最強の爆発を起こした「金属バット」になぜ「トット」は勝てたのか 『THE SECOND』で示された2つの正解
最強の爆発を起こした「金属バット」になぜ「トット」は勝てたのか 『THE SECOND』で示された2つの正解

テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。

今回は、先日開催された『THE SECOND~漫才トーナメント~2026』についてテレビウォッチャーの飲用てれびが解説する。

話題をかっさらったのは準優勝の金属バット

出場資格は結成16年以上。全国ネットの漫才賞レースでチャンピオンになっていないこと。M-1の出場資格を失った世代を含む、全国ネットの漫才賞レース番組で優勝していない漫才師たちの大会『THE SECOND』(フジテレビ系)が5月16日に放送され、トット(多田智佑・桑原雅人)が4代目王者となった。

だが、大会後に大きな注目を集めたのは、決勝で敗れた金属バット(小林圭輔・友保隼平)かもしれない。理由は明快だ。彼らは「ボケは一度きり」という、賞レースでは異例の手法で会場を揺らしたからである。

金属バットが決勝で披露したのは、畜産農家を題材にした漫才。センターマイクの前に立つと、小林が「お前に聞いてほしい話があるんやけど」と切り出し、畜産農家の夫婦の話を始めた。

夫婦は共に50歳で子どもはいない。その分、飼っている牛や豚に名前をつけ、深い愛情を注いできた。そんな折、イギリスからホームステイの若い女性を受け入れる。夫婦は牛肉のステーキでもてなす。

しかし、彼女はヴィーガンだったので断られてしまう。夫婦は代わりにパンを持ってきた――。

金属バットらしい不穏な笑いの種が随所に潜むエピソードだが、小林は淡々と語り続け、友保もツッコまずに「うん」「ほん」などと相槌を打って聞き続ける。笑いどころがないまま4分10秒以上が経過。見る者が「これはどこへ向かうのか」と何周目かの不安に駆られ始めたところで、均衡は唐突に破られた。

「で、ここでさ、お前に聞きたいんやけど、この、食べられないパンってなーんだ?」

長い溜めの末に放たれたのは、拍子抜けするほどくだらないなぞなぞだった。蓄積したマグマが吹き上がるように、客席は爆笑に包まれた。

漫才の賞レースでは、制限時間内にどれだけ効果的にボケを詰め込めるかが評価の対象になりがちだ。しかし、今回の金属バットの明確なボケは最後の1つだけ。優勝を狙ってこのネタだったのか、自分たちの笑いを貫いたのか。真意は2人だけが知るところだが、いずれにせよ、彼らなりの「勝ち」を掴みに行った結果だったのだろう。

ブラックマヨネーズをほうふつとさせたトットの漫才

振り返れば、1回戦と準決勝のネタは金属バットらしさを残しつつ賞レース向けに調整されていた。象徴的なのは準決勝で披露し、グランプリファイナル史上最高得点を記録した「祝日ランキング」。

誰もが知る祝日という題材を、わかりやすいランキング形式で包み、自分たちの「いかつさ」が添えられていた。こうした糖衣に包まれたような「いかつさ」を1錠、2錠と飲み込んでいたからこそ、決勝でのボケのないエピソードに散らばった「いかつさ」の種にも引き寄せられ、観客は今か今かとマグマを溜め続けたのだろう。

「環境に合わせることもできますよ」という姿勢を途中まで見せつつ、最後の最後に「環境のほうが俺たちに合わせろ」と突きつける。その技術と胆力に、笑いつつ舌を巻いた。

しかし、である。優勝したのは金属バットではない。トットだ。彼らのネタの完成度とおもしろさこそ、もっと話題になるべきだ。

1回戦と準決勝のネタはいずれも、少数派扱いされがちな多田に桑原が理詰めで迫る構成だった。1回戦で言えば、多田は電子マネーを使わない頑固な現金派。桑原は、現金派がいるせいでレジが混むと主張し、多田に考え直すよう迫る。多田は「セルフレジ行ったらええやん」と反論し、桑原は「セルフレジは買えないものがあるんですよ。

お酒とか」と再反論する――。

理屈の応酬を軸にした漫才は珍しくない。原点としてしばしば挙げられるのは、2005年のM-1のブラックマヨネーズのネタだ。しかしブラマヨの場合、少なくともネタの導入部ではボケの主張が明らかに奇妙で、「変」と「まとも」の対立が明確だった。

一方、トットの場合はどちらも極端におかしくはない。現金派にも電子マネー派にも道理がある。あえて言えば、桑原の理詰めの厳しさがやや「変」だが、世間の良識を体現しているつもりの方がちょっと「変」という点でひねりがある。トラブルが「正しさと正しさの衝突」と見なされがちな時代を背景に、ブラマヨ的な構図が現代に更新されている。

トットの対立は徐々にズレながら展開していく。滑らかなシーソー構造が6分間、中だるみなく動き続け、会場を笑いで満たした。

トットが披露した優勝漫才の妙

そして決勝。トットが披露したのは、それまでの2本とは大きく異なる漫才だった。

内容は、独身の2人が「結婚して子どもがいたら」と妄想を膨らませるもの。妄想はどんどん広がり、子育て方針をめぐる考え方の違いが浮き彫りになる。そして互いの主張が激しくなっていき――ここで2人はふと我に返り、まだ独身であることを確認しあう。

観客が2人の妄想に浸り、感情移入しかけたところでハシゴを外される快感。客席は、2人の掛け合いの心地よさと、切ない独身の現実への共感で、大きな笑いに包まれた。

よくある漫才は「ありえない話」に観客を巻き込み笑いを生む。一方、トットの3本目は「ありえない話」に冷める地点まで観客を連れていき、そこで笑いを生み出す。

「ボケとツッコミで虚構を広げる」という漫才的なやり取りで高まった緊張を、「自分たちが虚構の中にいたことに気づく」ことで緩和する。漫才の新たな表現だったように思う。

トットと金属バット。制度内で研ぎ澄まされた表現と、制度から外れようとする無軌道さ。2026年の『THE SECOND』は、優勝者と準優勝者がそれぞれの「勝ち」を掴んだ大会として記憶されるだろう。

文/飲用てれび

編集部おすすめ