【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#291


 トット


  ◇  ◇  ◇


「THE SECOND 2026」で“念願の全国ネット”優勝したトット。「何者でもなかった僕らが……」という優勝会見の言葉が涙を誘いました。


 高校の同級生コンビでNSC大阪27期生として入学。彼らは昔からとにかく礼儀正しくて生真面目でした。2人ともイケメンなのに生真面目すぎて「弱肉強食のお笑いの世界で大丈夫かいな?」と心配になりました。


 16日の優勝後、電話で多田君に聞いたら「オレらがこんなに目立ってええんやろか? みたいな……変な遠慮がありました。今思えば芸人としてはありえなかったですね」と語っていました。根拠のない自信と押しの強さで押し切る生徒たちが圧倒的に多い中、才能が埋もれてしまってもったいないと、はがゆさを感じていました。


 NSC時代は素人にしては及第点。生き残れるだろうけれど、売れるには相当な努力が必要だと感じました。と、同時に「こんなええ子たちはぜひ売れて欲しい」と思ったのも正直な気持ちです。


 卒業後は、4年ほど活動してコンビを解散。その1年後「天才だらけの世界で、取り立てて才能もないし、この世界から足を洗おう」と思っていた多田君に、桑原君から再結成の誘いが。当時、劇場担当の構成作家に相談すると「やったらええやん! 君らみたいなイケメンのコンビはおらへんねんし、死に物狂いでやり切ったわけでもないねんから、伸びしろしかないやんか。

辞めんのはいつでも辞めれるやん!」と背中を押してくれ、再結成に至りました。


 その後も芽が出ない時期が続き、2010年ごろから、私が若手の劇場を指導するようになり、「もっとインパクトの強い言葉探せよ!」「まだまだボケ考えられるやろ? このへんでええかて、簡単に妥協してへんか?」と意識的にキツめのダメ出しを重ねていました。桑原君は、他のコンビへのダメ出しも私の後ろでずっと聞いていて、再結成後は明らかにやる気が違いました。


 徐々に頭角を現し、ローカルでは受賞しはじめたものの、全国ネットでは……。それでも「もっと厳しい環境を求めて」東京へ進出。ネタを作っては改良を繰り返し、大きな笑いを取れるようにはなりましたが、それでもなかなか「M-1」には届かず……。さらに奮起して年間800回を超える舞台をこなし、「THE SECOND」優勝につながりました。


 今回のネタも王道で、身近なこと、彼らの年代なら体験するであろうことを、お客さんにもイメージしやすい表現で笑いを取るスタイルでした。奇想天外というより、キャリアを重ねて練りに練った作品ともいえます。


 電話した際、多田君には「ツッコミは職人やからもっともっとうまくなってやるという意識で稽古を続けや」と言うと「まだうまくなれますか?」と聞くので「伸びしろだらけ! ツッコミがうまくなればなるほど、ボケは生きてくるから頑張って!」「わかりました! 頑張ります!」と直立不動でスマホをかけている律義な姿が想像できました。


 これから結婚など人生経験がそのままネタに還元されて、より多くのみなさんに喜んでもらえるいいコンビになっていくと思います。


(本多正識/漫才作家)


編集部おすすめ