※本稿は、代田秀雄『オルカン思考 世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■「貯金好き」だからお金を使わない?
私は、資産運用は増やすこと自体が目的なのではなく、最終的には使ってこそ意味があるものだと考えています。
一方で、日本では昔から「日本人は預金好きだ」「貯めるだけ貯めて、なかなか使わない」といわれてきました。
個人金融資産が2000兆円を超えると聞くと、「お金は十分にあるのに、うまく使われていない」という印象を持つ方も多いかもしれません。私自身も、かつてはそう考えていました。
しかし、長年日本の投信市場に携わり、データと現実を見続ける中で、次第に違和感を覚えるようになりました。
本当に問題なのは、「日本人が使わないこと」なのでしょうか。
むしろ問題は、使う余裕が生まれるほどには、資産が増えてこなかったことにあるのではないか――私はそう考えるようになりました。
■アメリカと日本の「格差」が浮き彫りに
その感覚を裏づける象徴的なデータが、つみたてNISA導入前年の2017年に金融庁が公表した資料にありました。そこでは、1995年(英国のみ1997年)を起点として、約20年後の2016年に、各国の家計金融資産がどれだけ増えたかが比較されています。
結果は明確でした。
米国は約3.3倍、英国は約2.5倍に増えているのに対し、日本は約1.5倍にとどまっていたのです。
20年間という長い時間をかけても、日本の家計金融資産の増加率は、米国の半分にも届いていませんでした。
■「株式・投資信託」の割合が圧倒的に少ない
「日本人は預金好きで、資産があり余っている」という通説とは、ずいぶん異なる姿が浮かび上がります。問題は“貯めすぎている”ことではなく、増えにくい形で資産を持ち続けてきたことにあったのです。
同じ資料には、2016年末時点の家計金融資産の構成比も示されています。
日本では、現金・預金が51.7%を占め、株式・投資信託は間接保有を含めても18.6%にすぎません。一方、米国では、現金・預金は13.7%にとどまり、株式・投資信託が46.2%を占めています。
この違いは、単なる国民性の問題ではありません。自分のお金を、どの程度「経済の成長」というリスク資産に委ねてきたか。その積み重ねの差が、20年後の資産規模の差として現れているのです。
つまり、日本人が将来に不安を抱き、資産を使うことに慎重になるのは、ある意味で自然ともいえます。
増えにくい資産構造のままでは、「安心して使える状態」に到達しにくいからです。
■資産運用のゴールは「お金を使う」こと
だからこそ、本書で扱う「うまく使う」というテーマは、「贅沢をしよう」という話ではありません。
増やし方と使い方を一体で考え、資産を人生にどう還元していくかを整理すること。それが、日本人が本来手にできたはずの豊かさに、ようやく手を伸ばすための出発点になるのだと思います。
さて、先ほど紹介した米国の家計金融資産は3倍以上に増えたあと、どうなっているのでしょうか。少なくとも一般家庭の場合、運用した資産の多くが残ってしまい、相続に回されるということはあまりないでしょう。
日本では「使うこと」に心理的ハードルがあり、運用しても“使わずに終わる”ケースが少なくありません。私が常々強調している「お金を使うこと自体が社会への還元であり、資産運用のゴール」という考え方は、米国の資産形成文化では当たり前のことになっています。
「そんなに増やした資産を米国人は何に使っているのですか?」と聞かれることがあります。そこは増えた資産を“どう使うか”を常に考えている米国人と、使うのが苦手な日本人の文化の違いもあるかもしれませんが、その内容を見てみましょう。
■アメリカ人の天才的なお金の使い道
私が見る限り、米国人は増やしながら使う天才でもあります。
もちろん、老後2000万円問題ではありませんが、彼らにとっても老後生活をいかに豊かに幸せに暮らすかが、最大のお金の使い方なのです。しかし、それだけではありません。
①老後の生活水準を上げる:自分のために使う
彼らは、運用したお金は「自分のために使うんだ」というはっきりした意思を持っています。
米国は自助努力型(self-help)の社会保障制度ですから、公的年金が日本ほど手厚くありません。そのため、運用で増やした資産を退職後の生活費、趣味・旅行、セカンドハウス利用などといった自らの生活の質(Quality of Life)を引き上げる支出に積極的に使います。
運用は「将来の安心」を買うための行為であり、使う前提で資産形成をしている点が日本と大きく異なります。
■「教育=最高の投資」という価値観
②住宅資金:不動産と運用の両輪
