※本稿は、金間大介、酒井崇匡『仕事に「生きがい」はいりません 30年の調査データが明かすZ世代のリアル』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■そもそも昔の若者は本当に恋人がいたのか
国立社会保障・人口問題研究所が約5年おきに実施している「出生動向基本調査」では、1987年の第9回調査以降、現在の異性との交際状況を「恋人として交際している異性または婚約者がいる」「友人として交際している異性がいる」「交際している異性がいない」という3択で調査している。図表1が18~34歳未婚、男女別の結果である。
そもそも、「今の若者は恋愛離れしている」という言説が流布すると、何となく上の世代は若い頃、みんな恋人がいたのだと思い込みがちだが、別にそんなことはない。
最新の調査年である2021年調査の「恋人として交際している異性または婚約者がいる率」は男性で21.1%。ピークは2005年調査の27.1%なので、確かに恋人/婚約者のいる率は漸減しているように見える。
女性のピークは2002年調査の37.1%で、2021年調査では27.8%なので同様だ。
ただし、裏を返せば男女ともにピーク時であっても18~34歳未婚者の6~7割は恋人や婚約者がいなかった、ということでもある。上の世代はみんな恋人がいた、というのは完全な誤りで、そんな人は当時でも3人に1人程度が関の山だったのだ。
それに、この項目の聴取が始まった1987年調査の男性の恋人/婚約者のいる率は22.3%と2021年調査とほとんど差がない。この時点の調査対象者は現在の50代後半~60代の人が中心だが、少なくともその世代の男性陣が「俺たちが若い頃は女の子をこうやって口説いたもんだ……」みたいな話を今の若者にする資格はほとんどないと言えよう。
■男性より女性のほうが婚約者のいる率が高い
ちなみに、勘の鋭い読者の皆さんは、どの調査年で見ても男性に比べ女性の「恋人/婚約者のいる率」がかなり高いことに気づかれているかもしれない。これにはいくつか要因が考えられる。
一つはそもそも出生する数がわずかながら男性の方が多いこと、次に18~34歳の中でも未婚者は男性のほうが多いことが挙げられる。
基本的に1対1の男女の恋人関係で、双方の母数に差があれば、母数の少ないほうで比率が高くなるのだ。
特に未婚者の人口が男性>女性となっていることは大きな要因と考えられる。
しかし、残念ながらそれだけでは完全に説明はつかない。他に考えられるのは「35歳以上の男性が18~34歳の女性と」「一人の男性が複数の女性と」「既婚の男性が未婚の女性と」といったパターンで恋人として交際しているケースが(その男女逆パターンよりも)多いことだが、果たしてそれぞれがどの程度影響しているか、調査データ上は想像の域を出ない。
話の本筋とも外れそうなので、ここでは深入りしないほうが無難だろう。
■恋愛離れの正体は“友達以上恋人未満”離れ
もう一つ、勘の鋭い読者の皆さんはさらに重要なことにもお気づきになったかもしれない。図表1のグラフ上、「恋人/婚約者のいる率」のすぐ上に、男女ともに近年、激減している項目があるのだ。
「友人として交際している異性がいる率」がそれである。男性では1987年段階では23.6%もいたのに、2021年には4.7%と大幅に減少している。
ここでの「友人として交際」は「恋人ではないもののデートはしている相手」、つまり「友達以上恋人未満」くらいのレベル感の異性がいると考えてよいだろう。
「友達に異性の人がいる」というだけでは? と思う読者もいるだろうが、他調査のデータを参照すると、そのレベルであれば男女ともに全体の3分の2程度は占めていないとおかしい。
このことからも「友人として交際している」という状態は、「もしかしたら恋人になるかも」「今はお友達から……」、というあいまいな予備軍的存在の異性という解釈が正しそうだ。
つまり、昔の若者は今の若者に比べて多くの人が「ちゃんとした恋人がいる」というわけではなく、どちらかというと「恋人じゃないけどデートする異性はいる」という人が多かった、ということなのだ。
ちなみにバブル期の90年代には、車で送ってくれたりご飯をご馳走(ちそう)したりしてくれる男性を指す、「アッシー君」「メッシー君」という言葉も登場している。
そのような上の世代で一定数存在した「友達以上恋人未満」という関係の是非はともかくとして、今の若者にはあまり見られない状態であることは確かだ。今の若者は付き合ってもいないのに無理にデートする相手を作ったり、求めたりしないだけ、と見ることもできるだろう。
■恋愛“的”消費の減少
1982年から2003年にかけて発行されていた「Olive」という女性誌の1991年7月1日号では、興味深い特集が組まれている。「友だち恋人宣言! 男の子のいない夏、なんて考えられない!」だ。
