■「台湾有事」答弁は何ら問題なかった
2025年11月7日の衆議院予算委員会における高市総理の「台湾有事」答弁は、中国があれほどまでに騒いで問題視するような特別なものであったのか?
答えは、明確なノーだ。
10年前に平和安全法制が議論された際、私は外務省における主管局である総合外交政策局審議官として、国会議員をはじめ各方面に説明にまわる機会が多かった。
この過程では、いかなる場合が存立危機事態にあたり、日本による集団的自衛権の行使が許されるかという点は最もホットな問題だった。
その際、台湾有事における海上封鎖も当然、シナリオの一つとして議論されていた。なんとなれば、国際法上、台湾に対する海上封鎖は明確な「武力の行使」にあたると解されているからだ。
■岡田克也氏のしつこさが顕著だった
衆院予算委員会での岡田克也委員の質問は、まさにこの海上封鎖を前提にしたうえで、いかなる場合が存立危機事態にあたるかについての答弁を執拗に追及したものだった。
やりとりを見ると、台湾有事であっても存立危機事態にはあたらない、したがって、自衛隊が出動することはないとの言質をとろうとしているようにうかがえるこだわりとしつこさが顕著だった。
これに対して高市総理からは冷静に当然の法理を説明した。すでに海上封鎖が行われているという前提に立ち、その封鎖を解くべく米軍が出動し、それに対して中国が「戦艦」(海軍艦艇)を出動させるような場合には「存立危機事態」にあたる可能性があるとしたにすぎない。
■鬼の首を取ったように喧伝して回った
むろん、事態認定イコール自衛隊の出動ではない。出動にあたっては、内閣として慎重な審議と意思決定が必要とされることは当然である。
しかるに、立憲民主党サイドは、中国共産党の猛烈な抗議を見ると、これに呼応し、鬼の首を取ったように問題発言だと喧伝してまわり、挙句の果てには総理答弁の撤回まで求める始末だ。開いた口が塞がらないとはこのことだ。
そもそも、なぜ日本が集団的自衛権の限定的行使を可能とする法制に踏み切ったのか?
なぜ、このような高市答弁が必要になったのか?
この点についての冷静な省察がまったく欠けている。
簡単な話だ。
中国が数十年来にわたる大規模な軍備拡張を行い、アメリカに次ぐ軍事大国に膨張し、今や国防費は公表されているものだけでも日本の4倍を軽く上回る実態がある。それだけでなく、軍備大拡張、装備の近代化につれ、南シナ海や尖閣諸島周辺、台湾海峡などで攻撃的な言動、振る舞いに終始してきたからだ。
■「武力併合」を何度も口外してきた
ことに、台湾問題を巡っては、日中国交正常化以来、日本政府が口を酸っぱくして求めてきた平和的解決を横に捨て去り、「武力併合」を何度も口外してきたからなのだ。
こうした中国の行動こそが問題の源なのであって、平和安全法制や高市答弁はそれへの受動的対応であることをしっかりと踏まえなければならない。
そして、高市答弁はいざとなったら、存立危機事態に該当し、自衛隊が出動することがありうると明確に述べることによって、台湾海峡における中国の冒険主義的行動を抑止する効果を発揮したと指摘すべきなのである。
なんとなれば、台湾併合を目論む中国にとって、日米の介入こそが最も忌むべき展開だからである。
■「『一つの中国』の原則に反した」は本当か
高市総理の発言に中国政府は、「一つの中国」の原則に反したと猛反発している。
「一つの中国」を巡っては、中国側の手前味噌な解釈に加え、日本の識者による議論にも誤解が見られる。
2025年11月7日の衆議院予算委員会で高市総理は、台湾問題について「平和的解決を期待する立場だ」との長年来の基本的立場を述べつつ、一定の場合に「(集団的自衛権の行使が可能となる)存立危機事態になりうる」と発言した。
これに対し、在日中国大使館は、「露骨で挑発的な発言であり、中国の内政への乱暴な干渉で、核心的利益への挑戦だ」と批判した。
林剣(りんけん)中国外務省報道官も、「『一つの中国』原則に深刻に背く」ものであり、「中国の核心的利益に戦いを挑み、主権を侵犯した」「断固として反対し、決して許さない」などと居丈高に反発した。
では、中国が主張する「一つの中国」の原則とは何か?
台湾問題は「中国の内政」なのか?
