幽霊の正体は人間に聞こえない超低周波音が原因かもしれない
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 人間には聞こえないはずの超低周波音が、幽霊の正体の要因の1つかもしれない。

 古い建物で感じる根拠のない不安や苛立ち、背筋を走る悪寒といった幽霊がそこにいるかのような感覚は、老朽化した配管や換気システムが発する超低周波音によって引き起こされる可能性が、カナダの研究で示された。

 実験では参加者の大半が、その音の存在に気づかないまま苛立ちを感じ、ストレスホルモン値が上昇していた。

 この研究成果は『Frontiers in Behavioral Neuroscience[https://www.frontiersin.org/journals/behavioral-neuroscience/articles/10.3389/fnbeh.2026.1729876/full]』誌(2026年4月27日付)に掲載された。

人気のない古い建物で感じる恐怖の正体

 古い建物に足を踏み入れた瞬間、理由もなく気分が悪くなったり、背筋にじわりと悪寒が走った経験はないだろうか。

 特に地下室や古い廊下では、何かがいるような気配を感じることがある。

 こうした体験は長らく「霊感」や「超自然的な何か」として語られてきた。

 しかしカナダ・マクイーワン大学の心理学者ロドニー・シュマルツ氏らの研究チームは、その「何か」の正体に科学的な説明を与えようとしている。

 原因として注目されているのが、人間の耳では聞き取れない超低周波音だ。

 音には「周波数」という波の細かさを示す単位があり、人間が聞き取れる範囲はおよそ20~20,000Hzとされている。

 それより低い20Hz以下の音域を超低周波音と呼ぶ。

 音として認識できないにもかかわらず、空気の振動として体に伝わり、壁や障害物を通り抜けて広い範囲に影響を及ぼす性質を持つ。

 老朽化した建物の配管や換気システム、地下に設置された機械類は、こうした超低周波音を日常的に発している。

 「幽霊屋敷」と呼ばれる場所の多くが古い建物である点と、無視できない一致だ。

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実験室に仕掛けられた超低周波音

 マクイーワン大学の心理学・生物科学・数学統計学の各学部が連携して行った研究では、2023年7月から8月にかけて、超低周波音が人間の感情とストレスに与える影響を調べる実験を行った。 

 参加したのは同大学の学部生36名(男性9名・女性27名、平均年齢23歳)で、一人ずつ個室に通され、「落ち着く音楽」か「不安を煽る音楽」のどちらかを約5分間聴いた。

 部屋には参加者には知らされていない仕掛けがあった。

 半数の部屋では、廊下と隣室に隠されたサブウーファー(重低音専用スピーカー)から、18Hzの超低周波音が75~78デシベルの音圧で流されていた。

 これは古い建物の換気システムや暖房機械が発する超低周波音と同程度の強さだ。残り半数の部屋には超低周波音は流されなかった。

 実験後、参加者は自分の感情状態を答えるアンケートに記入した。

 また、音楽を聴く直前と聴き始めてから20分後の2回、唾液を採取した。唾液に含まれるコルチゾールの濃度を測定するためだ。

 コルチゾールはストレスを感じると副腎から分泌量が増えるホルモンで、体が緊張状態にあるかどうかを示す客観的な指標として広く使われている。

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音に気づくことなく体が反応していた

 実験の結果、超低周波音にさらされた参加者は、音楽の種類にかかわらず、さらされなかった参加者と比べて、苛立ちが強く、音楽をより悲しく感じ、興味や関心が低下していた。

 落ち着く音楽を聴いていたグループでさえ、超低周波音があるだけで気分が暗く沈んでいた。

 本来であれば落ち着く音楽はコルチゾールを下げるはずが、超低周波音が存在するとその効果が打ち消され、むしろ上昇に転じた。

 最も注目すべきは、参加者が超低周波音の存在をまったく察知できなかったことだ。

 「超低周波音が流れていたと思うか」という問いに対する回答は、統計的に見てランダムな当て推量と変わらなかった。

 自覚がないまま、体は確実に反応していたのだ。

 論文筆頭著者のマクイーワン大学、ケイル・R・スキャタティ氏はこう述べている。

超低周波音への曝露は、苛立ちや恐怖といった感情とは独立した形でコルチゾールを上昇させたました。体は意識より先に、見えない刺激に反応していたのです(スキャタティ氏)