ちなみに、40~50代の人は知っているかもしれないが、「Olive」自体は決してモテとか恋愛を前面にした雑誌ではない。むしろ、もともとは「男ウケ」よりも自分らしさを重視する女性像、いわゆる「オリーブ少女」を提案していた雑誌だ。
そんな雑誌ですら、恋人がいなかったら、手近な男友達を恋人っぽく仕立ててしまおうという特集を組んでいたことに、恋愛至上主義だった当時の世相を感じてしまう。もはやこれは一種のプレイに近い。
その正体は、「恋愛」というより「恋愛ごっこ」だったのだ(そう断言すると自分自身がえぐられるのだが)。
しかし、商品やサービスを供給する側の立場に立つとどうだろうか。
90年代当時、一定数の若者がちゃんとした恋人関係ではない相手ともレストランでデートし、休日には連れだってスキーやビーチに向かっていた。それが今、急速に消滅に向かっている。
何が言いたいのかというと、消費市場という視点から見れば、「恋愛離れ」というのは実際に起こっている現象でもあるのだ。
ただし、その中身を見ると、ちゃんとした恋人同士による消費が減少したというよりも、恋愛至上主義の世相が作り上げた「友達以上恋人未満」の男女による恋愛“的”消費が減少したことのインパクトが大きいということなのだ。
さらに言えば、近年盛り上がっている推し活に関連する消費の一部には、当時の恋愛“的”消費の要素が引き継がれているようにも思われる。
■恋愛したい若者は恋愛できているのか問題
さて、ここまでどちらかというと若者に肩入れするというか、上の世代の「恋愛しない今の若者と違って、俺たちは恋愛してきたぜ!」というマウントに異議を申し立てる形で論を進めてきた。
実際のところ、現在でも恋愛している、恋人のいる若者はゼロになったわけでは全くない。それは前述の「出生動向基本調査」のデータを元に明らかにした通りだ。
また、生活総研の「若者調査」のデータを見ても、だいたい3人に1人は「現在、デートをする相手がいる」と回答している。
これらのデータに多少安心する一方で、やはりちょっと気になるというか、若者、やっぱり窮屈なのでは? と心配になるデータもある。
同じ「若者調査」では「異性の友達とHな会話をすることに抵抗がない」という項目がある。1994年調査では男女ともに約6割が抵抗がないと回答していたが、2024年調査では男女ともに半数割れしており、特に女性では3割台まで激減している。
実際、若者にインタビューしていても、かなり異性とのコミュニケーションには性的なニュアンスが含まれないよう気を使っていることが窺える。
「同性の友人とは男子校ノリで気兼ねなくふざけた話で盛り上がれるけど、異性がいる場では変な展開にならない話題を選んだり、気を使ったりする必要があります」という男性の声があれば、女性からも「同性の友人と一緒に遊ぶときのほうが、気兼ねなく露出度の高い服でおしゃれできる」という声があがる。拒否回避欲求の強い若者としてはある意味で当然の所作かもしれない。
■異性ではなく同性同士の二人に居心地の良さ
現在の大学のキャンパスでは、セクハラなどのハラスメント防止の啓発は学生同士の関係においても進んでいる。
同じ学部、同じコミュニティ、同じ界隈といった範囲での炎上騒動を身近で見聞きしている若者も少なくなく、特に問題になりやすいのはやはり異性との関係だ。
そういう自分にとってリスクになるタブー要素を若者は意識的にも無意識的にも避け、コンプライアンス(コンプラ)を遵守するようになっている。
そんな調子だから、一緒に連れだって出かける時の「一番居心地のいい組み合わせ」も大幅に同性寄りにシフトしている(図表2)。恋愛至上主義真っ只中の1994年調査では約4割が「異性との二人」を挙げており、また、「男女二人ずつ」というダブルデート的な組み合わせを選ぶ人も約3割いた。
異性を含めた組み合わせを選んだ人は合計で約75%に及ぶ。それが2024年調査では異性を含む組み合わせを全て合計しても35%程度にまで減少しているのだ。
一方で大幅に増加したのが「同性同士の二人」。3人中2人はこの組み合わせを一番居心地がいいと回答している。同性との居心地が良くなった、という側面もあるだろうが、それ以上に異性との居心地が悪くなった、気の置けない関係が作りにくくなったことを痛感させられるデータだ。
■コンプラに抵触しない恋愛とは
「コンプライアンス」(法令遵守)という言葉が日本に輸入されてきたのは90年代後半だが、一般にも広く知られるようになったのは00年代半ばくらいからだろう。
当初は企業の損失隠しとか産地偽装などのニュースで登場する言葉だったが、2010年代に入るとハラスメントなど幅広い文脈で使われるようになった。
