電子化によって進む医療・介護の連携
4月から要支援・要介護認定の申請書の様式が変更
今年の4月から、要支援・要介護認定の申請書の様式が変更されました。
新たな様式では、医療保険の保険者名や保険者番号などを書き込む項目が新設されます。この変更は、医療現場と介護現場のレセプトデータを連結して解析できるようにするための措置です。
厚生労働省では、以前から医療データベース「NDB」と介護のデータベース「LIFE」を連結する仕組みの構築に取り組んでおり、今年4月から運用が開始されます。
これにより、利用者の医療保険と介護保険で別々に保存されていたデータを連結して分析できるようになり、地域支援事業などにも活用できるようにもなります。
在宅医療・介護の推進が目的
超高齢社会を迎え、日本では在宅医療・介護を推進するため、地域包括ケアシステムの構築を急いでいます。
要介護度の重い高齢者が住み慣れた地域で暮らすためには、疾患へのケアを行う医療と、日常生活をサポートする介護の両面からのサポートが必要です。
そのため、医療と介護の連携力を高めて、地域包括ケアシステムを円滑に運用することが大きなポイントになります。
そこで、各自治体では、まず医療と介護における情報共有が進められています。野村総合研究所の「地域包括ケアシステムにおける在宅医療・介護連携推進事業のあり方に関する調査研究事業」によれば、地域の医療・介護の情報共有の進捗率は、「地域で把握可能な既存情報の整理」が95.6%、「地域内の医療・介護関係者や住民への地域内の医療介護資源の情報共有」が83.5%と高くなっています。
その一方で、「在宅医療・介護の必要量(需要)や資源量(供給)の現状把握」は50.3%、「在宅医療・介護の必要量(需要)や資源量(供給)の将来推計」は24.3%にとどまっており、まだ具体的な需要の把握には至っていません。
出典:『地域包括ケアシステムにおける在宅医療・介護連携推進事業のあり方に関する調査研究事業』(野村総合研究所)を基に作成 2022年04月11日更新こうした情報共有は、各自治体で会議やヒアリングを通して行われてきました。人的コストもかかります。
しかし、医療・介護のデータベースの情報を分析できるようになれば、こうした情報共有のコストを抑えることができ、効率化を図ることができます。
地域包括ケアシステムの構築は重要ですが、すでに医療介護における費用は増大の一途をたどっており、コストを抑えることが課題となっています。
医療・介護の連携を阻む要因
連携を進めるためのノウハウが不足している
医療・介護の連携は、地域包括ケアシステムの構築で非常に重要なポイントですが、まだ多くの課題を抱えています。
前出の調査によると、市区町村が在宅医療・介護連携を進めていく中で課題として感じているのは、「事業実施のためのノウハウ不足」が61.5%で最多。

6割の自治体が情報共有マニュアルを策定していない
政府は、連携を推進するために医療報酬と介護報酬で、連携を目的とした加算を設定しています。具体的には、「入院時情報連携加算」「退院・退所加算」「介護支援連携指導料」などが挙げられます。
こうした加算を算定するためには、連携のためのマニュアルなどが大切になりますが、みずほ情報総研の調査では約6割の自治体で策定していないことが明らかにされています。
また、特に在宅要介護者の情報共有マニュアルの策定率は大規模な自治体でも20%程度、中規模な自治体では5%未満にとどまっています。
連携体制を築くための指針の明確化
各自治体で進められている情報共有の円滑化
医療・介護の連携促進は、自治体の取り組みが鍵を握っています。地域の実情に合わせたシステムを構築することが大切です。
鳥取県日南町は、高齢化率が約5割になる小規模自治体です。
医療資源は、町立日南病院があるのみで、介護資源も事業者が2つあるだけです。しかし、小規模であることを強みにして連携力を高める取り組みをしています。
中でも、情報共有では、日南病院とケアマネージャーが連携するために以下の書式で統一しています。
- サービス担当者に対する照会(依頼)内容
- 認知症についての連絡表
- 介護予防事業の利用にかかる主治医への紹介
こうして統一された書式を使用することで、医療情報の連携を円滑化しているのです。
地域差を解消するためにも自治体規模に合わせたモデルを提案
大規模データベースの連結が可能になれば、全国で統一された情報を参考にすることができます。
また、会議の開催などの業務コストを抑制することになり、人材不足にあえぐ人口規模の小さな自治体でも連携体制をつくりやすい土壌が育まれるでしょう。
一方、医療や介護の提供は一つの自治体ではなく、近隣の関係自治体とも協力していくことが大切です。地域によっては、基幹病院を近隣自治体に頼らざるを得ないこともあるからです。
近年はこうした広域での連携も始まっています。前出の野村総合研究所の調査によると、「関係市区町村における在宅医療・介護連携推進事業の取組状況の把握」86.9%、「関係市区町村との広域的に取り組むべき内容と必要性の確認」70%、「関連行政および地域内の各職能団体との広域的な取組に関する協議の場の設定」50.5%と、広域連携における下準備が進んでいることがわかっています。

広域連携の際には、大規模データベースを活用した情報の共有が役に立つことでしょう。