大人計画主宰、シアターコクーンの芸術監督、コントの名手松尾スズキが毎回ひとりの女優とがっぷり四つに組んで繰り広げる至極のWOWOWリジナルコントドラマ『松尾スズキと30分の女優2』が3月13日(日)からWOWOWでスタートする。今回は脚本・演出・出演を務める松尾スズキにインタビューを実施。
「他にはないコント番組」と語る松尾に、それぞれの女優の魅力や、「オリジナリティのある世界観が作れていて、その世界観を完璧に理解した女優さんが見事に演じてくれている」という本番組の魅力に迫る。

【写真】生田絵梨花も熱演のコント『音楽祭』、『松尾スズキと30分の女優2』ほか場面カット【5点】

本作品は、松尾スズキが毎回ひとりの女優と組んで繰り広げられる各話30分のオムニバスコントドラマ。コントの名手として数々の作品を手掛けてきた松尾が描く“松尾ワールド”に今回いざなわれる女優は生田絵梨花 、松本穂香松雪泰子天海祐希(放送順)の4人。さらに、オクイシュージ、伊勢志摩、近藤公園、皆川猿時、村杉蝉之介、町田水城ら個性豊かな面々もゲストとして出演する。

また、脚本家としては、松尾スズキのほかに、「バカドリル」の著者としてカルトな人気を誇り、小説家、劇作家、アニメーターなどとして多方面で活躍する天久聖一と、演劇ファン注目の劇団「地蔵中毒」を主宰する大谷皿屋敷の2人が第1弾に続いて参加している。

なお、「松尾スズキと30分の女優2」は3月13日(日)午後11:00~WOWOWプライムで放送、WOWOWオンデマンドで配信開始。
第一話放送終了後にはWOWOWオンデマンドで全4話の配信が開始となる。

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――まずは、第1弾の放送をご覧になった感想からお願いします。

松尾 スタッフが頑張ってくれて映像的にも質の高いコント番組になりましたね。『ゴッドファーザー』のパロディなんて、照明がすごくかっこよくて、その効果で僕が意外とマーロン・ブランドに似てくるという(笑)。そういう世界観の構築はうまくいったなと思います。

――こういう作り込まれたコントはあまり見たことがないなと感じました。


松尾 いわゆるバラエティ番組のコントじゃない、作品としてのコントが作りたかったんですよね。カメラがあらゆる方向から入って、作り手の色がちゃんと見える番組というか。現場でスタッフが誰も笑ってくれないツラさもありましたけど。

――第2弾にもそうそうたる女優陣が出演されますが、それぞれの起用理由と見どころを教えてください。まずは第1話の生田絵梨花さんから。

松尾 生田さんは『キレイ-神様と待ち合わせした女-』(松尾作・演出のミュージカル。
生田は2019年の公演で主演を務めた)でご一緒したんですけど、現場で僕がポンポン出すアイデアに飛びついてモノにするスピードがすごく早いんですよね。そこに躊躇がない。バラエティ番組とかで鍛えられてきたんだろうなっていう。本当の芸人がすぐ横にいて、彼らの凄みっていうのをきっと知っているから、笑いのできる人が場を制圧するっていうヒエラルキーはどこか感じているとは思うんですよね。そういう世界で育って、歌は上手いし、踊りも踊れるっていう、かなりのポテンシャルを持った女優さんだなって。

――そんな生田さんのポテンシャルを一番感じたシーンはどこですか?

松尾 『音楽祭』のコントで、生田さんは、あの歌のうまさをあんなくだらない歌詞の中でも発揮できるのはすごいですよね。
笑いに対してのハードルがなくて、どこまでも許容してくれるから、こっちもどこまでも求めてしまって、撮り終えた後で事務所にこっぴどく怒られるんじゃないかって心配とのせめぎあいです(笑)。

――第2話の松本穂香さんは松尾作品初挑戦ですね。

松尾 実は松本さんのドラマや映画を拝見したことはなかったんですけど、CMで見る感じとか、YouTubeで芸人さんとコラボしたり、ひとり語りのコントをやったりするのを目にする機会があって。あと、雑誌でコラムを連載されてるんですけど、映画に対する感想がすごく的確で、頭のいい人なんだろうなっていう思いがあって。それで今回、一か八かのチャレンジでオファーしてみました。

――実際に撮影してみていかがでしたか?

