【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】#4


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


萩本「スポンサーの方ばかり向くと、作りたいものは作りにくくなる」


増田「僕はいまコント55号みたいなコンビが出てきたら大ウケすると思います」


萩本「やっぱり、あのー、そこはね(笑)」


増田「実は名人、名人芸なんですよね。ただ困ったような“間”に見えるけども名人芸」


萩本「修行とお勉強は違うのよ。昔は芸能界とは修行だったんだね。いまテレビはお勉強だから。修行と勉強はもう全く違うもんだから。いまお勉強する人がテレビ出てる。修行してる人はもういなくなった」


増田「修行っていうのは若いときに叩き込まれるいろんないろんな意味の」


萩本「そうです。私の場合はもちろん浅草時代。まず一番最初に大事だったのは、私が入って3日目に先輩が『おまえ何してんだよ』って言われてね。先輩にいろいろ教わって急いでノートに書こうとしたら『書くんじゃない』って怒られた。一番最初に怒られたのは書くんじゃないってこと」


増田「なるほど」


萩本「この仕事は体が覚えるんだ。書くと頭で覚えてしまって芸が死んでしまう。

頭だけで覚えては笑いができなくなるから。それまで言われたことは体に入れろって。だから、見たらもうすぐ格好を真似して、こうやって、もう、もうこうやって体に入れろって言われて。だからみんなあのネタ本があるとか、書いたもん書かいちゃダメって。だから浅草で、書いてる人いなかったですもん」


増田「つまり修行というのは体に入ってくるもので、今はお勉強だから頭に入ってくる」


萩本「そう、そう、そう。だから、だから頭で考えたこと、テレビは言葉ですから。それはもう修行した人にかなわない。特に今はディレクターもプロデューサーもいい大学出てますから」


増田「みんなそうなるってこと。頭だけで考えて」



修行の場がなくなった

萩本「タレントもそう。勉強のできる頭で考えようとするテレビマンたちに一番近いことを思ってる人がいまテレビ出てるんで」


増田「逆に言えば修行をした人は通用しないような、今テレビになってるってことですか?」


萩本「通用しないじゃなくて、修行してる人がいない。浅草も崩壊しましたから。ものすごく修行にいいところだったんだけど」


増田「いまは修行の場がない」


萩本「ないの、劇場が。

それはやっぱりバブルで、300円の入場料取ってるって土地がもったいないから、みんな建て替えて、みんなマンションになったりスーパーになったり。修行の場、土地がもったいないって言ってみんななくなりましたから、浅草も」


増田「なるほど」


萩本「ところが関西にはね、そういう劇場がまだあるんだ。だから関西で育った人はまだ修行している人がいるから、その人たちが今テレビをやってるんじゃないですか」


増田「たしかに関西出身者のほうが元気がいいですよね」


萩本「テレビってタレントが言ったり、ディレクターがあーだこうだ言って、それダメ」


増田「会議は?」


萩本「もうまず会議してるのダメ。打ち合わせ? 打って合わせるなんてことはありえないって。打ったら鼻血が出るだけだよ。合わせたら抱き合うだけだよ。そんなことやったって番組はできないって。私は作ってる時は一切聞かないし、その代わり全部作んないんですよね。『ハガキを読む番組』以上! って。それを渡したらあとはもうディレクターがそこから考える。会議なんかして、みんながやってることっていうのは同じ番組ができるだけだからダメなの。任せる。

任されるとみんないい仕事する。下までいい仕事する。余計なこと言わないこと」


つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。

3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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