【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「年をとるとだんだんと上の方が減ってきますからね」


萩本「そうそう。それに気がついたのは80歳ですね」


増田「4年くらい前」


萩本「うん。だから、今度は私が恩のあるようなことを若い人にしてあげるって、その役なのかなって。でもまだね、なんかいいセリフ言ってくれる人いないかなとは思ってる。ふわっと学ばされる粋な言葉」


増田「そういう人が現れないかなという気持ち。最近そういうことはあまりないですか」


萩本「それがあったんです。昨年5月にBS日テレで顧問をされている中山良夫さんのとこに行ったの。フジテレビの騒動でもそうですけど、テレビはスポンサーの力が強い。なので、スポンサーなし、出演料もなしって番組ができないかなって企画を持って行ったら、中山さんは『こんなでかい話を持ってきた者はいないよ、俺のところに』って最初に言ったの。続いて出てきた言葉が良かった。『でかすぎだな、でかすぎだからやる』って。いい言葉でしょ。

『でかすぎるからやる』って」


増田「なるほど。素晴らしい言葉ですね。それがBS日テレの番組『9階のハギモトさん!』*ですね」


※『9階のハギモトさん!』:萩本欽一が出演するトーク番組でBS日テレで放送されている。番組の設定は「ビルの9階にいる萩本さんの部屋」。そこを訪ねてくるゲストと、萩本欽一が人生や仕事、芸能の裏側について語り合う構成になっている。若い芸人や俳優、文化人なども訪れ、萩本が自身の経験をもとに助言や独特の視点を示すのが見どころである。タイトルの「9階」は、かつてテレビ業界で言われた「困ったら9階の萩本さんに聞け」という逸話を踏まえたもので、番組作りの知恵袋としての萩本欽一というイメージを象徴している。


萩本「そうです。そういう人が出てきたら番組はほとんど100%当たる。恩返しで仕事すると当たる」


増田「実は今日はまず、現在のテレビの問題と、これからどうしていくべきかということをぜひ萩本さんにお聞きしたいと思います。それをお聞きしてから幼少時代から現在までの歴史を聞かせていただければ」


萩本「あーなるほど。そういうことですね。

問題点とか」


増田「そうです。やはりかつて視聴率100%男*としてテレビ界を席巻した萩本さんだからこそ見えるものがあると思うんです」


※視聴率100%男:萩本欽一が「視聴率100%男」と呼ばれたのは、1970年代後半から1980年代にかけ、出演する番組が次々と高視聴率を記録したためである。代表的なのは『欽ちゃんのどこまでやるの!』『欽ちゃんの週刊欽曜日』などで、いずれも当時のテレビ界では驚異的な30~40%台の高視聴率を連発した。当時やっていた番組をすべて足すと実は100%を大きく超えていた。



「今のテレビは面白すぎてつまらなくなったの」

萩本「わかりました。ええと、最近はテレビは見てるけど……いや見てるというか聞いてるのかな。テレビ全体の話をすると、昔はテレビを見てたのね。今はテレビを聞いて——聞くっていうのはつまり『知りたい』なんです。だから数字を見ると(視聴率が高いのは)ニュースなの。観たいっていうのはスポーツだけなんだよね。スポーツの視聴率見ると、まず大相撲。相撲が約半分が視聴率いくわけね。

大谷が来ると2番に野球。1番と2番にこの2つが入ってくるのね。だからスポーツは見る。でもバラエティーどこにも入ってないよ。知りたいはないし。つまりそういうこと」


増田「もう少しその辺りを詳しくお聞かせください」


萩本「だから、知りたいっていうのと、聞いて得するってのを少し入れないと、これからのテレビはやっていけないんじゃないかな」


増田「どうしてそうなってしまったんでしょう」


萩本「昔はね、テレビなんていうのは恐ろしく高い山で、私が浅草で修行していた頃は『10年ぐらいの修行してからそういうところに行くんだよ』って言われてたんです。だから必死になって修行をしたんだよね。今、テレビでみんな活躍してる子はみんな大学出。しかも最近笑いにもとってもいい大学出た人が次々に来てる。そういう点ではね、笑いがもう大きく変わった。その人たちが何をこれからしていくんだかわからないけれど」


増田「変わってきたことに対して、萩本さんの感想は……」


萩本「ですから、みんなお上手ねって。テレビでいうと、簡単なこというと、よくみんな『最近のテレビはつまんない』って言うけど、それは間違いで逆よ。

テレビは面白すぎてつまらなくなった」


増田「面白すぎる?」


萩本「そう。面白すぎるんだよ。面白すぎるとどうなるかつうと、スポンサーがついて、どんどん値段が高くなるの。で、視聴率が下がったからって値段は下がらないんですよ。だからずーっとやってるんですよ。制作費とスポンサー単価が上がって、視聴率落ちても規模が縮まらずに硬直化しちゃってる。そうすると新しくテレビに入った人は仕事をする場所がないんですよ」


増田「芸人のことですか?」


萩本「うん。新人のこと。主役でやるっていう枠がない。そういうことも含めて、俺が『9階のハギモトさん!』を始めたのは『BSってあるじゃないの。そこをもっと若い人に活躍するような場所に育ててみようよ』っていうこと。優れた大学出た人たちがなんか起こすとか。

いきなり数字ってなかなかいかないんだからさ。で、いかないと今はもうテレビ局もきついから」


つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。

現在、拓殖大学客員教授。


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