※本稿は、葛西リサ『単身高齢者のリアル――老後ひとりの住宅問題』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。
■非正規労働者の居住貧困
単身者に適切な住宅支援を届けるためには、彼らの住宅問題を可視化して整理する必要がある。そこで、2022年、35~60歳で年収180万円~600万円という条件に合致する横浜市在住の男女、それぞれ250名、計500名を対象とした住生活実態アンケート調査を実施した。筆者も監修者としてこのプロジェクトにかかわった。
回答者の平均月収は23万円弱、全体の約6割が正規雇用、残る4割が非正規雇用であった。預金や金融資産は、500万円以上が3割と高いが、「無し」の2割を含め、50万未満が35%を占めた。
住まいについては、回答者の7割が賃貸住宅に住んでいた。その4割が床面積25平方メートル未満の住宅に暮らし、半数以上が6~9万円の家賃を支払っている。平均賃料は、男性より女性で高くなる傾向が認められた。
男女間で明確な違いが出たのが、住宅選定の際のポイントである。例えば、男性と比較して女性では、「公共交通機関から自宅までの距離を優先した」「防犯のために2階以上の住宅を選定した」という割合が20ポイント以上も高い。
あわせて女性では、過去に侵入や盗難、盗撮、盗聴、声掛けやつきまといなどの被害を経験したという割合が、男性よりも10ポイント高かった。これらのことから、女性の平均賃料が高い理由として、オートロックやモニター付きインターフォンの設備、最寄りの公共交通機関から自宅までの治安の良さなど、安心安全のための環境を自ら整備していることが考えられる。
■非正規職ほど高い住宅費負担率
本調査では、月収に占める住居費の割合を示す、住居費負担率を算出している。住居費負担率は家計の30%までが適正とされ、それ以上は高負担だといわれる。分析の結果、賃貸住宅居住者、非正規職というカテゴリーにおいて住居費負担率は特に高く、賃貸住宅に暮らす女性や非正規職では、その平均が3割を超えていた。
また、全体の5割が住居費支払いを負担だと回答し、住居費支払いのために節約をしているという人は男女ともに7割もいた。そのうちの約半数が食費を削り、35%もの人が水道光熱費を節約している。
家賃を工面するために、医療費を節約するという危機的な回答は1割強、女性よりも男性で高くなっていた。このほか、食費や通信費、交際費を削るという回答も2~3割存在し、それらの割合はいずれも男性のほうが高くなっている。
この数字を見る限り、男性では、生計の維持のために、食事や医療などセルフケアにかかわる支出や、友人などとつながるための通信や交際にかかわる費用から節制する傾向があるのかもしれない。この推察は、2020年の人口動態調査の未婚男性の平均寿命が67.2歳と、女性よりも約20年も低いことや、男性の孤独死件数が多いことと無関係ではないように思える。
■家賃が払えなくなるかもという大きな不安
今後の住まいに不安があるという回答は、正規職で46%、非正規職では68%と大きな違いが見られた。
正規雇用と比較して非正規雇用では、契約を打ち切られたり、病気などで働けなくなった場合に保障がなく、収入が途絶えるリスクもある。また、不動産会社からの更新拒絶、転居することになっても初期費用が工面できない、保証人がいないという項目についても非正規職の回答割合の高さが目立った。
筆者がインタビューした40代フリーランスの女性は、コロナ禍で仕事がなくなり、しばらくは貯蓄でしのいだが、いよいよ家賃が支払えなくなった。オーナーが柔軟に対応してくれたため一時は難を逃れたが、生活の立て直しが思うようにいかず、地方の実家へ帰ることを検討していた。
しかし、兄家族と同居する母親から「お互い生活しづらくなる。実家の近くに安いアパートを借りてくれないか」と打診され、頼れる場所もないと落ち込んでいた。
■50代で退去を迫られ、次の家が見つからない
契約の更新を拒絶されたというケースもある。非正規職に従事する50代の女性は、オーナーが代替わりしたとたん、建て替えを理由に退去を迫られていた。確かにその女性が住んでいたのは築古物件だったが、立地のわりに家賃が安く助かっていたという。
立ち退き費用が支給されても、家賃が上がることはもとより、非正規職であることや年齢を理由に次の住宅が見つからないと嘆いていた。
一方、建て替えなどで公営住宅からの立ち退きが必要な場合には、事前に居住者向けの説明会が開催され、建て替え期間の一時的な居所と建て替え後の住宅が保障されるほか、引っ越しのための費用の補助も受けられる。
最後に、一人暮らしの不安について、病気になったときに看病や食料の運搬などで頼れる相手がいるかを尋ねた。その結果、約半数が頼れる相手が「いない」と回答しており、その割合は女性(46%)よりも男性(60%)で高い割合を示していた。さらに、「いる」という回答のほとんどが、親やきょうだいなどの親族で、近所の人などは2%と低かった。
自由回答欄にも、「都会だと近所づきあいもないので、何かあったときに不安」(50代前半、女性)といった声のほか、40代後半女性や50代後半男性からも「孤独死が不安」「孤独死は覚悟しているが、発見までに日にちが経ってしまったら、事故物件になってしまうのかと不安」という声が挙がっていた。
