キュリオシティが火星の粘土層に35億年間保存された生命の材料となる有機分子を発見
自撮りでポーズを決める火星探査機キュリオシティ Image credit:<a href="https://www.nasa.gov/missions/mars-science-laboratory/curiosity-rover/nasas-curiosity-finds-organic-molecules-never-seen-before-on-mars/" target="_blank" rel="noreferrer noopener">NASA/JPL-Caltech/MSSS</a>

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 NASAの火星探査車キュリオシティが、火星の粘土層からDNAの材料に似た分子を含む20種類以上の有機化合物を発見した。

  米フロリダ大学を中心とする国際研究チームによると、約35億年にわたって地中に保存されてきたとみられるこれらの物質は、地球上の生命の起源を構成する化学物質と共通するという。

 この研究成果は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-026-70656-0]』誌(2026年4月21日付)に掲載された。

地球以外の天体で初めて試みられた化学実験

 NASAの火星探査車「キュリオシティ」は2012年8月、火星の赤道付近に位置するゲール・クレーターに着陸し、2026年4月現在も活動を行っている。

 直径154kmに及ぶこの巨大なクレーターは35億年以上前に形成されたとされ、かつては湖だったと考えられている。

 キュリオシティのミッションは、数十億年前の古代火星に微生物が生きられる環境が存在したかどうかを調べることだ。

 2020年、キュリオシティはゲール・クレーター内のグレン・トリドン地域で、搭載された分析装置群SAM(Sample Analysis at Mars:火星試料分析装置)を使い、地球以外の天体では初めてとなる化学実験を実施した。

 SAMは、NASAゴダード宇宙飛行センターの宇宙生物学者ジェニファー・アイゲンブロード博士らが中心となって運用しており、火星の有機化学・大気・居住可能性に関する重要な発見を数多く積み重ねてきた中核装置である。

 今回の実験は、フロリダ大学地質科学教授でキュリオシティとパーサヴィアランス両ミッションに携わるエイミー・ウィリアムズ博士が主導した。

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粘土層が有機物を35億年保存できた理由

 グレン・トリドン地域には粘土鉱物が豊富に分布しており、かつてそこに水が存在していたことを示している。

 粘土鉱物とは、水と岩石が長い時間をかけて反応してできる細かい鉱物で、有機化合物(炭素を含む分子の総称)を長期間閉じ込めて保存する性質がある。

 粘土鉱物は他の鉱物よりも有機化合物を保持・保存する能力が高く、生命の痕跡を探す実験場所としてグレン・トリドン地域は最適だった。

 実験ではTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)と呼ばれる試薬を使った。有機物の中には分子の構造が大きすぎて、そのままでは分析装置で読み取れないものがある。

 TMAHはそうした大きな有機分子を小さく分解し、SAM内の機器で詳細に分析できる状態にする働きを持つ。

 キュリオシティが搭載できたTMAHはわずか2カップ分しかなく、研究チームはその限られた試薬を最大限に活かすため、採取場所の選定に慎重を期した。

 その結果、今回分析した有機物は火星で35億年間保存されてきたと推測された。

 粘土鉱物が持つ高い保存能力があってこそ、これだけの長期間にわたって有機化合物が失われずに残っていたと考えられる。

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火星で初めて確認された生命の材料となる分子

 分析の結果、キュリオシティは20種類以上の有機化合物を特定した。

 なかでも注目されるのが、DNAのもととなる化学物質「DNA前駆体」と構造が似た「窒素含有分子」の検出だ。

 窒素含有分子とは、窒素原子を含む有機化合物のことで、DNAやRNAなど生命の遺伝情報を担う物質の構成要素と共通する構造を持つ。

 こうした分子が火星で確認されたのは今回が初めてだ。

 さらに、ベンゾチオフェン[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%BE%E3%83%81%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%B3]と呼ばれる硫黄化合物も検出された。

 二重の環状構造を持つこの物質は隕石に含まれることが多く、宇宙空間から惑星へと運ばれることが知られている。

 ウィリアムズ博士は、火星に隕石から降り注いだ物質と同じものが地球にも届き、それが地球上の生命の構成要素になった可能性も考えられるという。

 古代の有機物が長期間保存されていたという証拠は、その環境がかつて生命にとって適した場所だったかどうかを評価する重要な根拠になる。

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生命の存在はまだ証明されていないが、大きな一歩

 ただし、今回の発見が火星における生命の存在を証明するものではない。

 検出された有機化合物が、かつての生命活動に由来するのか、地質学的なプロセスで自然に生成されたものなのか、あるいは隕石によって外部から運ばれたものなのかは、現時点では区別できないからだ。

 過去の生命の痕跡を決定的に確かめるには、岩石サンプルを地球に持ち帰り、より高精度な装置で分析するしかないと研究チームは指摘している。

 それでも今回の成果は、火星の浅い地下に大きく複雑な有機物が保存されていることを初めて実証した点で大きな意義がある。

 今回の研究結果は次の探査計画に活かされるからだ。

 ESAが2028年の打ち上げを目指す火星探査車「ロザリンド・フランクリン」も、NASAが土星の衛星タイタンに送り込む予定のドローン型探査機「ドラゴンフライ」も、今回と同じTMAHを用いた有機化合物の探索を計画に組み込んでいる。

 35億年前の火星に生命は存在していたのか?その答えを知る日がどんどん近づいている。

References: NASA’s Curiosity Finds Organic Molecules Never Seen Before on Mars[https://www.jpl.nasa.gov/news/nasas-curiosity-finds-organic-molecules-never-seen-before-on-mars/] / Mars rover detects never-before-seen organic compounds in new experiment[https://www.eurekalert.org/news-releases/1122453] / Diverse organic molecules on Mars revealed by the first SAM TMAH experiment[https://www.nature.com/articles/s41467-026-70656-0]

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