■研究者の朝食は「料理」というより「実験」
まず、深皿にオートミールを用意します。適量の水を注ぎ、電子レンジで2分ほどチン。
ほどよく温まったところに刻んだキャベツかレタス、わかめ、生卵、納豆、焼き鮭のほぐし身を全部入れて、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせ、味付けに醤油を少々。これが脳疲労を研究する私の定番の朝食メニューです。
どうでしょう? ちょっと引いちゃいましたか?
正直、グルメ的においしいかは……わかりません。でも、私の意識は、どう脳や体のコンディションをチューニングするかに向いているので、このメニューになっています。不思議なもので、脳も体も調子がいいと感じると、毎日食べていてもおいしく感じるんですよ。
■「今日の脳」と「3年後の脳」のための食事
昭和の名横綱・千代の富士は「今、強くなる稽古と、3年先に強くなるための稽古。どちらもしなくてはいけません」という意味合いの言葉を残しています。
たとえば、卵と納豆は今日の稽古です。タンパク質がアミノ酸に分解され、脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンやドーパミンの原料になります。オートミールは低GI(血糖値が上がりにくい)糖質で、午前中の記憶力や判断力を維持する効果が期待できます。(※)1
一方、焼き鮭は3年先を見据えた稽古です。オメガ3脂肪酸のうちDHA(ドコサヘキサエン酸)は脳と眼の機能に重要な役割を果たしていて、脳神経系の成長を促す可能性が指摘されています。(※)2
また、EPA(エイコサペンタエン酸)は認知力や記憶力を活性化させる作用があると考えられています。(※)3
そこに、食物繊維が豊富なキャベツかレタス、そしてわかめをプラスします。
サバなどの青魚の脂もオメガ3脂肪酸が豊富でいいんですが、毎日食べるには脂質がちょっと多すぎるんですね。その点、鮭はバランスがいい。加えて、あのオレンジ色の身に含まれるアスタキサンチンには強力な抗酸化作用があり、血液脳関門を通過して脳に直接作用できる希少な栄養素。
まだ研究段階ですが、脳の慢性炎症や酸化ストレスを抑え、認知機能の改善、脳疲労の軽減、神経変性疾患(アルツハイマー病など)の予防への効果が期待されています。
■朝プロテインが脳のパフォーマンスを高める
また、私たちの研究チームは、明治との共同で、朝食でタンパク質を摂取することの効果をeスポーツによる実験で検証しています。(※)5
被験者には朝食を抜いてきてもらい、一方はリンゴジュース(糖質のみ)、もう一方にはプロテインドリンク(糖質+タンパク質15g)を飲んでもらいます。カロリーは同じです。その後3時間ゲームをプレーしてもらいながら、判断力を測定。
結果は明確で、プロテインを摂取したグループは脳の活動を示す瞳孔の大きさが「明らかに大きい状態」が続くとともに認知課題の成績もよく、リンゴジュースだけのグループは瞳孔径が変化せず、認知機能も低いままでした。つまり、朝食でタンパク質を摂っておくと、摂取しない場合よりもその後の3時間の認知機能のパフォーマンスが高まる。脳活動を促進できるんです。
判断速度、判断精度ともに、プロテインを摂取したグループのほうが優れており、ゲーム中のシュート成功率も高かった。現代人のデスクワークの環境と近い脳の使い方をしているeスポーツで成績が上がるということは、仕事の成果も上がるのではないかと考えています。
そもそもタンパク質は筋肉だけでなく、脳の機能を高めることが知られています。脳も体ですから、その材料の多くはタンパク質。脳機能を調整する神経伝達物質の原料もタンパク質由来のアミノ酸です。
■午後のパフォーマンスアップは低GIが効く
食事の習慣として意識していきたいのが、糖質の取り方です。
糖質は脳にとっても重要なエネルギー源ですが、何をどう選び、どう摂取していくかが重要。キーワードとなるのは、GI値(血糖値の上がりやすさ)です。白米やうどんのような高GI食品は、血糖値が急上昇して急降下する「血糖値スパイク」を起き起こします。
血糖値スパイクは脳へのエネルギー供給を不安定にするので、空腹感、眠気、イライラ感、それらに伴う集中力低下の原因に。できる限り、血糖値の急激な上昇、下降は起こさないようにすることが、短期的にも長期的にも脳の健康維持にはプラスに働くのです。
その点、玄米、そば、オートミール、甘栗、干し芋のような低GI食品は、血糖値がゆっくり上がり、ゆっくり下がります。パスタも意外とGI値の高くない食品です。血糖値の安定は、空腹を感じにくくさせる効果があります。
たとえば、私たちは森永製菓と共同で、吸収速度の異なるゼリー飲料を開発し、効果を比較しました。(※)6
ゆっくり吸収されるゼリーを朝に摂取すると、3時間後まで空腹感が出にくく、判断力を良い状態で維持できることがわかってきたのです。
■「風呂キャン」は脳疲労の最たるもの
1日の終わりにも大事にしたい習慣があります。脳疲労の回復には入浴が効果的です。
眠りにつくとき、体温が高いところから下がっていくときに眠りやすくなります。(※)7
eスポーツを通じた実験でも明らかですが、ゲームの後は手足が冷えています。これはパソコンやスマホを使った後も同じです。そのまま寝ようとすると寝つきが悪い。1日の終わりに入浴で末端の温度を上げておくことは、睡眠の質を上げることにつながります。
お風呂の温度は個人差がありますが、刺激にならない程度のぬるめがいいでしょう。また、炭酸入りの入浴剤を使うと、同じ温度でも血流が上がりやすく、温度が維持されやすい。疲れた後ほど、お風呂をキャンセルする人も増えていると聞きますが、それは脳疲労の負のループに入っているサイン。
■その場で効いて、かつ長期的にも役立つ習慣
