「4月13日、自民党と日本維新の会は社会保障改革を巡る実務者協議で、“主婦年金”を縮小していく方向で一致しました。日本維新の会は第3号被保険者制度の廃止を公約に掲げてきましたから、見直しが一気に進むとみられます」(全国紙記者)

現行制度では、会社員など厚生年金の加入者(第2号被保険者)の扶養に入っている配偶者は保険料を負担せずに年金を受け取ることができる。

“主婦年金”とも呼ばれる、この「第3号被保険者制度」を“縮小”するというのだ。

《子育てや介護のために離職した主婦の年金を、政府は剥ぎ取りにかかるのか……》
《子どもに障害があって働けないのに、年金まで減らされたら未来がない》

SNS上では、そんな怒りと不安の声が。

「もともと、第3号被保険者制度は、専業主婦でも自分名義の年金が受け取れるように、’80年代後半に導入された制度です。しかし、2000年ごろから共働き世帯が増えるなか、制度への風当たりが強くなってきました」(前出・全国紙記者)

気がかりなのは、どのように主婦年金が縮小されていくか、という点だ。

■すでに作成されていた“主婦年金縮小”の計画書

じつは、計画書ともいえる文書がある。年金制度を所管する厚生労働省が2002年に作成した「第3号被保険者制度の見直しに向けた4つの案」だ。

そこでは「夫婦間の年金権分割案」「負担調整案」「給付調整案」「第3号被保険者縮小案」が示されているが、「すでに2つは導入済み」と指摘するのは、年金問題に詳しい関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんだ。

「まず『夫婦間の年金権分割案』です。すでに2007年から、離婚時の夫婦の合意に基づいて厚生年金の報酬比例部分を分割する“合意分割”が、2008年からは、離婚時に相手の同意がなくても分割される“3号分割”が導入されました」

この見直しは、離婚後の年金受給額が少なく、困窮しやすかった主婦にとってメリットがあるものだった。さらに、実施されたのが、「第3号被保険者縮小案」だ。

「これは、パートでも厚生年金に加入できるようにして、主婦年金の対象者そのものを減らしていこうという政策です。以前は、週30時間以上の勤務などが厚生年金への加入要件でしたが、2016年から従業員数501人以上の企業に限り週20時間以上勤務に。

以降も、段階的に緩和されてきました」(島澤さん、以下同)

現在、月収8.8万円以上、勤務時間週20時間以上、勤務先の従業員数51人以上などが、厚生年金の加入要件となっている。こうした経緯もあり、2014年には932万人だった第3号被保険者は、2024年には641万人と急激に数を減らしてきた。

「今年10月には月収8.8万円という賃金要件が撤廃され、さらに企業規模も緩和されていく予定です。今後も“主婦年金”の人が減っていくことは間違いありません」

ただ、厚生年金に加入した場合、社会保険料の負担は発生するものの、1階部分にあたる基礎年金に加え、2階部分にあたる報酬比例部分を受け取ることができるようになる。一時的に手取りは減るものの、将来的に受給額が増えるメリットはある。

■「主婦の労働力を無償で利用してきた」

一方、「第3号被保険者制度の見直しに向けた4つの案」も記された残りの2つの案は、主婦にとってデメリットのみだという。

まず、年金の受給額を減額する「給付調整案」だ。文書では第3号被保険者の年金受給額を2分の1にする案と4分の3にする案が示されている。

「今年度、受け取れる基礎年金の満額は84万7300円です。これが2分の1になると、42万3650円となります。65歳から95歳までの30年間受給した場合、生涯で1千200万円以上受給額が減ることになります」

“4分の3”に減額された場合でも、30年間で約635万円減となる。生涯設計を見直さなければならない額だ。

そして4つ目の案が、島澤さんが、いずれ「採用される可能性が高い」とみている「負担調整案」だ。

「これまで負担のなかった専業主婦などの被扶養者にも、一定の負担を求めようというものです」

文書では国民年金保険料の半額の負担を求める案が示された。

「現在の国民年金保険料は月1万7920円。その半額となれば、月8960円、年間でおよそ11万円の保険料が徴収されます。50歳の主婦が60歳までの10年間負担する場合、約110万円の負担増となります」

最悪の場合、日本維新の会が主張してきたように、主婦年金そのものが廃止される可能性もある。その場合、国民年金に一本化され、保険料の全額を負担しなければならなくなる可能性も出てくる。

年金問題に詳しい鹿児島大学名誉教授の伊藤周平さんは、こう懸念を示す。

「仮に、障害のある子どもの育児や親の介護などで働けない場合でも、応分負担となれば、実質的には配偶者の収入から保険料を負担せざるをえなくなるでしょう。また、本人に収入がない場合は、申請すれば免除を受けることはできますが、将来もらえる年金は少なくなってしまいます」

第3号被保険者制度に対しては、「専業主婦ばかり優遇されている」「共働きは夫婦で負担しているのに」といった不満の声があるのも事実だ。こうした声を受けて、日本維新の会は、〈第3号被保険者制度は、保険料負担のない被扶養配偶者に年金給付を保障する制度であり、他の納付者との間に著しい不公平を生じさせている〉(「社会保険料を下げる改革提言」より)と、段階的な廃止を訴えてきた。

しかし、前出の島澤さんは、「政府が“公平性の是正”を理由に、働く女性と専業主婦を対立させるような議論を進めるべきではない」と指摘する。

「主婦年金は、夫が外で働き、妻が家事、育児、介護といったケア労働を担うという社会の在り方を前提に作られた制度です。

こうしたケア労働の負担を主婦が無償で担うことで、社会が成り立ってきた側面もあるのです」

さらに、島澤さんは、厳しい現状をこう指摘する。

「いまだに十分な保育や介護のインフラが整っているとは言いがたく、女性が安心して働ける雇用環境も十分とは言えません。そうした状況を放置して、主婦を悪者にするのは、本来制度が負うべき責任を個人に押し付けていると言わざるをえません」

前出の伊藤さんも、「負担が増えれば、未納・滞納者が、さらに増える可能性がある」と指摘する。

「実際、国民年金保険料の収納率は約8割で、裏を返せば2割近い人が未納です。さらに、所得が低いために約600万人、全体の3~4割の人が全額免除・猶予を受けています」

未納や滞納、免除を合わせると、実に半数近くが保険料を満額支払えていないことになる。

「今後も中東情勢の影響などで、さらに物価上昇が続く可能性が十分にあります。そうしたなかで主婦年金の負担が増えれば、滞納者はさらに増えるでしょう。結果的に、保険制度そのものが成り立たなくなる可能性もあります」

老後の命綱である年金。主婦年金について、どのような“縮小”が行われるかは、これからの議論次第だが、「不公平だ」という安直な理由で見直されるべきではないだろう。

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