わが子が反抗期を迎えた時、親はどのように関わればいいのか。スクールカウンセラーの普川さんは「問題行動を繰り返していた中学生でも、自ら悪い仲間との縁を切って立ち直った事例がある。
大切なのは子どもを変えようとするのではなく、自分で決められるようにサポートすることだ」という。かかわった不登校の8割が自ら動き出した“子どもとの接し方”を聞いた――(後編/全2回)。
■違法行為に手を染めた中学生のケース
――公立中学校にはさまざまな生徒がいます。いわゆる不良と呼ばれるような素行不良のお子さんのケースでは、どのように対応されるのでしょうか。
個人情報に配慮し、一部、設定を変えたり、複数の事例をもとにお話しします。家庭との関係がうまくいかず、家出や夜間に外で過ごすことを繰り返していた男子中学生のケースです。
周囲からは、「ちょっと違法的なこと、いわゆる闇バイトに巻き込まれていそうだ」という噂も聞こえてくる、一度家出をすると数日帰ってこないような生徒でした。
親御さんも強い不安を抱え、帰宅した際には「何やっているの?」「もう家から出さないわよ」とつい厳しく叱ってしまう。すると子どもは「うるせえ」と反発し、また家を出てしまう――そうしたやりとりが続いていました。
状況を観察する中で、その子がときどき放課後の保健室に顔を出していることがわかりました。そこで養護教諭と連携し、次に来室したタイミングで、私が自然な形で関われるように考えたのです。
放課後、保健室に来た本人に、たまたま居合わせたふりをして声をかけました。
最初は警戒され、「話しかけんな」と拒まれるところからのスタートでしたが、それでも「今日はプリント取りに来たの?」「ご飯とかどうしているの?」といった、ごく日常的なやりとりを続けました。すると少しずつ、「家に帰っていないときは友達のところにいる」「食事はこうしている」といった話を、ぽつりぽつりと話してくれるようになりました。
そこで、「また今度、じっくり話を聞かせてくれる?」と伝え、関係が続いていくきっかけを作っていったのです。
■反抗期の子どもの心を開く「聴き方」
――「家に帰らないとダメじゃないか」といった指導はしないのですね。
そうした言葉を先に伝えることはしないように心がけています。まずは、その子が今どんな状態にあるのか、ありのままに聞いていくことを大切にしています。
「いい友達がいるんだね」「寒いから、体だけは大事にしてね」といったやりとりを重ねていくことで、少しずつ関係が続いていくようになります。
そうやって話を聞いていく中で、「両親との関係がしんどい」「(できのいい)兄ちゃんと比べられるのがつらい」「勉強は苦手だし、学校に居場所がない」といった本音を、少しずつ話してくれるようになります。ネットで知り合ったつながりが自分の居場所になっていることなど、大人が知らない現実も見えてきます。
そうした話を否定せずに受け止めながら、「これから先、どうしていきたいと思ってる?」と、「少し先のことを一緒に考える問い」を徐々に投げかけていきます。
「君、今中2じゃん。中3になって1年経ったら中学校を卒業しちゃうけど、その後どうしたいと思っている?」と聞くと、最初は「1年後も、いまと同じ感じじゃないかな」といった、目の前の現実の延長線上で答えることが多いのですが、「3年先はどうだろう?」「その先はどんなふうになっていそうかな?」と少しずつ時間の幅を広げていくことで、子ども自身の言葉が変わっていきます。