松尾 すごかったです、彼女の笑いに対する針の振り切り方は。
普段はテンションが低い方なんですけど、よーいスタートでパーンと一気に笑いのテンションに変われるんですよね。本編にはあんまり入れられなかったんですが、タイトルコールでくだらないことを言うっていうのを、実は10本以上撮っていて。それは一つ一つ違うテンションでやらなきゃいけないんだけど、見事に全部一発でクリアしたんです。底知れない恐ろしさを持ってるなって。それでいて、あんなに透明感もあるのが、くだらなさを増幅させる。シリアスなことだけやらせとくのは非常にもったいない人ですね。


――第3話の松雪泰子さんは松尾作品の常連とも言えます。

松尾 松雪さんは『キャバレー』(2007年)や『キレイ-神様と待ち合わせした女-』(2014年)など僕の作品にも出てもらっているし、僕の作る世界観をすごく理解してくれていて。それに、笑いに対する理解度も非常に高いんですよね。

――今回のコントも気負いなくフラットに取り組んでいらっしゃるように見えました。

松尾 コントの経験を伺ったら、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)の初期メンバーだったっておっしゃっていて(1991~1992年に出演)。やっぱり、ああいう人たちを目の当たりにしてきたっていうのは大きいことなんだなって思いますね。松雪さんには長尺のコントを3本やってもらったんですが、どれもハマり役でした。

――『寒くはないとよ』というコントで演じた、でたらめな九州弁を話す居酒屋の女将も最高でした。

松尾 あれだけで1時間半撮りたいですもん(笑)。あの九州弁がたまらないですよね。普通なら「これは、本当はなんて言ってるんですか?」とかって聞くと思うんですけど、すぐにこちらの意図を理解してくれて、何にも聞かずにやってくれて。さすがですよね。

――第4話には天海祐希さんが登場されます。

松尾 天海さんとは20年以上前に『パンドラの鐘』(1999年)っていう野田(秀樹)さんの舞台でご一緒していたんですけど、数年前に映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年)で久しぶりにご一緒して。「天海さんって1シーンの役でも出るんですね」って言ったら、「出ますよそんなの、松尾さんの作品でも使ってくださいよ」っておっしゃったのを根強く覚えてまして。「絶対ですよ!」って念押しして(笑)。そうしたら、すごいお忙しい中だったのに出てくださいました。

――嬉々として演じていらっしゃるのが画面からも伝わってきました。

松尾 いろんなパターンのかっこいい天海さんを見ることができますよね。“かっこよくだらない”っていう。天海さんはコメディに対する姿勢がちゃんとしてるっていうか、スタイルがあるなって思うし、でも逆に、それを崩すことも厭わない、なんでも言うこと聞きますよっていう感じで現場に来てくれるんです。それにちょっと現場が停滞してると、みんなに檄を飛ばしてくれたりして。僕より座長感がありました。

――『スニーキー狩り』というコントでの天海さんの軍服姿にはキュンとしました。

松尾 あれはシーズン2の締めを飾るにふさわしい、いろんな要素を入れ込んだコントになりました。『進撃の巨人』ファンにもウケるんじゃないかなって(笑)。見たことはないんですけど。

――今回、松尾さんご自身もいろいろなキャラクターを演じられていましたが、お気に入りのキャラクターはいますか?

松尾 『スニーキー狩り』で演じたバルマンは、声優の声で喋る実写の俳優っていう新しいジャンルを切り開きましたね(笑)。あと、ショーンKさんと高倉健さんを意識したキャラクターもやったんですけど、それもちょっと道を切り開いた感がありました。還暦間近になって、開けたことのないドアが次々と開いていくっていう不思議な現象が起こってます。

――松尾さんにとっても新たな挑戦となった今作ですが、改めて見どころを教えてください。

松尾 コントごとにオリジナリティのある世界観が作れていて、その世界観を完璧に理解した女優さんが見事に演じてくれているところですね。しかも、それが1本にひとつじゃなくて、1本の中でいくつも見ることができる。そこがやっぱり、他にはないコント番組だなって。WOWOWっていう枠にとらわれず、英訳して世界の人に見てもらいたいです(笑)。そうしたら、天海さんにハリウッドから声がかかるんじゃないかなって。天海さんが日本のシガニー・ウィーバーと言われる日も近いですよ(笑)。

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