そして、今や大学生の口から自然と「コンプラは気をつけないと」という言葉が発せられるまでになっている。彼らはコンプラという言葉が社会に定着するのと同時に生を受けた、コンプラ・ネイティブ世代なのだ。
彼らにとって遵守すべきことの中には、法令だけではなく自分が所属しているコミュニティでのコンテクストも含まれている。
ゼミやサークルは、あくまでも対象となる勉強や活動をすることが全員が共有しているコンテクストであって、そこに恋愛という要素を持ち込むのはリスクでしかない。いや、昔からそうではあったのだろう。
ただ、若者と会話していると許容度が以前より低くなっている。特に自分自身がコミュニティのコンテクストを乱してしまうことをかなり恐れていることがひしひしと伝わってくる。
■マチアプは「精神的に楽だし早い」
では、コンプラに抵触しない恋愛とはどういうものなのだろうか。私が取材したダンススクール所属の大学1年生の女子は、最近マッチングアプリで彼氏ができた。
「出会いを求めている人しかいないので、精神的に楽だし早かった」そうだ。マッチングアプリのコンテクストはそれこそ恋愛の相手を探すことだから、若者にとっては“安心して”恋人が探せるのだろう。
マッチングアプリは近年完全に市民権を得ており、明治安田生命が実施した「『いい夫婦』の日に関するアンケート調査」(2024年)では、1年以内に結婚した夫婦の出会いのきっかけはマッチングアプリが29.8%でトップとなり、それに続く学校の同級生・先輩・後輩の17.0%のほぼ倍の値となっている。友人・知人の紹介はもはや10.6%に過ぎない。
マッチングアプリはサービス開始当初は出会い系サイトの一つと言われ、どんな素性のユーザーがいるかわからないリスクの高い出会い方として敬遠されていた時期もあった。しかし、所属しているコミュニティのコンテクストを乱したくない今の若者にとっては、むしろ直接の知り合いがいないからこそ付き合いやすい、という面もありそうだ。
高校生にインタビューをしていても、同級生よりも上下の学年や違う学校といった、自分の所属するコミュニティから少し外れたところで恋人を見つけたい、という意見が多かった。
もちろん、だからといって学校の最寄り駅で待ち伏せ、みたいなことをする人はほとんどいない。インスタなどでフォローしてDMを送る、というのが一般的なようだ。
ここでも、恋愛はできるだけ普段の人間関係から隔絶された場所で、密やかに行われるものになっている。
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金間 大介(かなま・だいすけ)
金沢大学融合研究域融合科学系教授、北海道医療大学客員教授
北海道生まれ。横浜国立大学大学院物理情報工学専攻(博士〈工学〉)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、東京農業大学准教授等を経て、2021年より現職。専門はイノベーション論、マーケティング論、モチベーション論等。若手人材や価値づくり人材の育成研究に精力を注ぐ。大手企業の他、医療機関や社会福祉法人との連携も多数。主な著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』(東洋経済新報社)、『静かに退職する若者たち』(PHP研究所)、『ライバルはいるか?』(ダイヤモンド社)、『無敵化する若者たち』(東洋経済新報社)など。一般社団法人WE AT(ウィーアット)副代表理事、日本知財学会理事。
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酒井 崇匡(さかい・たかまさ)
博報堂生活総合研究所 主席研究員
2005年、博報堂入社。マーケティングプランナーを経て、2012年より現職。ビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を開拓。長期時系列調査や定性調査などあらゆる生活者データを駆使した発見と洞察を行う。著書に『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)、『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(宣伝会議)、『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。
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(金沢大学融合研究域融合科学系教授、北海道医療大学客員教授 金間 大介、博報堂生活総合研究所 主席研究員 酒井 崇匡)

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