老化をゆるやかにし、認知症予防に効果的な習慣は何か。精神科医の和田秀樹さんは「高齢期になると、料理や字を書くなど細かい作業をしなくなる結果、指先の刺激が減ってしまう。
脳を元気にするため、『今日やることをひとつ書く』ことを習慣化するといい」という――。
※本稿は、和田秀樹『これだけでいい!老けない!ボケない!和田式「アウトプット健康法」』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■いまにつながる「とりあえず書く」の積み重ね
私は精神科医ですが、作家という肩書もあります。これまで950冊以上の本を書き上げ、世のなかに送り出してきました。
いま、「和田秀樹」というと、本書も含めて高齢者向けの本の著者というイメージがあるかもしれません。しかしデビュー作は、いまから40年前の1986年に出した、受験勉強のテクニック本です。灘校の落ちこぼれだった私が、東京大学理科三類に現役合格した体験をベースにしています。
ヒットしたのは、2冊目の『受験は要領』(ごま書房、1987年、のちにPHP文庫)です。受験で大事なのは要領と暗記であり、数学ならば解答法の丸暗記で突破できるという内容で、「和田式受験勉強法」として話題になりました。
もちろん、本業の精神科医としては、高齢者専門の浴風会病院に勤めた経験をもとに、高齢者のための健康や医療、生き方、認知症の予防、うつ病対策などに関する本も数多く出しています。
なかでも、健康寿命が尽きる80歳を乗り越え、幸せな老後を送る新たな方法を提案した『80歳の壁』(幻冬舎)は、超高齢社会を背景に80万部を突破し、2022年の年間ベストセラー総合1位となりました。
このような思いがけない栄誉も、ひたすらテーマを見つけて、売れても売れなくても40年間、コツコツと書き続けてきたからこそ。
そうした「書く」というアウトプットの積み重ねが、いまにつながっているのです。
■認知症に対する強力な予防策に
書くという行為は、単なる記録ではありません。考えを整理し、言葉を選び、文章を組み立てる。この一連の作業で、前頭葉が強く刺激されます。
たとえば、毎日手帳やノートに、その日の予定や出来事を書く。
スマホで管理するのも便利ですが、手を動かし、漢字を思い出し、文章を構成する。そのすべてが脳トレとなります。
もちろん、皆さんは作家を目指しているわけではないでしょうから、いきなり長文を書く必要などありません。
その代わり「今日やることをひとつ書く」。まずは、これを習慣化してください。続けていけば、小さな達成感がドーパミンを分泌させ、脳も元気になります。
もし物忘れが気になり始めたら、付せんを活用するのもいい方法です。
思いついたこと、人の名前、予定などを書いて壁に貼る。これで「書く脳トレ」と「物忘れ防止」という、一石二鳥の効果が得られるでしょう。
このように手書きの効能を挙げましたが、私自身は毎日パソコンで原稿を書いています。パソコンのほうが、書き直しが容易という利点があるからです。何度も修正する過程そのものが思考の訓練になります。
もっとも手書きであれ、キーボードを打つのであれ、大切なのは形式ではありません。心を込めて書くことです。
その点、年賀状も立派なアウトプットになります。ただし、印刷した文に儀礼的にひと言添えるだけでは、脳への刺激はあまり期待できないでしょう。
皆さんが恐れているであろう認知症は、突然やってくるわけではありません。静かに、ゆっくりと進み、いつの間にか、メモをとること自体難しくなります。
だからこそ、元気なうちから書くクセをつける。
これが認知症に対する強力な予防策となるのです。
■キーボードを打つだけで、脳に強烈な刺激
私は毎日、パソコンで文章を書いています。これは職業ですから、書かない日はありません。
パソコンで文章を書く作業でも、前頭葉を十分に使っています。何を書くかを考え、構成を組み立て、言葉を選び、手直しをする。そのうえ、キーボードを打つという指先の運動が加わる。つまり、これは脳と指の連携作業です。
手や指は「第2の脳」ともいわれ、大脳皮質の広い範囲を使います。どのキーをどの指で打つかを瞬時に判断し、誤字を見つけて修正する。この一連の動きは、慣れてしまえば単純作業のように思えますが、実は高度な脳活動なのです。
男性の患者さんに、定年後どう過ごしているか尋ねたことがあります。最初はテレビ中心の生活でしたが、あるとき娘に勧められてパソコンを始めたそうです。

最初は指1本で入力していたのが、半年後には両手で打てるようになり、町内会の広報誌を作成するまでになりました。
そして、久しぶりに会うと「最近物忘れが減った気がします」とのこと。実際、会話の反応も速くなっていました。キーボードを打ち、文章を考え、レイアウトを工夫する。その習慣が、脳への刺激になっていたのでしょう。
さらに前述したように、パソコンには「いくらでも書き直せる」という大きな利点があります。
■積み重ねが前頭葉を刺激し老化をゆるやかに
パソコンを使えば漢字の変換候補もすぐわかるうえ、文の修正、段落の入れ替えもカンタンです。その気軽さゆえに、「書くこと」への心理的ハードルやストレスもグンと下がります。
脳にとって重要なのは「完璧さ」ではなく「継続」。
老化の原理は単純です。使わない機能は衰え、使い続ける機能は保たれる。歩かなければ足腰が弱るように、指を使わなければ器用さは失われていきます。
つまり、続けられるメソッドこそが脳を守るのです。
高齢期になると、細かい作業を避けがちになります。料理をしなくなる、字を書かなくなる。その結果、指先の刺激が減ってしまう。
その点、パソコンは、思考と指先を同時に使う道具です。文章を書くことは、脳のトレーニングであり、キーボードを打つことは指の体操にもなります。
毎日少しでもいい。メールを送る。日記を書く。SNSにポストする。その積み重ねが前頭葉を刺激し、老化をゆるやかにするのです。
とにかく、パソコンでの文字書きを習慣化してみる。
これを強くお勧めします。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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