介護事業所の倒産件数が前年比で約3割減

デイサービスや訪問介護事業所で倒産が大幅に減少

東京商工リサーチの調査によると、2021年1~12月における介護関連事業所の倒産件数は全国で81件であることがわかりました。

介護事業者の倒産件数は、2016年から5年連続で100件を上回り、2020年には過去最多となる118件でしたが、前年比31.3%減と大幅な減少に転じました。

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出典:『2021年老人福祉・介護事業の倒産状況』(東京商工リサーチ)を基に作成 2022年03月25日更新

業種別では「訪問介護事業」が47件で前年比で16%減、「通所・短期入所介護事業」が17件で55.2%減となっています。

倒産件数が大幅に改善した理由として、東京商工リサーチではコロナ禍による介護事業者への支援策などを挙げています。

コロナ禍の支援策と介護報酬のプラス改定が影響か

国は、コロナ禍による事業への影響を軽減するため、これまでさまざまな施策を行ってきました。

例えば、政府系金融機関による融資の実質無利子化や、民間金融機関でも月々の返済を猶予するよう要請するなどして、事業者の負担を軽減してきました。

また、2021年度の介護報酬は全体で0.7%の増額となり、新型コロナウイルス感染症に対応するための備品購入費などを補填するなどの支援を実施して経営を下支えしています。

介護事業者のうち、コロナ禍で利用控えなどの深刻な影響を受けた通所系サービスに対しては、臨時措置として報酬をアップするなどして対応してきました。

こうした施策が倒産を抑制する効果を発揮したと考えられます。

倒産は防がれたが経営状況は依然として厳しい

通所介護などの利用率はいまだ低いまま

介護報酬の増額や融資の無利子化など、さまざまな施策によって介護事業所の倒産は減少に転じたものの、経営状況は依然として厳しいままだとも指摘されています。

例えば、通所介護の経営状況は大きく悪化しています。福祉医療機構の『2020年度(令和2年度)介護・福祉施設の経営状況』によると、通所介護における利益を表すサービス活動増減差額比率はすべての種別で低下。「地域密着型」3.2%(-0.3)、「通常規模型」2.2%(-2.1)、「大規模型Ⅰ」7.2%(-2.9)、「大規模型Ⅱ」6.8%(-4.2)でした。(カッコ内の数字は前年からの増減差)

昨年の過去最多から一転…2021年の介護事業所の倒産件数が急減した理由
出典:『2020年度(令和2年度)介護・福祉施設の経営状況』(福祉医療機構)を基に作成 2022年03月25日更新

通所介護の収益が減少した大きな理由は、密になりやすい環境にあり、「利用控え」が相次いだためとみられています。

全国老人福祉施設協議会のヒアリング調査によると、こうした利用控えは現在も続いていると報告されており、稼働率は感染者がいない状況であっても通常時より1割ほど低下していることがわかっています。

利用者に感染者が出ると、休業を余儀なくされるうえ、同居家族に濃厚接触者、濃厚接触者の疑いがあると利用が制限される施設もあります。

感染対策を徹底するためには事業を抑制しなくてはなりません。

2022年1月から続く第6波では、これまでよりも感染者が増加したことから、通所介護の事業所は、より厳しい状況に追い込まれています。

今後、支援金などが縮小する恐れ

介護事業者を下支えしてきた支援策ですが、今後はその効果も薄れていく懸念があります。

例えば、0.7%の増額となった介護報酬のうち、0.1%は2021年12月までの補助金に充てられていましたが、第6波に対する報酬面での支援措置がなくなっています。

第6波は落ち着きを見せ始めていますが、今後も、第7波、第8波が来ないとも限りません。

慢性的な利用控えに加えて、支援金が減少すれば経営状況がさらに厳しくなるのは当然です。現状で大きなダメージを受けた介護事業者に対する継続的な支援が必要です。

ソーシャルワークの経営補てんが必要

かかり増し経費などの支援などの継続が求められる

介護事業者から強く継続が訴えられているのは、かかり増し経費に対する補助金です。

かかり増し経費とは、マスクや手袋、消毒液などといった衛生用品や、パーテーションやパルスオキシメーターといった感染症対策に必要な備品にかかった経費のことです。

こうした経費に対して、国は2021年12月まで購入した費用を補てんする補助金を支給してきました。

しかし、現状でかかり増し経費の継続は決まっておらず、各事業所の頭を悩ませています。今後も感染対策が求められていく中で、衛生用品は必ず必要なものです。

こうした支援を収束の目途が立つまで継続していかなければ、介護事業所は今後の感染対策を自費でまかなうことになり、経営を圧迫しかねません。

クラスターの影響を考慮して適切な支援が必要

今年の2月に入ってから、高齢者施設ではクラスター感染が多く発生しています。

例えば、神奈川県の福祉・介護施設のクラスター件数をみると、2022年1月4~10日は1件だったのに対し、2月15~21日には103件と急増しています。

昨年の過去最多から一転…2021年の介護事業所の倒産件数が急減した理由
出典:『新型コロナウイルス感染症 クラスターの状況と県の対策について』(神奈川県)を基に作成 2022年03月25日更新

クラスターが発生すると、その施設は利用者の新規受け入れを停止したり、介護職員の感染によって深刻な人手不足になるリスクなどが増加します。

また、職員不足によって介護サービス量が減少する傾向があります。全国老人福祉施設協議会の調査によると、クラスターが発生した施設のうち63.1%が、介護サービス量が減ったと回答しています。

介護サービス量が減少すれば、その分介護報酬における各種の算定が難しくなる可能性もあり、収益が減少するリスクが高まります。

利用控えやかかり増し経費など、新型コロナウイルスの影響は今後も続くと予想されます。そうした状況の中でも、持続可能な介護を実現するためには、事業所の倒産を防ぐ必要があります。

介護事業所は一般企業と異なり、国による報酬が主な利益です。努力だけでは解決できない問題も少なくないため、必要な社会基盤として、今後も効果的な支援が必要です。

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