公共交通機関の中で騒ぐ迷惑客に、あなたなら声をかけられますか?

 今回は、そんな注意したくてもできない空気の中で、ある出来事を目撃した女性のエピソードをご紹介しましょう。

誰も近づかない空席の理由

電車で騒ぐ酔っ払いを、派手な女性が注意。効果なしと思ったら…...の画像はこちら >>
 ある休日、長谷部美里さん(仮名・30歳)は買い物に出かけようと電車に乗り込みました。

「座席はほぼ埋まっていて、チラホラ立っている人がいるぐらいの混み具合だったのですが、車内の一角だけが妙に空いていたんですよね」

 不思議に思って視線を向けると、そこにはひときわ目を引く女性の姿があったそう。


 薄紫の長い髪に、真っ黒なサングラス。鮮やかな赤い口紅に、腕や首元にはタトゥーやピアスが覗く、派手で近寄りがたい雰囲気をまとった20代前半ほどの女性が、足を組み無言でスマホを操作しながら座っていました。

「その女性はただ普通に座っているだけでしたが、ちょっと怖いというか近寄りがたい雰囲気があり、両隣には誰も座らず、前にも誰も立っていませんでした」

 美里さんもなんとなく近づきづらさを感じ、少し離れた場所でつり革を掴みながら、目的地に着くのを待っていたそう。

酔っ払いのおじさん2人組が乗ってきて

「そして次の駅に着くと、缶ビールを持ったほろ酔いの50代ぐらいのおじさん2人組が乗車してきたんですが、とにかく話し声が大きくてうるさかったんですよ」

 乗り込んできた瞬間から、その存在は明らかに浮いていました。

「ご機嫌なおじさん達は、大声で歌ってゲラゲラ笑い、車内に響き渡るほどの声量で会話をしていました。さらに足元もおぼつかず、フラつきながら他の乗客にぶつかる始末で。手にした缶ビールも傾いて、今にも中身がこぼれそうになっていたんですよね」

 周囲の乗客たちは一斉に表情を曇らせ、車内にはじわじわと緊張が広がっていきます。

「ですが誰も直接注意はできず、咳払いが聞こえてくるぐらいでした」

 誰もが迷惑だと感じながらも、「関わりたくない」。そんな空気が場に充満したその時……。

電車で騒ぐ酔っ払いを、派手な女性が注意。効果なしと思ったら…次の“ひと言”で静まり返った
電車で酔っ払いを注意している派手な女性
「あの派手な女性がゆっくりと立ち上がり、おじさん達に向かって『ねぇ、おっちゃん達、ここ、居酒屋じゃないんだけど?』と話しかけたんですよね」

 その瞬間、車内の空気がピタリと止まりました。

「楽しくやってるだけだろ」ひるまない酔っ払いに……

 突然声をかけられたおじさん達は一瞬きょとんとしたあと、片方が「え~? 別にいいじゃんねぇ? このぐらいよぉ」とヘラヘラしながら言ったそう。

「もう1人も缶ビールを掲げながら『そうそう! 楽しくやってるだけだろ』と笑っていて。まるで応えていない様子でしたね」

電車で騒ぐ酔っ払いを、派手な女性が注意。効果なしと思ったら…次の“ひと言”で静まり返った
電車
 すると女性は、ゆっくりとサングラスを外しました。その鋭くまっすぐな視線で、2人を見据えながら「楽しいのはあんた達だけでしょ」と低い声で言い放ちます。


「女性が腕を組んで『歌うわ、ぶつかるわ、酒こぼしそうだわ。さっきから迷惑なんだよ』と詰め寄ると、さすがにおじさん達はさっきまでの勢いを失い、少し気まずそうな顔になっていました」

一転しておとなしくなったおじさん達

 さらに女性は一歩踏み込み、逃げ道を塞ぐようにして「それとも何? 次の駅で駅員に突き出さないと分からないタイプ?」とおじさん達にグイッと近づいていったそう。

 するとさっきまでの威勢はどこへやら、おじさん達はみるみるうちに小さくなっていきます。

「『ちょっと飲み過ぎました。すみません……』と急にペコペコしだして(笑)。ついさっきまでの騒ぎぶりが嘘のようでしたね」

 すると女性は、ふっと表情を緩め「ほら、そこ空いてるから静かに座りな」と、先ほどまで誰も近寄らなかった自分の隣の席を指差しました。

「おじさん達は小さくうなずき、まるで叱られた子どものように大人しく座って……このお姉さん本当にすごいなと心の中で拍手しましたね」

 いつの間にか車内はすっかり静けさを取り戻し、ホッとした空気で満たされたそう。

「最初は見た目だけで勝手に“怖そう”と決めつけてしまいましたが、蓋を開けてみれば、正義感あふれるかっこいい女性だったんですよね。もうそんな先入観で人を見るのはやめようと強く思いました」と微笑む美里さんなのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。
著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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