介護福祉士の合格者数、昨年よりも1万人減少へ
受験者数・合格者数は過去2番目の少なさに
厚生労働省は3月25日、2019年度・第32回介護福祉士国家試験の結果を公表しました。受験者数は全国で8万4,032人。そのうち合格者数は5万8,745人で、合格率は昨年度よりも3.8ポイント減となる69.9%とのことです。
介護福祉士試験の受験者数は、2013年度~2015年度にかけて15万人ほどでした。しかし2016年度試験では、受験者数は一気に7万6,323人まで激減。合格者数もそれまでの9万人前後から、5万5,031人まで減少してしまったのです。
出典:『第32回介護福祉士国家試験合格発表』(厚生労働省) 2020年03月30日更新2017年度、2018年度と受験者数、合格者数ともに増加傾向だったものの、2019年度試験は前年度から受験者数、合格者数ともに約1万人も減少。双方とも過去最多だった2013年度に比べると受験者数は45.6%、合格者数で41%減となり、受験者数・合格者数は2017年度に続いて過去2番目の少なさです。
合格者の内訳をみると、性別では女性が全体の70.2%を占め、男性は29.8%と3割弱。年齢別では20代が約25%、30代が約20%、40代が約25%、50代が約15%、60代以上が約3%となっています。また、合格者全体の8割超が、介護現場で働く介護職員やホームヘルパーです。
介護職の人手不足が続いている現在、介護福祉士のなり手が伸び悩んでいるのは、問題といえるでしょう。なぜこのような事態が起こっているのでしょうか。
高齢者の増加に合わせて介護人材の不足感も上昇
まず、実際のところ介護人材はどのくらい不足しているのかについて確認しておきましょう。
経済産業省の試算によると、介護分野の労働者数は2015年時点において約183万人で、人材不足数は約4万人でした。
ところが、厚生労働省によれば、日本人でもっとも割合が多い団塊の世代が後期高齢者となる2025年時点での介護人材数は約210万人9,956人。
介護人材数も増えてはいるのですが、高齢者および要介護認定者の人口数の増加率それを上回っており、年々介護職の不足度が増しているのです。
高齢者の増加によって、介護現場での「人手不足感」も年々上昇しています。介護労働安定センターが発表した「平成29年度介護労働実態調査」によると、調査した2017年当時において、人手不足を感じている介護施設の割合は調査対象全体の66%に達していました。
特に不足度が激しいのは訪問介護員で、人手不足感を感じる施設は全体の82.4%と8割を超えている状況なのです。
研修費用の高さが受験を妨げる要因に
受験者を減らすひとつの要因「実務研修」とは
これだけ介護人材が不足している現状では、介護現場のリーダーとしての役割を担う介護福祉士のニーズは、否応なしに高まっています。ところが冒頭で紹介した通り、今年度は昨年度から受験者数・合格者数ともに約1万人も減っているという状況です。
この事態の要因のひとつとして、受験資格変更の影響がやはり考えられるでしょう。経験によって受験資格を得る「実務経験ルート」で受験資格を得るためには、2016年度から「実務経験3年以上」に加えて「実務者研修の修了」が必須となり、この点が大きなネックになっているという点は否めません。
この「実務者研修」とは、「介護職員初任者研修」の上位資格として位置づけられ、受講科目の内容はやや経験者向けの部分が多くなっています。旧制度ではホームヘルパー1級に相当する資格であり、受講を通して介護の専門家として多くの知識を得ることができます。
しかし、実際に実務者研修を受けるという場合、大きな壁が立ちふさがります。それは、実務者研修を受けるために必要な費用が高いという点です。
受験をあきらめた人の約4割強は研修費用が原因だった
厚生労働省が介護福祉士の資格を保有していない介護職にアンケート(2017年)を取ったところ、「受験を目指したものの、途中でやめたことがある」と回答した人は全体の46.3%に上っていました。半数近い人が、受験を考えていたのにもかかわらず、途中で挫折していたのです。
なぜ受験を目指すのをやめたのかを調査したところ(複数回答)、「実務者研修を受講するのに必要な費用負担が大きかった」と答えた人が全体の52.7%を占め最多となりました。
「実務者研修のため通学して講義・演習を受けるのが負担だった」(44.9%)や「実務者研修に必要な研修時間が長い」(44.%)という回答割合も多かったですが、それ以上に、費用面を理由に挙げる人が多かったのです。
では、実際にどのくらいの費用がかかるのでしょうか。一般的に専門学校で実務者研修の受講を受ける場合は無資格者の場合だと10万円程度、介護職員初任者研修もしくはホームヘルパー2級保持者の場合は8万円程度、介護職員基礎研修修了者だと3万円程度の費用負担が必要となってきます。
また実務経験ルート以外の「養成施設ルート」の場合だと100万円~200万円の学費が必要であり、福祉系高校ルートの場合は通常の高校卒業と同じ程度の学費が必要です。
研修費用の助成金があることを周知する必要がある
介護職の76%は研修費用を国から借りることができるのを知らない
費用面の壁を解消するひとつの方法としては、介護福祉士の資格取得の際に受給できるハローワークの助成金の利用がありますので、以下でご紹介しましょう。
・一般教育訓練給付金…「雇用保険の被保険者であり、支給要件期間が3年以上ある」もしくは「雇用保険の被保険者ではなく、資格喪失日から1年以内で、支給要件期間が3年以上ある」場合に、受講費用の20%が支給されます。
・専門実践教育訓練給付制度…給付条件は一般教育訓練給付金と同じです。ただ、受講開始日前に「キャリアコンサルタントから訓練前のキャリアコンサルティングを受講している」もしくは「在職者で勤務先の事業主から承認・照明を受けている」必要があります。要件を満たすことで支給される額は、受講費用の50%です。
・求職者支援訓練…雇用保険を受給できない「特定求職者」が支給対象とされます。この場合、申請して一定の要件を満たしていれば、講座受講の費用はかかりません。
ほかにも、国が実施している実務者研修受講資金貸付制度もあります。これは受講費用を無利子で貸し付けを行うという制度で、資格取得後に介護職として2年間働けば返済は免除されるのですが、あまり認知されていません。
厚生労働省が行ったアンケート調査によると、介護福祉士を取得していない介護職の76.4%が、国の貸付制度などの公的な支援の仕組みを知らないことが明らかにされています。
介護福祉士資格を持っていても介護職員の半分がメリットを感じていない
また、実務者研修の費用面における壁に加えて、介護福祉士という資格が持つメリットの少なさも、受験者数減少に拍車をかけているのが現状です。
株式会社ウェルクスが介護福祉士に対して行ったアンケート調査によると、「介護福祉士の手当てがいくら支給されているか」という質問に対して、回答の45.5%が「0~5,000円」でした。介護福祉士の資格を持っていても、待遇がほとんど変わらない職員が多いのです。
さらに実務内容についても尋ねたところ、全体の80.6%が「業務内容に変化なし」と回答しています。
介護福祉士の資格を持っていても、給料も仕事内容も変わらないのであれば、資格取得を目指そうとする動機は持ちにくいでしょう。
今回は介護福祉士試験の受験者減の問題を考えてきました。助成制度によって費用負担を下げても、その資格にメリットがないと受験者を増やすのは難しいでしょう。資格取得者への待遇改善も必要だと考えられます。