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幽霊目撃の正体を突き止めた科学者

 こうした研究の先駆けとなる出来事が1998年、イギリスで起きていた。

 医療機器メーカーに勤める科学者のヴィック・タンディ氏は、職場で奇妙な体験をしていた。

 視野の隅に正体不明の影が見え、同僚たちも「この建物には幽霊がいる」と噂していた。

 タンディ氏は原因を調べ始め、実験室内に設置された換気ファンが18.9Hzの超低周波音を発していることを突き止めた

 そのファンを停止させたところ、視野に見えていた影は消え、同僚たちが訴えていた不気味な感覚も幽霊も消滅した。

タンディ氏はこの発見を1998年に学術論文として発表[http://www.richardwiseman.com/resources/ghost-in-machine.pdf]し、超低周波音と幽霊体験の関係を示した最初の研究者となった。

 シュマルツ氏はこう述べている。

疑似科学と誤情報を研究する立場から言えば、超低周波音は目に見えず音としても聞こえないのに、体に実際に測定できる反応を引き起こします。

幽霊だと思っていたものの正体が、老朽化した配管だった可能性は十分にあるのです(シュマルツ氏)

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不安ではなく苛立ちが起きる理由

 今回の研究で明らかになった重要な点のひとつは、超低周波音が「不安」よりも「苛立ち」を引き起こすということだ。

 これまで超低周波音は不安を誘発すると考えられることが多かったが、今回の実験では不安の上昇は確認されなかった。増加したのは苛立ちと不快感だった。

 この結果は動物実験の知見とも一致する。

 研究チームの先行研究では、ゼブラフィッシュに15Hzの超低周波音を与えると、その場から逃げようとする明確な回避行動が見られた。

 ゼブラフィッシュはインド原産の体長約5cmの小型淡水魚で、神経科学の研究で広く使われるモデル生物だ。

 魚類は内耳にある耳石器官という器官で超低周波音を感知するが、人間の内耳にも同様の構造が残っており、無意識のうちに超低周波音を感知している可能性がある。

 研究チームは、この苛立ち反応が、地震や津波など自然災害の前兆として発生する超低周波音に対する、生物としての原始的な警戒反応である可能性を指摘している。

 「何かおかしい」という感覚は、生き延びるために体が発する警告サインかもしれない。

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私たちの日常に潜む見えない音

 超低周波音は幽霊屋敷や廃墟だけに存在するわけではない。

 交通渋滞、工場の機械、オフィスや住宅の空調システム、さらにはコンサートホールの演奏中にも検出されている。現代の都市生活は、超低周波音に満ちているともいえる。

 今回の実験はサンプル数が36名と小規模で、参加者の約75%が女性という偏りもあった。

 研究チームも「特定の周波数のみを検証したに過ぎない」と慎重な姿勢を示しており、他の周波数帯や長期的な影響については今後の研究が必要だ。

 それでもシュマルツ氏は、「短時間の曝露でも気分とコルチゾールが変化したという事実は、超低周波音が実際の生活環境で人々に与える影響を真剣に考えるべきだということを示しています」と述べる。

 超低周波音の研究が進めば、騒音規制や建物の設計基準の見直しにつながる可能性もある。

 あの古い建物で感じた根拠のない恐怖や幽霊の正体は、ただの思い込みではなく、人間の耳には聞こえない低周波音が原因だったのかもしれない。

 もちろん低周波音は幽霊の存在を感じてしまう要因の1つであり、それだけでは片づけられない、まだ科学では解明できない超常現象があることも付け加えておこう。

References: Sound of Fear: Infrasound Mimics Supernatural Feelings[https://neurosciencenews.com/infrasound-stress-cortisol-mood-30611/] / Hidden Phenomenon Could Explain Why Old Buildings Feel Haunted, Study Finds[https://www.sciencealert.com/hidden-phenomenon-could-explain-why-old-buildings-feel-haunted-study-finds] / Infrasound exposure is linked to aversive responding, negative appraisal, and elevated salivary cortisol in humans[https://www.frontiersin.org/journals/behavioral-neuroscience/articles/10.3389/fnbeh.2026.1729876/full]

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