ガス・ヴァン・サントといえば、「エレファント」(03年)や「ミルク」(08年)など実話の映画化で高評価を受けている手練れの監督。今回も実話の事件に材を取ったという。
舞台は1977年のインディアナポリス。中年男トニー・キリシス(ビル・スカルスガルド)は不動産ローン会社メリディアン・モーゲージ社に全財産を騙し取られたとして同社に押し入り、社長の息子ディック・ホール(デイカー・モンゴメリー)を人質に取って立てこもる。自分の首と人質の首をショットガンとワイヤーで固定。ヘタに動けば発砲する〝デッドマンズ・ワイヤー〟という装置を使い、同社からの謝罪や補償を要求した。
地元警察が動けない中、トニーはメリディアン社の悪事を暴露しようと人気ラジオ番組に電話をかけ、DJのフレッド・テンプル(コールマン・ドミンゴ)を巻き込んで自分の訴えを電波に載せる。メリディアン社の代理人が要求を受け入れるような声明を発表するが、トニーは社長のM・L・ホール(アル・パチーノ)の謝罪が重要としてこれを拒否。FBIが出動し、警察は突入の準備を進める。
そんな中、トニーは米3大ネットワーク局のカメラを呼び、ディックにショットガンを突きつけたまま記者会見を決行。メディアを通したトニーの訴えは世論を二分するのだった……。
業突く張り社長を演じアル・パチーノの存在感はお見事
本作を見て2つの事件を思い出した。1つはあさま山荘事件(72年)。
もう1つは金嬉老事件(68年)。在日朝鮮人二世の金が金銭トラブルの果てに暴力団2人を射殺、静岡県の旅館に立てこもった事件だ。金は籠城中に記者を呼んで暴力団の非を訴えた。このとき人質の一部が金に同情。一種のストックホルム症候群が起きたことでも知られる。
本作を見ていると、立てこもり犯のトニーが金のように気の毒になってくる。メリディアン社という大資本に振り回され、資産を巻き上げられたのが事実なら、彼は資本主義の犠牲者だ。
ガス・ヴァン・サント監督はこう語っている。
「本作が過度な苦痛を与えることのないよう願っていますが、我々が生きている時代そのものが深く不安定である以上、ある程度の居心地の悪さは避けられないのかもしれません」
さて、事件はどのような決着を迎えたのか。映画は一段、二段の意外な展開になだれ込み、筆者は「へえ~ッ」と唸ってしまった。やはり事実は面白い。面白くてズシンとくる。まさに事実は小説よりもなんとやら。世論が二分された背景を劇場で味わっていただきたい。
(文=森田健司)

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