■44歳で手取り13万、家賃4.5万の苦しい暮らし
近畿地方に住むAさんは、長らく非正規職に就き、44歳のときに、キャリアアップを図ろうと一念発起して専門学校に入学した。その間の学費や生活費はすべて貯蓄でまかなった。カリキュラムを順調にこなし、国家資格を取得、晴れて就職を果たしたが、体調を崩し、辞職した。
無理なく働こうと、また非正規職に就いた。手取りは13万円ほど、貯蓄のほとんどを学費に充てた彼女にとって、月4万5000円の家賃の支払いは大きな負担だ。住宅は15平方メートルのワンルームで低質だが、正社員になればもう少し広めの住宅に移ることができると我慢を重ねた。
携帯電話の代金やもしものときの医療保険など、支払いが難しいときには、食費を削るしかない。
数少ない友人の誘いを受けることもあるが、交際費が捻出できないため、断ることが続いている。このままでは、少ない人間関係さえもなくなってしまうと思う一方で、自分の近況を打ち明けられない表面的なつながりよりも、ランチ代の節約のほうが切実な課題だと感じている。
■医療費を払えず、救急搬送され手術
体重も落ちた。ある日腹部の違和感に気づいたが、医療費が出せないために放置した。地方の両親はすでに他界し、実家は兄弟が継いでいて関係も良くなかった。ほかに頼れる親類はいない。なんとか生活しなければと、腹部の痛みをこらえて仕事を続けた。痛みが限界に達し、「死ぬかもしれない」と思ったとたんに救われた気持ちになったという。
「不謹慎なのはわかっているんですが、少なくとも、余命宣告されたら、あと何年分の家賃を確保しといたらいいか予測が立つな、と。いつまで家賃のために仕事を続けるんだろうという漠然とした不安に苦しめられるのにうんざりしてましたから」と彼女は語った。
結局、救急搬送された病院で手術を行い、一命をとりとめた。
■正規の職がないまま母の介護で実家へ
また、ある43歳の女性は、氷河期世代の中でも最も就職率が低かったとされる2002年に正規の職についた。同族経営の中小企業の事務職でそれほど待遇が良いわけでもなかったが、働ける場所があることが嬉しかった。
しかし、数年勤めた頃、その会社が不況のあおりを受けて倒産した。慌てて求職活動をしたが、キャリアも資格もなく、中途で採用してくれるところはなかなか見つからなかった。つなぎにと始めた販売や飲食の仕事を掛け持ちする日々が続いた。
転居もたびたび経験した。低家賃にこだわってシェアハウスにも暮らしたことがある。狭く、不衛生で、騒音に耐えられず数カ月で退去した。また、保証金不要の1Kのアパートにも住んだことがある。
派遣会社に登録し、正社員への道を模索していたころ、地方に住まう母が要介護状態となった。一切の家事ができない父が、低賃金で働くくらいなら地元に戻って介護をしてくれと、頭を下げてきた。母が不憫(ふびん)なこともあり、実家に戻り、母の介護に専念した。介護と両立できる仕事はアルバイトしかなかった。兄や弟には、そんな要求をしなかったのに――「女性だから貧乏くじを引いたのかな」と悔しがっていた。
■住む場所を失っても受けられる支援なし
55歳の女性は、20代の頃に実家から出奔して、寮完備の仕事に就いた。低家賃で住めるうえ、家電なども設備されているため、身軽に動けることをメリットと感じていた。「保証人がいないので賃貸は無理」と考えていたため、転職の際の最優先条件は「寮があること」だった。手取りは多いときで20万円弱、低家賃なので貯蓄もできた。
数年前、貧血やだるさの症状が続き受診したところ、悪性腫瘍が見つかった。軽い手術だろうと、休暇をとって入院した。予後が芳しくなく、職場に事情を申し出て、退職を願い出たとたんに、社員寮からの退去を求められた。次の住まいを探そうと不動産会社へ出向いたが、失業し体調不良とあって、よい物件には巡り合えなかった。
行政にも相談に行ったが、余貯蓄があるから生活保護の受給は難しいと言われただけで、住宅は紹介してもらえなかった。ここからどれだけ医療費がかかるか先行きが不透明な中で、貯蓄が尽きれば「支援できる」と言われたことに、不信感が募った。
「福祉の制度って、低所得の人しか対応しないんですね。住宅を失うということに対しては制度がないって言われて。自分でなんとかしてくださいって」と振り返る。
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葛西 リサ(くずにし・りさ)
追手門学院大学 地域創造学部教授
1975年大阪府生まれ。神戸大学大学院自然科学研究科修了。学術博士。ひとり親世帯、DV被害者、セクシュアルマイノリティの住生活問題を専門とする。著書に『母子世帯の居住貧困』(日本経済評論社)、『13歳から考える住まいの権利』(かもがわ出版)など。都市住宅学会研究奨励賞(2009年)、住総研研究選奨(2016・2025年)、都市住宅学会研究論文賞(2019年)を受賞。
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(追手門学院大学 地域創造学部教授 葛西 リサ)

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