新卒から18年半、テレビ朝日のアナウンサーとして、報道、スポーツ、バラエティなど多岐にわたる番組を担当してきた大木優紀さん(45歳)。

 40歳を超えてから、スタートアップ企業「令和トラベル」に転職。
現在は旅行アプリ「NEWT(ニュート)」の広報を担当。さらに2025年10月には、ハワイ子会社「ALOHA7, Inc.」のCEOに就任し、家族とともにハワイへ移住。新たなステージで活躍の場を広げています。

 第48回は、旅行会社勤務の大木さん目線で、テクノロジーによって変化した、平成と令和の旅の違いを深ぼっています。(以下大木さん寄稿)

スマホのなかった時代の旅を振り返って

スマホやAIで“海外旅行から失われたもの”。元テレ朝アナ・旅...の画像はこちら >>
 平成から令和へ。時代は流れ、テクノロジーの進化はとまりません。AIの使用もすっかり定着しました。

 旅の仕方も大きく変わりました。今の海外旅行は、本当にスマートになったなと思います。最近では旅程設定から予約もAIに任せ、本当に、スマホとパスポートさえあれば、気軽に旅立てる世の中が実現しています。

 今では当たり前になったこうした便利な旅のスタイルですが、ほんの20~30年前の平成時代の旅の仕方は、今とはまったく違いました。

 海外旅行に出発する前にはガイドブックを読み込み、地図をコピーし、現地の情報を紙にメモして持ち歩く。旅先で道に迷っても、すぐにスマホで検索することはできません。


 それでも私たちは世界中を旅していました。むしろ、不便だったからこそ生まれた出会いや発見、予想外の出来事が旅の醍醐味だったようにも思います。
 今ではスマホなしで旅をすることは考えられない時代です。

 スマホがなかった時代、私たちはどうやって旅をしていたのか。そして、テクノロジーの進化によって旅はどのように変わったのか。

 今回は、旅行会社勤務の私の目線から、そんな「平成と令和の旅の変化」について綴ってみたいと思います。

AIによって変わった「旅前」の準備

 一番大きく変わったのは、「旅前」。つまり、旅の計画を立てる段階です。特に最近はAIの登場によって、その変化が一気に加速したように感じています。

 もともと私は、旅の中でも「旅前」が大好きなタイプです。旅のスタイルは人それぞれですが、私はかなり事前に計画を立てる派。下調べをして、現地ではその答え合わせをするように旅を楽しむのが好きなんです。

 スマホがなかった時代は、まず図書館へ行ってガイドブックを何冊も借り、本屋でお気に入りの一冊を購入するところからスタート。
本に付箋を貼ったり、気になる情報を書き込んだりしながら、自分だけの旅の情報をまとめていました。

 そして、ガイドブックに載っている持ち歩き用の地図を切り離し、行きたい場所の位置関係を頭に叩き込んでおく。実際の旅先では、その地図だけを片手に歩いていた記憶があります。

 特に印象に残っているのが、イタリアのアマルフィや南イタリアを旅した時のこと。

 当時は今のようにネットで簡単に時刻表を調べることができなかったので、アマルフィへ向かうフェリーの情報を手に入れるために、イタリア大使館へ電話をしてフェリーの出発時刻を聞きました。

 旅程表を完成させるまでにかなりの時間と労力がかかったのですが、その過程も含めて旅の楽しみだったように思います。

 それが今では、AIに相談するだけで移動手段や所要時間、さらには予算の目安まで含めた旅程を瞬時に作れるようになりました。

 正直なところ、私は「旅前」が好きなので、最初は「AIを使うと旅の面白さが減ってしまうのでは?」とも思っていました。でも実際に使ってみると、面倒な下調べをAIが担ってくれる分、自分はもっと深い部分に時間を使えるようになったと感じています。

 例えば、エリアごとの特徴だったり、通りを一本入った先にどういう世界が広がっているのかというのを想像したり。自分が好きなお店への選球眼もよくなって、もっと深い旅前の準備ができるようになった。結果的に、AIとの旅の準備に私は満足しています。


スマホのない時代の「旅中」の思い出

 次に、「旅中」について考えてみたいと思います。

 スマホが普及する前、海外で携帯電話を使うことはほとんどありませんでした。当時はWi-Fiもなく、海外で携帯電話を使うとなると恐ろしい額の「パケット代」が請求される時代。だから海外に着いたら携帯電話の電源は切ったまま、という人も少なくありませんでした。

 旅の最中に頼りになるのは、ガイドブックの巻末についている小さな地図だけ。紙の地図を広げながら街を歩き回るのが当たり前でした。

 そんなスマホのない時代にパリに行ったことがあります。石畳の道が入り組んだ旧市街を歩いているうちに、完全に道に迷ってしまったのです。今なら地図アプリを開けば数秒で解決するようなことですが、当時はそうはいきません。

 そこで思い切って地元の人に道を尋ねました。

 すると、その方は親切に道を教えてくれただけでなく、「そこは観光客向けのお店だから、こっちのお店のほうがいいよ」と別のレストランを紹介してくれたのです。

 母との二人旅だったのですが、実際に行ってみると地元の人たちで賑わう素敵なレストランでした。料理もおいしく、雰囲気も抜群。
今でも印象に残っている旅の思い出のひとつです。予定調和ではない出会い。迷った先の出会いもあるんだなと、その時感じたのを覚えています。

