スマホ決済の普及で大流行している「ポイ活」。買い物のたびにポイントが貯まり、まとまった数になるとほしいものと交換できる。
■出勤前20分、昼休み20分、休日は半日
「時給に換算すれば、せいぜい数十円。まさに“無給の労働”ですが、一度、沼にハマると、なかなか抜け出せないのが実際でした」
北海道の食品加工会社に勤務する後藤英治氏(47・仮名)は、自嘲気味にそう語る。彼は最近になって「サラリーマンおじ」のハンドル名でnoteでの投稿を始め、自らのポイ活の反省記録もつづっている。それまでの3~4年間、彼が傾倒していたのはポイ活ゲームだった。
「スマホで遊びながら、ポイントを稼げるアプリがあるんです。もっぱらポイントサイトの老舗の『モッピー』で、アプリをダウンロードしていました。単純なパズルがほとんどでした。30日以内にレベルいくつ到達、などの条件を達成するとポイントがつく仕組みです。
ゲームを攻略してポイントを稼ぎ、それを運用に回すことで、手元にはいつしか運用益を含め、30~40万円分のPayPayポイントが積み上がっていた。
しかし、この“資産”を蓄えるために捧げたのは、本来ならば労働の疲れを癒やすべき余暇のすべてだ。その時間配分を可視化すると、ひとりのサラリーマンがいかに、生活の隙間をポイント獲得という“作業”に乗っ取られていたかが浮かび上がる。
「まず、起きて出勤前に20分、昼休みも同様に20分、帰宅後は1~2時間ほど。休日に至っては、多いときで半日はゲームに費やしていました。会社は副業を認めていないので、私にとってはそれが唯一の小遣い稼ぎでしたが、貴重な休みの日までゲームにふけっていたかと思うと、いまはかなりの徒労感がありますね」(後藤氏)
ポイントがつくのは、最初のステージをクリアしたときだけ。ゲームの提供元とすれば、ポイントは“撒き餌”で、以降も続けさせるのが目的だ。だが、ポイントを獲得したら、後藤氏はそのゲームをやめ、次のものを探したという。
「ただ、一度だけ夢中になって課金しちゃったんですよ(笑)。PayPayではあまり買い物をしなかったんで、全部、ポイ活ゲーで貯めたポイントとは言えますが、にしても、コスパ・タイパが悪すぎました(笑)。いまもひとつだけ切れずに、スマホに残っているゲームアプリがあります」
TikTok Liteのチェックインといった、ログインするだけで数円分のポイントが加算されるルーティンも、後藤氏にとっては欠かせない日課だったという。まさにポイ活に始まり、終わる毎日を送っていたといえよう。
■識者が勧める「50%・70%のパワーセーブ」
こうした状況を憂うのが、ポイント情報サイト「ポイ探」を運営するポイ活アナリストの菊地崇仁氏だ。菊地氏は、国内のポイントサービスの市場規模が、2026年度には発行額ベースで3兆円を突破すると予測する。
「かつて、ポイントは単に買い物の付随物でしたが、現在ではポイ活ゲームのように、個人の営みに対して企業が直接、対価を払う形式も定着しています。アンケートへの回答や、歩くだけでポイントがつくなど、いろいろありますが、最近はレシート投稿アプリなども出てきましたね。対価は当然、広告費から出ますが、専門用語で『リワード広告(成果報酬型広告)』と呼びます」
企業が莫大な広告予算を投じて、ユーザーの時間や労力を奪い合っているともいえる状況だ。だからこそ、ユーザー側にも対抗できる知識が求められるようになっている。
菊地氏によれば、現在のポイント経済圏において、あふれかえる情報のすべてを拾い上げることは不可能に近いという。そこで提唱するのが、ポイ活における「50%・70%のパワーセーブ」だ。
「私はよく『ポイ活は70%程度で満足すべきだ』と言っています。さらに忙しい現役世代なら、50%でもいい。それ以上、拾おうとすると、情報収集や実行にかかる時間が倍々に膨れ上がり、結果として“時給数十円”の泥沼にハマってしまうでしょう。ポイントを貯めるための目的に応じ、ゴールをしっかり設定し、貯まったら、ともかく使い切ってしまうのが何よりです」
■レジで後ろの人が舌打ち
菊池氏の説く「50%・70%」の境界線は、本来、家計をやりくりする上での合理的な判断のはずだ。
「還元率がわずかコンマ数パーセント変わるだけで、強迫観念に襲われるんです。レジが混んでいるときに、どの決済ルートを通すのがいちばん得か、スマホを操作してアプリを切り替えるんですが、その数秒のモタつきが原因で、後ろの人に舌打ちされて。そのたび『俺、たかだか数十円のために何してんだか』と、みじめな気持ちになります」
そう語るのは、愛知県の化学メーカーに勤務する目黒浩樹さん(47・仮名)だ。彼はnoteで「ポイ活中毒」を名乗り、自作のWebアプリで数十のサブスクやキャンペーンセールも管理している。給料が上がらぬ一方、物価高の負担が増すなかで、これまでの月2万円の小遣いを実質的に打ち切られた目黒氏にとって、このやりくりは“死活問題”だ。
「出張時の宿泊費をカード払いにして、しかも各種サービスの相乗りで、それぞれ数百円分のポイントを二重・三重取りしたりしています。しかし、そんな泥臭いことをして貯めても、せいぜい年間で3~4万円分ですかね。それらを運用に回しても、最大で20万円分、貯まったかどうか」
こう嘆く目黒さんには元から収集癖があり、彼にとってポイ活は、かつてシールやおまけの玩具ほしさにお菓子を買い集めた感覚に近い。クレジットカードは、最大で30枚ほど持っていた時期もあったという。
「サラリーマンは、審査にはまず通りますからね。でもあるとき、妻がポイントほしさに、僕の名義で10枚近くカードを作っていたことが発覚したんです。
「ポイ探」の菊地氏は、自らが所有する140枚のカード情報を精査し続けている立場から、情報の取捨選択についてこう総括する。
「一般の方で30枚は持ちすぎですね。管理も難しいでしょう。どんな分野でも、すべてを追いかけるのは不可能です。情報の取捨選択をせずに100%を追おうとすれば、効率は著しく低下します。50%でいい、残りは捨ててもいい。その一線が引けなければ、ポイ活は利益を生む手段ではなく、ただ時間を浪費するだけのシステムに成り下がってしまうでしょう」
3兆円といわれるポイ活市場。そのシステムを構築する企業のアルゴリズムと、わずか数十円の利益を求め、余暇を捧げ、個人情報を提供し続けるサラリーマン。それぞれが追い求める「数字」の先に、果たして何が待ち受けるのだろう。
(取材・文:鈴木隆祐)
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