【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#62


 アルバム『ラバー・ソウル』(1965年12月3日発売)③


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■『ひとりぼっちのあいつ』


 前回取り上げたポールの傑作『ドライヴ・マイ・カー』に対して、ジョンは、この『ラバー・ソウル』で、暗い暗い『ひとりぼっちのあいつ』と、枯れた枯れた『イン・マイ・ライフ』を差し出す。タイトルからして暗い暗い枯れた枯れた2曲だ。


 リリースの段階でジョンは25歳。昭和の時代の名コピーに「25歳はお肌の曲がり角」というのがあったが、ジョンはさしずめ「人生の曲がり角」に差し掛かっていたのだろう。


 原題は「ノーホエア・マン」。「虚無男」ぐらいの意味か。


 というこの曲、音楽的には何といっても冒頭の見事なアカペラ三声コーラスだろう。上から順にポール、ジョン(リードボーカル)、ジョージ。世界中のビートルズ少年たちが、みんなトライして、みんな挫折した三声コーラスである。


 来日公演でも披露された。難なくハモって、コーラスの実力を見せつけた(なお、それを客席で見ていたザ・タイガースには、ライブでこのコーラスを何度も失敗し、楽屋でメンバー同士が大喧嘩になったというエピソードがある)。


 私自身も何度となくトライして(挫折して)分かるのは、いちばん下のジョージによるパートの難しさである。【オリジナル記事で試聴する


 この連載では、コーラスグループとしてのビートルズの実力について、何度となく触れているが、その実力の裏には、目立たないところで音程をピシッと決めているジョージの貢献があってこそだということを忘れてはいけない。


 そんな「ピシッとコーラス」で歌われる歌詞は、暗い、というより、何ともつかみどころのない虚無の世界を歌っている。


 虚無国で、虚無計画を立てている虚無男──。


 しかし、ビートルズファンはみんな、この虚無男がジョン自身だという設定で聴いてきた。


 中盤で虚無男に向かって「世界はおまえの思い通りになるんだぜ」と語りかけるフレーズは、世界的成功を手にしたにもかかわらず虚無に陥った自分自身に「おまえはすべてを手に入れられる実存の世界に生きているんだ」と言い聞かせているようにも聞こえる。


 何と面倒くさい虚無野郎の歌だろう。


 しかしこの面倒くさく辛気くさい自問自答が、ロックの思想を一段深めることになるのだから、この虚無虚無世界も、実は有意義だったのだ。


「人生の曲がり角」に来ていた25歳ジョンが「ロック界の曲がり角」をもたらした歌。その価値は虚無ではない。圧倒的な実存だった。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。

日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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