 今はスマホで検索すれば、行きたいお店まで最短ルートでたどり着けます。それは間違いなく便利なことですが、一方でこうした偶然の出会いは少なくなってしまったのかもしれません。

不便さゆえの苦い思い出も

スマホやAIで“海外旅行から失われたもの”。元テレ朝アナ・旅行会社CEOがつづる「最短ルート」の落とし穴
大木優紀さん
 ただ、もちろん不便さゆえの苦い思い出もあります。

 チェコを旅した際、プラハから「世界一美しい街」とも称されるチェスキー・クルムロフを目指したことがありました。

 ところが、バスと電車の乗り継ぎ情報がうまく把握できず、移動に失敗。結局その日は目的地までたどり着くことができませんでした。もし今だったら、スマホでルートを検索し、リアルタイムで運行状況を確認しながら移動できたはずです。

 迷った先に素敵な出会いが待っていることもある。でも、行きたい場所に確実に行ける安心感もまた大切です。そう考えると、旅中におけるスマホの恩恵は計り知れません。
ただ、その便利さと引き換えに、少しだけ偶然の余白を手放したのかもしれない。そんなことを感じます。

移動は便利に、スマホが取り払った「言葉の壁」

 そしてもう一つ、旅中で大きく変わったのが移動手段です。特にタクシー利用のハードルは劇的に下がりました。今はアメリカならUberやLyft、東南アジアならGrabといった配車アプリが普及し、旅先でも気軽に移動できるようになりました。

 便利になったのは移動そのものだけではありません。コミュニケーションの負担が大きく減ったことも大きな変化です。

 昔はタクシーに乗る前、ホテル名や住所を紙に書いておき、それを運転手さんに見せて「ここへ行ってください」と伝えるのが定番でした。言葉が通じなかったらどうしようという不安は、海外旅行につきものでした。

 でも今は、アプリ上で目的地を指定すれば正確に連れて行ってくれる。料金の支払いまで完結するので、ほとんど会話をしなくても移動できるようになりました。

18歳、ニューヨーク旅でのエピソード

スマホやAIで“海外旅行から失われたもの”。元テレ朝アナ・旅行会社CEOがつづる「最短ルート」の落とし穴
大木優紀さん
 そんな変化を感じるたびに思い出す出来事があります。

 18歳、大学生の時にニューヨークに行ったことがあります。フィラデルフィアからニューヨークのセントラル駅に到着して、タクシーの列に並んでいました。
乗ったタクシーの運転手さんが、喉の手術をされた影響で、声を出すために、拡声器のようなものを喉につけていました。

 当時の私の拙い英語力。ヒアリング力もなく、拡声器を通した機械音はさらに聞き取りが難しく、会話がなかなか成立しませんでした。運転手さんはとても親切な方だったのですが、お互いの意思疎通がうまくいかず、目的地へ向かう途中も戸惑うことばかり。

 私も初めてのニューヨーク。18歳の私は、不安で心細くて、「ニューヨークってなんて大変な街なんだろう」と思ったのを覚えています。

 でも不思議なことに、その経験があったからこそ私はニューヨークという街を好きになりました。ニューヨークは簡単にはいかない。エネルギーが必要。でも、その分だけ成長の実感もできる場所でもある。

 こういう簡単にはいかない経験が、私にとって、ニューヨークを特別な場所にしてくれたような気がしています。

 スマホは、言語の壁や身体的なハンディキャップさえも乗り越えられる素晴らしいツールです。旅先での不安を減らし、誰もが快適に移動できるようになりました。その恩恵は計り知れません。

 ただ一方で、あの時のように戸惑いながら相手と向き合い、必死にコミュニケーションを取ろうとした経験は、今の旅では生まれにくくなったのかもしれません。便利さによって失われたものもある。ときどきあの不器用なやり取りを懐かしく思うことがあります。

便利になった旅、それでも変わらない旅の魅力

 旅前と旅中もスマホやAIの登場によって、旅のハードルは大きく下がりました。

 スマホのなかった時代の旅を振り返ると、不便なこともたくさんありました。道に迷ったり、乗り継ぎに失敗したり、言葉が通じなくて困ったり。
 でも、その不便さの中には、予想外の出会いや思いがけない発見もありました。

 不便だけど、ドラマチックな平成の旅。ときにはスマホを少しだけしまって街を歩いてみるのも面白いかもしれません。

 海外旅行というのは、どれだけテクノロジーが進化しても、最後は人を介するものです。

 予想通りにいかないこともある。思いがけないハプニングもある。でも、その「不確かさ」こそが旅の醍醐味なのではないでしょうか。

 AIが旅をもっと便利にしてくれる時代だからこそ、偶然の出会いや予想外の出来事を楽しむ心は忘れずにいたい。そんなことを改めて感じています。

 みなさんのスマホがなかった頃の旅の思い出はありますか? ぜひコメントで聞かせてください。

<文/大木優紀>

【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母
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