レビュー

古典文学と聞くと、どこか遠い世界のものに感じてしまう――。この感覚は、おそらく現代を生きる多くの人が共有しているものだろう。

要約者もその一人である。だが本書を読み終えたとき、古典文学はぐっと身近なものへと変わっていた。
著者の三宅香帆氏は今をときめく文芸評論家である。著書の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』や『「好き」を言語化する技術』は、ここ数年を代表するベストセラーとして、幅広い世代から支持を集めている。
そんな三宅氏の新作である本書は、月刊『なごみ』に連載されていた「今さらながらの古典再入門」に加筆修正を施し、一冊にまとめたものだ。当初は大人になってから読みたい古典文学を紹介する企画として始まった連載だが、書き進めるうちに、「日本文学史の文脈を更新する作品は、いつだって新しさをもっている」という気づきを得たという。
たとえば「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとして、するなり」という書き出しで知られる『土佐日記』。作者の紀貫之は、男性は漢文を書くのが当たり前だった時代に、あえて仮名文字で、女性になりきって紀行文を記した。しかもその挑戦は65歳を過ぎてからのものである。この年齢で新たな表現に踏み出す大胆さには、驚かされるばかりだ。
さらに、現代の会社員がSNSに書き込むようなトーンで職場(宮中の女房勤め)の不満を綴る『紫式部日記』や、ルッキズム批判の萌芽とも読める『堤中納言物語』の「虫愛づる姫君」など、今読んでも新鮮な作品が数多く取り上げられている。読み進めるほどに、古典文学を愛おしく感じている自分に気づくはずだ。

本書の要点

・「子育てが一段落してからはじめて社会に出たお母さん」だった紫式部は、職場の愚痴を『紫式部日記』に数多く書き残した。彼女が内に抱えた負の感情が、『源氏物語』を生み出す原動力になったと考えられる。
・『堤中納言物語』に収められた「虫愛づる姫君」で、主人公は、「みんな花や蝶など、見た目ばかりに惹かれますが、それは浅薄では?」といった発言をしている。これは早すぎるルッキズム批判だと捉えることもできるかもしれない。



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