「カナダ軍が遺伝子改造したアライグマの武装集団を秘密裏に開発している」。これは研究者が実験のために作り上げた完全な偽の陰謀論だ。
国際研究チームがニュージーランド人1,020人を対象に行った調査で、この荒唐無稽な作り話を「本当だと思う」と答えた人が一定数存在することが明らかになった。
うっかり答えた人もいれば、面白いからわざと乗っかった人もいた。
この発見は、陰謀論を信じると主張する人々のデータそのものの信頼性に疑問を投げかけている。
この研究成果は『Royal Society Open Science[https://royalsocietypublishing.org/rsos/article/13/5/260163/481608/Do-you-really-believe-that-Examining-the]』誌(2026年5月6日付)に掲載された。
陰謀論研究に潜む見落とされてきた問題
毎週のように新しい陰謀論がSNSに流れ込んでくる。地球は実は平らだという地球平面説、アルテミスⅡの月面ミッションは捏造だという主張など、陰謀論はいたるところに湧いて出てくる。
COVID-19パンデミック以降、こうした陰謀論的思考が急増したことで、心理学者たちの関心はさらに高まった。
なぜ人々は陰謀論を信じるのか、どんな性格の人が信じやすいのか、どうすれば拡散を防げるのか。
研究者たちはアンケート調査を積み重ね、膨大なデータを蓄積してきた。
しかしここに、長年見落とされてきた根本的な問題がある。
「アンケートで陰謀論を支持すると答えた人は、本当にそれを信じているのか」という疑問だ。
回答者が本気で信じていなければ、積み上げてきたデータそのものの信頼性が揺らぐことになる。
架空のアライグマ武装集団の陰謀論を調査に仕込む
この問題を検証するために、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、英国の国際研究チームが巧妙な実験を設計し、ニュージーランド人1,020人を募集し、13の陰謀論についてどう思うかを回答させた。
13のうち11は、ニュージーランドで実際に語られてきた既存の陰謀論をもとにしたものだ。
さらに研究チームは、回答者が本気で答えているかどうかを測る目的で、もうひとつ別の陰謀論を調査に忍び込ませた。
2024年の先行研究で生み出された「カナダ軍が世界征服のために遺伝子改造したアライグマの武装集団を秘密裏に開発している」というものだ。
遺伝子改造とは、生物のDNAを人工的に書き換えて能力や特性を変える技術のことで、SF映画に登場しそうな設定だ。
どこにも存在しない完全な架空の話であり、事前に見聞きしていた人は理論上ひとりもいないはずだった。
アンケートの最後には「このアンケートのどこかで、冗談やからかい目的など、本心ではない回答をしましたか?」という質問も加えた。
嘘をついていたかどうかにかかわらず報酬は支払われると明示した上で、参加者に正直な回答を促した。
13.3%が本気ではない回答をしていた
その結果、存在するはずのないアライグマ武装集団の陰謀論を「おそらく本当」または「確実に本当」と答えた参加者が7.2%いた。
さらにアンケート最後の「本気で答えていない箇所がありましたか?」という質問に「はい」と自己申告した参加者が8.3%いた。
両方に該当する参加者の重複を除いて合計すると、陰謀論を本気で信じているわけではないのに「信じる」と答えた参加者は全体の13.3%にのぼった。
本気ではない回答には2種類あった。
ひとつは質問をよく読まずにうっかり答えてしまったケースで、悪意はない。
もうひとつは質問をちゃんと読んだ上で、面白いからわざと乗っかったケースだ。
13.3%は10人に1人以上にあたり、データへの影響は深刻なものとなった。
支持率の低い陰謀論ほどその影響が大きくなる。
「2010年と2011年にニュージーランド南島を襲ったカンタベリー地震は、アメリカ軍が電磁パルスを利用した兵器で意図的に引き起こした」という陰謀論の支持率は、本気ではない回答者を含めると3.3%から7.5%へと2倍以上に膨らんだ。
電磁パルスとは、強力な電磁波を一瞬で放出し電子機器を破壊できるとされる技術で、軍事利用の陰謀論に頻繁に登場する。
さらに、相反する陰謀論を同時に支持した回答者の大多数が、本気ではない回答をしていたと判定された。
研究者たちが「矛盾した信念の持ち主」と解釈した人々のデータの一部は、単なる遊び感覚の回答だった可能性が高い。
陰謀論研究が必要な理由
では、陰謀論の研究はデータが歪んでいるために意味がないのだろうか。
研究チームはそうは考えていない。
本気ではない回答者を除外してデータを再分析しても、不安感や他者への不信感、世界を危険な場所だと感じる傾向といった心理的特性と陰謀論支持との関係は、引き続き確認された。
研究チームは「本気ではない回答の問題は、陰謀論研究全体の信頼性を根底から覆すものではない。しかし研究者は今後、調査設計の段階からこの問題を真剣に考慮すべきだ」と結論づけている。
一方でこの研究には限界もある。
本気ではない回答を判定する方法がまだ十分に検証されていないため、誠実に回答した一部の参加者が誤って本気ではない回答者と分類された可能性も否定できない。
また参加者が自発的に応募するオプトイン方式(自ら調査に応募する参加形式)を採用したため、ニュージーランド全体の人口を正確に反映しているとは言い切れない。
陰謀論を「面白いから信じると答える」という行為は、一見無害に見える。
しかし研究データを歪め、陰謀論がどれだけ社会に広まっているかという実態の把握を難しくする。
信じているふりを楽しむ人々の存在が、陰謀論という社会問題の本質を見えにくくしているのだ。
まとめ
この研究でわかったこと
- 陰謀論を信じると答えた人の中には、面白いから乗っかっただけの人が一定数まじっている
- そういった回答が少数でも、陰謀論の信者数を実態より大幅に多く見せてしまう
- 研究者は今後、回答が本気かどうかを確かめる仕組みを調査に組み込む必要がある
まだわかっていないこと
- 本気ではない回答を正確に見抜く方法はまだ確立されていない
- ニュージーランド人だけを対象にした調査のため、他の国でも同じ結果になるかはわからない
References: Do you really believe that? Examining the prevalence and predictors of belief in conspiracy theories when accounting for insincerity[https://royalsocietypublishing.org/rsos/article/13/5/260163/481608/Do-you-really-believe-that-Examining-the] / A Fake Conspiracy Theory About Armed Raccoons Just Exposed a Real Problem With Society[https://www.vice.com/en/article/a-fake-conspiracy-theory-about-armed-raccoons-just-exposed-a-real-problem-with-society/] / Army Of Genetically Engineered Military Raccoons Demonstrate How Trolls Can Skew Conspiracy Theory Research[https://www.iflscience.com/army-of-genetically-engineered-military-raccoons-demonstrate-how-trolls-can-skew-conspiracy-theory-research-83422]











