ワインを楽しむのに最も大事といっても過言ではないのがグラスです。大きくふくらんだ形のワイングラスは、単に雰囲気を演出するためにそうなっているわけではありません。
今回はワイングラスをはじめとするワイン関連アイテムの輸入・販売を手がけるグローバルのマーケティング本部 副本部長の中田学氏に、ワイングラスの重要性と選び方を聞きました。
○ワインを楽しむのに最も重要なのはグラス
ワインを楽しむのに壁となるのが、飲むまでの準備です。ワインを保管するワインセラーや、コルクを開けるためのソムリエナイフなど、ワイン以外に必要なものが多すぎてハードルが高くなってしまうのです。
とはいえ、ワインは冷蔵庫に入れておけば大丈夫ですし、コルク栓ではなくスクリューキャップのワインを選ぶようにすればソムリエナイフも不要です。高級ワインは別として、自宅で普通にワインを楽しむだけなら、実はそれほど面倒なことはありません。
ただ、自宅であっても、これだけはなんとしても用意してほしいのがワイングラスです。なぜなら、コップとワイングラスではワインの香りや味わいに大きな違いが出るからです。
もちろん、ワインの液体そのものが変化するわけではないのですが、人間側の感じ方が変わるのです。
もっと突き詰めれば、ワインのタイプとワイングラスの形の組み合わせによっても、香りや味わいの感じ方は異なります。
今回、グローバルの東京ショールームで、中田氏にワイングラスによる違いをレクチャーしていただきました。
まず、体験したのは「コップのように小さなグラス」と「大きくふくらんだワイングラス」の比較試飲。
どちらも同じ白ワインですが、香りの感じ方が驚くほど違います。小さなグラスでは、せっかくのワインの香りがあまり感じられません。一方で、大きくふくらんだワイングラスは、芳醇な香りがしっかりと感じられます。ワイングラスの大きなボウル(ふくらみ)部分は、香りをしっかりと溜め込むための構造なのです。
続いて、グラスの形状による違いを試飲で比較しました。ワイングラスと一口に言っても、その形はさまざまです。球体のように横に大きく広がる形もあれば、縦に長い形もあります。あの違いは、いったい何のためなのでしょうか。
ここで用いるのは赤ワインです。
赤ワインは大きく分類すると2種類あります。一つは、渋味が強く、飲みごたえのあるフルボディタイプ。もう一つは、渋味が穏やかで華やかな香りが特徴の軽やかなタイプ。
今回は前者のタイプであるボルドーワインを、横に大きく広がる形状の「ブルゴーニュグラス」と、横幅はそこまで広すぎず直線的に縦に伸びる「ボルドーグラス」の2つのグラスで比較しました。
どちらもボウルは大きいので、香り自体はしっかりと感じられます。ブルゴーニュグラスのほうが香りが広がる印象で、ボルドーグラスはいろいろな香りがくっきりと表れるような印象です。ここは好みですが、どちらかといえばこうしたフルボディの赤ワインはボルドーグラスで飲むほうがおすすめでしょう。
そして、香り以上に違いが出るのが、味わいです。
ブルゴーニュグラスも悪くはないのですが、やや酸味が強調されて感じられます。一方のボルドーグラスは、このワインが持つ複雑さがしっかりと出ている印象です。
この2つの違いは、飲む際の顔の角度からきているといいます。
ふくらみが少ないボルドーグラスは、顔をそれほど上に向けなくてもワインが口の中に流れ込んできます。そのため、ワインは舌の中央に注がれたあと、横方向にも広く流れます。この動きが、ワインの持つさまざまな要素を口いっぱいに広げてくれるわけです。
一方で、ブルゴーニュグラスはふくらみが大きいため、飲む際の顔の角度がボルドーグラスよりも上向きになります。
今回試飲したボルドーワインは、力強い果実風味があり、赤ワインらしいしっかりとした渋味が特徴です。こうしたワインは、少しでも長く空気に触れさせてやることで複雑な香りや味わいを楽しむことができます。だから、ボルドーグラスが適しているわけです。
もし、これが華やかな香りと穏やかな渋味が特徴のブルゴーニュワインだったら、逆にブルゴーニュグラスのほうが向いているでしょう。
ワイングラスには、ほかにも品種やタイプ別にさまざまな形状があります。レストランなどでは、ワインによってグラスを使い分ける店も少なくありません。グラスに着目してみるのも面白そうです。
○最初の一脚におすすめなのは万能な白ワイン用グラス
もし、自宅用にワイングラスを購入するなら、どこから始めるのがいいのでしょうか。
グローバルは多くのブランドのワイングラスを販売していますが、なかでも売れ筋なのが「プラティーヌ」シリーズです。
ボルドーグラス、ブルゴーニュグラスのほか、シャンパングラスや白ワイングラスなども展開しており、いずれも税込2,000円以下で購入できるコストパフォーマンスの高いシリーズです。
いきなりいろいろなグラスをそろえるのはハードルが高いので、その場合は“万能グラス”としてプラティーヌ ホワイトワイン(白ワイン用グラス)がおすすめ。すべてのワインのポテンシャルを80点引き出してくれる汎用性の高いグラスです。
○300年の時を経て復活したグラス「フェニックス」
もう少し高級なワイングラスで探すなら、「PHOENIX(フェニックス)」シリーズに注目です。
フェニックスのグラスが誕生したのは2014年ですが、実はそのルーツは約300年前の1725年に遡ります。
アルト・ナーゲルベルク(現オーストリア)にあった工場で、当時の名家が所有する製造所ではワイングラスがハンドメイドで作られていました。しかし、時の流れとともにグラス製造は機械化され、ハンドメイド技術は歴史の中に埋もれてしまいます。
その技術を現代に復活させたのが、オーストリアの実業家、ゲルハルト・イレック氏でした。カール・シュトルッツル社の工場跡地を購入したゲルハルト氏は、そこでガラス製作の文書と木型を発見し、当時のハンドメイドグラスを蘇らせたのです。
フェニックスのグラスの特徴は、香りや味わいを引き立てるよう緻密に計算されたフォルムと、繊細な口当たりを実現する薄い縁、持つとすぐにわかる軽さにあります。
高額ですが、それに見合うワイン体験が得られるでしょう。
実際にグラスを見てみたいという場合は、事前予約のうえ、東京や大阪、札幌、名古屋、福岡のショールームを訪れることもできます。
6月10日には、料飲店やホテル、酒類業界の関係者を対象としたグローバル主催のイベント「WINE TOKYO 2026」を八芳園で開催するとのことです。
ワインはグラスによって大きく体験の質が変わるお酒です。これまでワインをあまりおいしいと思わなかったのであれば、もしかするとそれはグラスが原因かもしれません。ぜひ一度、適したグラスでワインを楽しんでみてください。
山田井ユウキ/ワインエキスパート ワインも含め興味のおもむくまま多ジャンルで執筆するフリーライター。ワインの物語を伝える“ワインストーリーテラー”として活動中。著書に『ワインの半分は物語でできている。』など。[有資格]ワインエキスパート/WSET Level3/ドイツワインケナー/第8回J.S.A.ブラインドテイスティングコンテスト・ファイナリスト この著者の記事一覧はこちら
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