米国でも、住宅購入は最も重要なライフイベントです。日本以上に、買い替え、住み替えが多い国ですから、運用資産の一部を適宜、住宅資金の頭金として使ったり、住宅ローン返済に活用したり、住み替えやダウンサイジングの費用などに使います。
日本では、一度自宅を購入すると頻繁に売買することはあまりないですが、米国は、住宅そのものが運用資産として流通しやすい市場であるため、不動産と金融資産の両輪で資産形成が行われています。上がれば売って収益を得て、もっと小さな家に住み替える、郊外に住み替える、といったことも多く行われています。
③教育投資:子ども・孫への投資
米国では教育費が極めて高額です。1年で1000万円もの学費がかかる大学も少なくありません。子どもたちは奨学金などを使って、自分でも学費を調達しますが、親も補助をすることが多く、運用資産の大きな使い道となります。
子ども(孫)の大学進学資金(年間400万~800万円は普通)、大学院進学資金、留学費用、529プラン(教育資金の非課税口座)による積み立てなどがその代表的な例です。
米国では、「教育は最高の投資」という価値観が徹底しており、増えた資産を喜んで“人への投資”に充てるという傾向が強くあります。そのため、自分の子どもだけでなく、孫への補助なども惜しみません。
■お金持ちでなくても寄付するのが当たり前
④事業投資・転職・起業の原資
米国はキャリアの流動性が高く、一つの会社に終身雇用で勤めることは稀です。また、会社員として勤めたあと、自分で起業して会社経営をし、また会社員に戻るなど、キャリア形成の柔軟性も日本とはかなり違います。
そして、30歳あるいは40歳前後で、キャリアアップ、キャリアチェンジなどさまざまな理由で、再度学び直す人も多くいます。そのため、起業資金やキャリアチェンジのための学費、または移住や転職活動の資金などの用途に運用資産が使われます。いわば、自己成長とキャリアアップのための投資に資金が回るのです。
⑤寄付・寄贈(フィランソロピー)
米国では、寄付が社会文化として根づいています。高齢になってから寄付をするだけでなく、子どもの頃から少額であれ、自分の親しみのある分野や応援したい事業に寄付をするのが習慣化しています。寄付先としては、大学、病院、奨学金基金、財団(Foundation)設立、地域コミュニティ支援などが挙げられます。
超富裕層に限らず、中間層でも一定の寄付を行う人が多く、資産形成→社会への還元が自然なサイクルとして成立しています。
■「使う前提」だから資産が増える
⑥相続・世代間移転
米国では自分が元気なうちに、“保有している財産をどのように使い、どのように渡すか”を計画的に考える文化があります。
具体的には、生前贈与、教育資金として早期移転、信託(Trust)による資産承継といった形で、“生きているうちにどのように使い、どのように渡すか”が実行されます。
一方、日本では「生きているうちにいくら使うかわからない」「資産を渡してしまうとその後、関係性が変化してしまうのではないか」など、ここでも使うことや渡すことへの心の壁があり、なかなか実行されません。
このように、米国人は「使う前提」で資産形成をしているといえるでしょう。米国の家計は、日本のように“貯めて終わり”ではなく、「老後」「住宅」「教育」「キャリア」「寄付」「相続・贈与」という多様な用途を想定して運用し、実際に使う文化があります。これにより、投資に対する意識が前向きになり、結果として資産形成の好循環が生まれているのです。
「使い下手」の日本人にもこれから、徐々にこういった文化が生まれてくるものと期待しています。
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代田 秀雄(しろた・ひでお)
シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表
三菱UFJ アセットマネジメント前常務。1985 年に三菱信託銀行(現・三菱UFJ 信託銀行)に入社。支店にて個人財務相談や法人融資などを担当した後、年金資金や投資信託の運用業務に約30 年にわたり携わる。三菱UFJ 投信で商品企画部長などを歴任し、2019 年より三菱UFJ 国際投信常務取締役として商品・マーケティング部門等を所管。インデックス投資を通じて、資産形成やNISA の普及に貢献した。
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(シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表 代田 秀雄)

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