「いや、さすがにずっとこのままってわけじゃないと思う」「どこかで変えないといけない気はする」
そんなふうに、自分の中で少しずつ現状の違和感や、将来への見通しが言葉になっていくのです。そこで「もし変えるとしたら、どのあたりからになりそうかな?」と問いかけると、「中学校を卒業する頃には、何とかしたいかも」などと、自分なりの区切りを考え始めます。
こうしたやりとりの中で、社会の仕組みや選択肢についても少しずつ共有していくことで、「高校に行くことも一つの選択肢なのかもしれない」と彼自身が考え始めました。
大人が答えを示すのではなく、子どもが自ら、自分の言葉で未来を描き始める。このプロセスがとても大切だと感じています。
■「俺、児相へ行くよ」
――未来について考え始めたとき、ご本人の意識はどのように変わっていったのでしょうか。
対話を重ねていく中で、彼は「もう、あの人たち(ネットでつながった人たち)との関係から抜け出せない気がする」「家に戻っても、また同じことを繰り返してしまいそう」と、自分の状況を少しずつ言葉にするようになりました。
「変わりたい気持ちはある。でも、難しい」そうした心の揺れも、率直に話してくれました。その上で、いまの状況から少し距離を取る方法として、いくつかの選択肢を一緒に考えました。
「家に戻って、自分で一切そういう人たちと連絡を断ち、学校に来なくてもいいから普通の生活をしていくことが一つ。もう一つは、嫌かもしれないけど、一度、児童相談所などの公的な施設に入って、物理的に関係を断って生活リズムを立て直すこと。
ただ児相にはずっといられるわけではなく、数カ月で家に戻るのか、さらに他の施設に移るのかを考えなくてはいけない。その間に自分の中でどうやってやり直すかを考えること。今私が提案できるのはそれくらいだけど、どっち選ぶ?」と尋ねました。
どちらが正しいということではなく、「自分にとって、現実的に選べそうなのはどちらか」を考えてもらいました。
しばらく考えたあと、彼は、「……俺、児相に行くよ」と、自分自身で選択したのです。大人に決められたのではなく、自分自身でいまの環境から離れ、やり直すことを選んだ瞬間でした。
■世間体か、わが子との関係か
――大きな決断ですね。親御さんとはどのようなコミュニケーションをとられたのですか。
親御さんには、以前から「彼との関係を作ることを優先したいので、まずは見守っていてほしい」「帰ってきたときは、指示や注意よりも、お子さんが安心できる関わりを大切にしてください」とお伝えしていました。
その上で、本人が自ら交友関係を見直し、児童相談所の支援も受けながら環境を変えたいと考えていることを伝えると、お父様は「そんなことをしたら、周りからどう見られるか」と、強い戸惑いと抵抗を示されました。その思いは、とても自然なものだと思います。
そこで私は、「世間からの見え方と、これからまだまだ続くお子さんとの関係のどちらを大切にしたいのか」を、お父様と一緒に考えていきました。

すぐに答えが出るものではありませんでしたが、話し合いを重ねる中で、ご家族の中でも少しずつ気持ちが整理されていきました。
最終的には、お母様が「私たちだけで抱え込まず、一度そういう所に任せましょう」とお父様に伝えてくださり、ご家族として支援を受ける形で合意することができました。
その後は、児童相談所や警察などの関係機関とも連携しながら、本人を支える体制を整えていきました。私自身も関わりを続けながら、環境が変わる中で本人が少しずつ生活を立て直していく過程を見守りました。
その結果、時間はかかりましたが、問題行動を理由に関係を断ち切るのではなく、家族や学校、関係機関が本人との関わりをつなぎ直していく中で、彼は再び学校に戻ることができたのです。
■誰とでもつながる時代の親の心がけ
――今はスマホで悪い大人と直接つながってしまう時代ですが、子どもを守るために親が心がけるべきことはありますか。
子どもがそうした場所に行ってしまうケースは、家庭や学校の中で「自分の居場所がない」と感じていることが少なくありません。
家の中に、責められることなく自分をそのまま受け止めてもらえる感覚があるとき、子どもは外の世界に居場所を強く求めずにいられます。一方で、家庭が安心、安全な場所でなくなるとき、別の場所に自分の居場所を探そうとなりがちです。
今回のケースでも、本人が学校の保健室に顔を出していたのは、「誰かとつながれる居場所がほしい」という思いがあったからだと感じています。「大人は信用できない」と言いながらも、彼にはどこかで信頼できる大人との関係を求めているふしがありました。
子どもは、ある日急に大きく道を外れるわけではありません。
迷いながら、揺れながら、少しずつ、していいことと悪いことの境界があいまいになっていくのです。
だからこそ、遅刻が増えたり、持ち物や服装が急に変わったりするなど、子どもが日常の中で見せる小さなサインに気づくこと。そして、大人の正義を押し付けることなく話を聞ける関係性があることが大切です。
誰も、子どもを完璧に守ることはできません。それでも、子どもが安心して帰ってこられる場所が家の中にあることは、子どもにとって間違いなく支えになります。そうした小さな関わりの積み重ねが、結果として子どもを守る大きな力になるのだと思います。
■子どもは「やらかす」のが当たり前
――家庭を安全な場所にするための具体的なポイントを教えてください。
親御さんにはまず、「子育ての前提を少し見直してみませんか」とお伝えしています。
親として、問題を起こさない子、失敗しない子に育ってほしいと願うのは自然なことですが、子どもは本来、試行錯誤しながら成長していく存在です。うまくいかないことや、失敗の経験は避けられません。
大切なのは、失敗をさせないことではなく、失敗した後にやり直せる環境や関係性を整えておくことです。親との信頼関係があるとき、子どもは大きく道を外れることを躊躇(ちゅうちょ)しますし、仮にうまくいかないことがあっても、そこから立て直していこうという思いを持つことができます。