ここまでで提案したのは、脳疲労にその場で効いて、かつ長期的にも役立つ考え方。朝タンパク質も低GI食もお風呂の習慣も、すべて「今日のパフォーマンス向上」と「長期的な脳の健康」の両立につながるものです。
たとえば、カフェインやエナジードリンクなどで、短期的に集中力をリカバリーするのは悪いことではありません。ただ、長期的に見るとマイナス面が心配です。大切なのは、今日の効果と3年後の健康の両方を意識することです。
将来的には、研究から得られた科学的知見を統合した「ブレイン・コンディショニング」の確立を目指しています。運動、栄養、休養、絆、環境の5つの柱で、現代人の脳疲労に自然な方法でアプローチする取り組みです。
健康のために何かをやりましょう、だけでは私たちはなかなか行動と習慣を変えることができません。でも、「今日・明日の仕事のパフォーマンスを上げたい」という目的と3年後の脳の健康という目標を掲げると、試してみようかなという意欲が出てきませんか?
もちろん、全部を完璧に行う必要はありません。朝に納豆を食べたり、1階分の移動を階段にしたり、お風呂の湯舟に浸かったりなど、一つの習慣からでも十分。できることから、快適さ優先で。
出典
(※)1.Benton, D., Ruffin, M.-P., Lassel, T., Nabb, S., Messaoudi, M., Vinoy, S., Desor, D., & Lang, V. (2003). The delivery rate of dietary carbohydrates affects cognitive performance in both rats and humans. Psychopharmacology, 166, 86–90.
(※)2.Lauritzen, L., Brambilla, P., Mazzocchi, A., Harsløf, L. B. S., Ciappolino, V., & Agostoni, C. (2016). DHA effects in brain development and function. Nutrients, 8(1), 6.
(※)3.Patan, M. J., Kennedy, D. O., Husberg, C., Hustvedt, S. O., Calder, P. C., Khan, J., Forster, J., & Jackson, P. A. (2021). Supplementation with oil rich in eicosapentaenoic acid, but not in docosahexaenoic acid, improves global cognitive function in healthy, young adults: Results from randomized controlled trials. The American Journal of Clinical Nutrition, 114(3), 914–924.
(※)4.Queen, C. J. J., Sparks, S. A., Marchant, D. C., & McNaughton, L. R. (2024). The Effects of Astaxanthin on Cognitive Function and Neurodegeneration in Humans: A Critical Review. Nutrients, 16(6), 826.
(※)5.Matsui, T., Takahashi, S., Funabashi, D., Ohba, C., & Nakamura, K. (2026). Acute milk-protein intake enhances pupil-linked executive function and esports performance during prolonged play. bioRxiv.
(※)6.Matsui, T., Takahashi, S., Yamaguchi, T., Funabashi, D., Imada, T., & Shimizu, H. (2026). A glycaemia-prolonging carbohydrate gel reduces hunger and cognitive fatigue during prolonged esports play. bioRxiv.
(※)7.Raymann, R. J., Swaab, D. F., & Van Someren, E. J. (2007). Skin temperature and sleep-onset latency: changes with age and insomnia. Physiology & behavior, 90(2-3), 257–266.
----------
松井 崇(まつい・たかし)
筑波大学体育系 准教授・博士(体育科学)
1984年生まれ。つくば→京都→東京で幼少期を過ごす。元日本代表候補の父の影響で5才から柔道を嗜む。柔道五段。神奈川県桐蔭学園高校でインターハイ準優勝(2002)、筑波大学でマカオ国際大会優勝(2005)など。運動生化学とスポーツ神経生物学を専門とし、脳のエネルギー源である「脳グリコーゲン」と中枢疲労の関係を研究。近年はeスポーツを通じて、現代人の「脳疲労」のメカニズム解明に取り組んでいる脳疲労研究の第一人者。運動、武道、eスポーツにおけるハイパフォーマンスの神髄を解明し、誰もが夢と絆とともに、健康で幸せに活きることを支援する健幸スポーツライフの創成に取り組む。
----------
(筑波大学体育系 准教授・博士(体育科学) 松井 崇 構成=佐口賢作)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
