「廃用身」と書いて「はいようしん」と読む。麻痺などによって回復の見込みがない手足をさすらしい。
本作は病苦にある高齢者がこの廃用身を切除するドラマ。医師と患者の静かな感情のぶつかりと世間の反応を猟奇的なミステリー仕立てで重厚に描いている。
医療雑誌の記事に興味を抱いた編集者の矢倉(北村有起哉)は治療を受けたかず子を取材する。麻痺した左腕を切断したかず子は「憑き物がとれたみたいだ」と微笑み、同じような患者が何人もいると明かした。
矢倉は同クリニック院長の漆原(染谷将太)と面会する。漆原はまだ35歳。老年期医療の可能性を感じていると言い、高齢者の満足を追求しつつ負担を減らす秘策があると熱心に語った。それがかず子が受けた廃用身の切除だ。
発端は両脚と左腕の自由を失った岩上(六平直政)だ。岩上は家族から介護を放棄され、虐待も受け、敗血症で命の危険に陥ったが、左脚の切断を決意。
その後、認知症のきくゑは介護疲れした娘の希望で両脚を切断。右腕の麻痺と言語障害に苦しむコトエは腕の切断を申し出る。不思議なことに切断手術後、2人の症状は改善していく。
だが、こうした革命的な治療を週刊誌が糾弾。漆原は追い込まれ、さらに悲惨な事件も起きて事態は混迷するのだった……。
この映画のストーリーは玉虫色だ。角度によってさまざまな印象を与える。染谷将太演じる漆原医師のキャラがクールだからマッドサイエンティストのイメージも漂うが、もともとは患者と家族によかれと思って始めた治療だった。実際に認知症の改善効果もあった。
漆原の性癖をうんぬんすれば彼は悪魔に思えるが、医師の良心と前向きに評価すれば天使に見える。この映画はそうした玉虫色を観客に突きつけ、「ご自由に解釈してください」と突き放しているようだ。それゆえ単なる医療ドラマを超え、人間とは何ぞやという哲学的テーマに向かうことになる。
メガホンを取った田光希監督はこう語っている。
「この作品は、誰もが自身の未来を映し出し、息を潜めて向き合わざるを得ない問いを、優しく、しかし容赦なく投げかけます」「どうか、目を背けないでください。ここに映るのは、誰かの母でもあり、父でもあり、やがてあなた自身でもある、避けられない現実です」
おそらく本作を数人で見たら、劇場を出たあとで「俺はこう思う」「私はこう感じる」と議論になるだろう。筆者は見終えたとき、なぜか「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉を思い出した。この映画の難解さゆえ、フラッシュバックのように現れた幻影である。(TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中/配給=アークエンタテインメント)
(文=森田健司)

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