1972年の国交正常化の際に発出された日中共同声明は、次のとおり規定している。
「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」(第三項)
■日本は同意も受け入れもしていない
中国側がこだわったのは、「台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部」との立場だった。
ところが、日本はそれに同意も受け入れもしなかった。だからこそ、「両国が合意する」との書き方ではなく、互いの立場を併記したのだ。
ちなみに、同声明の第二項では、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」と明確に規定している。第二項は「承認する」の一方、第三項では「十分理解し、尊重」にとどまるのだ。この対比は誰の目にも明らかだ。
すなわち、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることは承認しても、台湾が中華人民共和国の領土の一部であることは承認していないのだ。
■ポツダム宣言を繰り返したに過ぎない
背景には、法的な理由があった。
日本は1952年に発効したサンフランシスコ平和条約で台湾に対する領有権を放棄したため、「放棄した台湾がどこに帰属するかはもっぱら連合国が決定すべき問題であり、日本は発言する立場にない」という立場をとった。
前記の「十分理解し、尊重」は、1972年に米国が中国と合意した上海コミュニケで採用した文言の「認識する」(acknowledge)より踏み込んでいるが、最終的には「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」との文言を加えて決着した。
これはどういう意味か?
ポツダム宣言第八項では、「カイロ宣言の条項は履行せらるべく」とあり、そのカイロ宣言は、「満洲、台湾及び澎湖島の如き日本国が中国人より盗取したるいっさいの地域を中華民国に返還することにあり」と規定されている。
したがって、「中華民国への返還」を日本が認めたと中国側が解しうるようにした一方、日本側からすれば、すでに受け入れていたポツダム宣言を繰り返したにすぎない。
■中国の立場を正当化してしまうとの危惧があった
こうした条約解釈論とは別に、より根源的な事情があった。
すなわち、中国の主張どおりに台湾が中国の領土の不可分の一部であると認めれば、台湾を武力で解放する最終的な権利を有しているという中国の立場を正当化してしまうとの危惧があったのである。
だからこそ、1972年の衆議院予算委員会で当時の大平正芳外務大臣が述べた政府統一見解、すなわち「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には中国の国内問題であると考えます」というくだりの「基本的には」に重要な意味が含まれている。
「台湾の問題は、台湾海峡を挟む両当事者の間で話し合いで解決されるべきものであり、(中略)しかし、万万が一中国が武力によって台湾を統一する、いわゆる武力解放という手段に訴えるようになった場合には、これは国内問題というわけにはいかないということが、この『基本的に』という言葉の意味である」とまで当時、外務省条約課長だった栗山尚一氏は喝破している(「日中国交正常化」早稲田法学第74巻第4号、1999年)。
■「生来の反戦主義者」も認めている
ちなみに、この栗山氏は、彼の30年ほど後に条約課長を務めた私の外務省の大先輩にあたる。1990年に発生した湾岸戦争の際に外務事務次官を務め、生来の反戦・平和・護憲主義ぶりが前面に出た事務指揮で悪名を残した。
自衛隊の部隊が国連平和活動に参加するために海外派遣されるにあたって、「いつか来た道」とばかりに警戒感を露わにし、自衛官の身分だけで海外に出ることに対して頑として首を縦に振らなかった人物である。
そんな戦後平和主義に毒され左傾化した人物が「一つの中国」について交渉記録を残し、中国による台湾の武力解放を許さないとの強い決意を表していることは特記されてしかるべきだろう。
■引き金を引いたのは中国
以上、明らかなとおり、台湾が中国の不可分の領土であるとする「一つの中国」は中国側の独自の主張であって、日本政府として受け入れたことは一度もない。
しかるに、習近平の中国は武力の行使を辞さないとの姿勢を繰り返し明らかにしてきている。
今まで当然の前提であった台湾問題の平和的解決へのコミットメントが中国の軍事力増強とともに消失し、現状変更の貪欲な姿勢が前面に出てきた。
だからこそ、高市総理は存立危機事態にあたりうるとして、中国が冒険主義に訴えないよう、抑止力を効かせる必要がある。
繰り返すが、これが問題の本質だ。引き金を引いたのは中国なのである。この点についての論点ずらしを許してはならない。
----------
山上 信吾(やまがみ・しんご)
前駐オーストラリア特命全権大使
1961年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、1984年外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、2000年在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官、その後同参事官。
----------
(前駐オーストラリア特命全権大使 山上 信吾)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