子どもが親に話さなくなる背景には、「これを言ったら怒られるかもしれない」「がっかりされるかもしれない」「正解を押し付けられるかもしれない」といった不安があります。
だからこそ、未熟であったり、誤っていたり、大人から見ると危なっかしくても、それも含めて、子どもをそのまま受け止めること。すぐ大人が思う通りに動かそうとするのではなく、その時点の子どもの状態を認めることが、子どもと関係を築く上での土台になるのです。
■親子の「最上位の目標」を確認する
――親がそのまま認めることを意識すれば、必然的に子どもとの関係も変わっていくのでしょうか。
関わり方が変わると、関係は少しずつ変わっていきます。今回のケースでも、もし親御さん主導で「警察に連れて行こう」と強く介入していたら、本人はきっと「親に突き放された」と受け取り、やり直そうとする気持ちにはならなかったかもしれません。
一方で、自分で変わると決めたからこそ、同じ警察や児童相談所の関わりであっても、押しつけではなく「支え」として受け取ることができるようになります。
ただ、その背景には、親御さん自身の大きな葛藤もありました。お父様ご自身、厳しく育てられてきた経験から、「子どもは強く厳しく叱るべき」という考えを持っておられました。そこで私が「その関わりについて、今振り返ってどうお感じになりますか」とお聞きすると、「本当は辛かった」という思いに気づかれました。
さらに、「最終的に、お子さんとどんな関係でいたいですか」と問いかけると、「子どもが大きくなって、『親父、一緒に酒飲もうよ』と言ってくれる関係でいたい」という言葉が返ってきたのです。
このように、親子としての「最上位の目標」が共有されると、子どもへの日々の関わり方も自然と変わっていきます。
「子どもをどう変えるかではなく、どんな関係を築いていきたいのか」。その問いに立ち返ることが、子どもとの関わりを見直す大きな手がかりになるのです。
■自律を育てる親の聞き方
――最上位の目標を見据えながらも、日々、気になることがある時は、どう声かけをしていくといいでしょうか?
日常のささいな場面でも、基本は同じです。まずは本人の考えを最後まで聞くこと。そして、すぐに否定しないことです。
たとえば、宿題をやらずにスマホを見ている子どもに「いつまでスマホ触っているの!」と言えば、その場の空気は一瞬で悪くなります。そうではなく、「今、何してるの?」「明日はテストがあるって言っていたよね」と、状況をそのまま確かめる気持ちで声をかけます。
子どもは内心、「このあと勉強しろって言われるんだろうな」と身がまえながら「うん…明日テストあるよ…」と答えるかもしれません。そこでさらに、「今回はどうしようと思ってる?」と問いを重ねてみます。
すると、「別に。それなりに準備してるし」とか、「いや、今回は捨ててるから」などと、本人なりの考えを話してくれることがあります。どんな答えが返ってきても、まずは「そうか」と受け止めた上で、「どう? 何か手伝えそうなことある?」と声をかけてみてください。
「じゃあ、3分たったら声かけて」などの具体的な頼みがあれば力を貸せばいいし、何も言われなければそこで一度引く。そのやりとり自体が、子どもにとって「大人から尊重された」という大切な経験になります。
大人が子どもの選択を尊重する関わりを重ねていくと、子どもは「自分で考えて決めていいんだ」と感じられるようになっていきます。一見すると当たり前のことのようですが、心配や不安から、つい大人が先回りしてしまう場面は少なくありません。
こうした関わりの積み重ねが、自分で考え、調整し、目的に向かって行動していく力――「自律」へとつながっていくのです。

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普川 くみ子(ふかわ・くみこ)

公認心理師・臨床心理士

東京生まれ。1995年の制度導入の翌年から第一線に立ち続けるスクールカウンセラー。30年間で小中高計12校、のべ3万人以上の児童・生徒・保護者・家族に寄り添い、問題解決に導いてきた、生徒・児童心理のプロフェッショナル。カウンセリング以外にも、親・教員・警察・病院・児童相談所・AIなどと連携した新しい生徒救済システム作りに携わるなど、いま学校教育界でもっとも注目されているカウンセラー。横浜創英中学・高等学校のほか、岡田武史氏が学園長を務める愛媛・FC今治高等学校里山校(FCI)、神野元基氏が理事長・校長を務める佐賀・東明館中学校・高等学校のスクールカウンセラーも務める。

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(公認心理師・臨床心理士 普川 くみ子)
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