきや、亮(永瀬廉)は百音の帰って来た理由を「きれいごとにしか聞こえないわ」と一刀両断にする。数年前の確執(百音がすがる亮を受け入れなかったこと・第79回)がまだ残っているのか、ひやひやした瞬間だった。
【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第98回掲載中)
なつかしいアメパト
コミュニティFMで百音がかけた曲は「アメリカン・パトロール」。悠人(高田彪我)も三生(前田航基)も耕治(内野聖陽)もまず曲に反応する。それは中学時代、百音が結成した吹奏楽部で演奏した思い出の曲だったから。この頃の百音は明るかった。まだ震災前で、未来は根拠なく開けていた。その時の曲をかけるということは百音が初心に戻ったということだろうか。百音はたまたまCDがあって懐かしかったからと相変わらず言い方が控えめ。それでも、悠人も三生(すっかり僧侶の格好が板について貫禄すらある)も未知(蒔田彩珠)もうれしい。夜、百音の家に集まってひとしきり盛り上がる。ちなみに三生の「般若心経はテクノだよ」は名台詞だった。
百音の天気予報は一生懸命なあまりにきめ細かく、あまりに長くなって、小山(佃典彦)に「もう少し楽しい話題もお願いします」とたしなめられる。百音は東京で気象予報をはじめた時も海の危険を伝えてばかりいて、子供が海を怖がるというご意見をもらっていた。
また同じことを繰り返しているわけだが、東京の3年間はなんだったのか。
未知と亮
第98回の見せ場は亮と未知。未知が亮を迎えに行くと、残された三生と悠人と百音は、未知と亮の関係について話題にする。百音は「いい感じ」と考えるが、悠人は「微妙」と迷っている。とそこへふたりが帰って来る。並んだふたりはあきらかに距離が近くなっているのだが、付き合っているかははっきりしない。蒔田と永瀬の演技がおそらくその「微妙」さを表現するためにお互いに気やすくならないようにやや不自然なまでに一定の距離を保っているようなところが絶妙だ。
人間は仲良くなると自然にかすかに触れ合ったり重心を相手に寄せていったりするようなところがあることに思い当たる人も少なくないだろう。未知と亮は互いの重力に引っ張られないように気を使っているように見える。並ぶ距離は近いのに全然触れ合わず、体も傾かず、まっすぐ立っている雰囲気が、磁石がある一定の距離までは引き寄せられそうで引き寄せられない、でも何かのきっかけで一気に近づくような、ちりちりした緊張感に近い。
おそらくふたりの俳優は意識的に演じているのだろう。でも未知は酒が強くていつも潰されると亮が言うとか、亮が船を買うことを未知が先に言いたそうな感じとか「最後泣くか怒るかどっちか」「うそだよそんな」「ほら怒った」「うるさいなあ」とか言葉尻が明らかに親しい感じは隠しようがない。

注目はここからだ。
百音の行動を外側から冷静に見る役割は東京編では莉子(今田美桜)だった。彼女は百音のやっていることを「人のためじゃなくて自分のため」だと指摘した(第57回)。さらに翻れば、菅波(坂口健太郎)が「あなたのおかげで助かりました」という言葉は真に受けてはいけないと麻薬に例えて言っていた(第10回)。
ドラマを観ていて視聴者が主人公を良く描こうとすることに対してふと疑問に思いそうなことをほかの登場人物が代弁することでバランスをとる工夫は作劇にはよくあることではある。『モネ』で面白いのは、そこに人間臭さがあることである。とりわけ亮の描き方にそれが見える。
亮は震災で母や家や経済的基盤を失った。父親というある種の最も身近な目標すら新次(浅野忠信)が心折れてしまったことで不在のようなものである。たったひとりで生活のために頑張っている亮が、何も失うことなくむしろ次々手に入れて地元の負の部分から目をそらすように(実際はそうではないのだが)東京に出ていった百音がいろんなものを手に入れた者として持たざる者たちの元に戻ってくるように見えるのも無理はない。
しかもそれだけでなく、いろいろ失った亮が一瞬でもいいから助けてほしいと求めたときに百音は拒否したのである。その時の想いはたとえ未知がいても完全には埋まることはできないだろう。

明確には描いていないけれど深掘入りしていけば、都会で様々なものを手にいれた百音が、地方で地道に生活している亮と未知にはまぶしく見えてしまっているのではないか。本当はそんなことなくて亮も未知も尊い生き方をしているのだけれど、当人たちはつい引け目に感じてしまう、そのどうしようもない葛藤が「なんで帰って来たの?」「きれいごとにしか聞こえないわ」のぶっきらぼうな言葉として表出する。しかもそれを悠人も三生も寝たふりして聞いているところが切ない。
「きれいごとにしか聞こえない」と言われた時、それでも地元のために残る。それこそが百音の課題である。自分が選択したことを他者にどう思われようと遂行する。これもまたゆっくり時間をかけて百音が挑んでいることなのである。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami