十分に睡眠をとろうとして早めに布団に入ったのに眠れない。なぜそのようなことが起きるのか。
睡眠障害治療の専門家で東京足立病院名誉院長の内山真さんは「大人の睡眠は体内時計に強く支配されており、無理な早寝はかえって睡眠の質を下げる」という――。(第4回)
※本稿は、内山真『やってはいけない睡眠の習慣』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■もっとも眠りにくい「睡眠禁止時間帯」
次の日の仕事に備えて、あるいは朝から友人と出かけるために、よく眠っておこうと思い、いつもより早い時刻に寝床に入ったことがあるかと思います。たとえばいつもは24時になってから寝床に入って眠りについている人が21時に寝床に入ると、なかなか寝つけないものです。寝つけたとしても、いつも入眠する時刻あたりで目が覚めてしまう。
私たちの1日を通じた眠りやすさの日内変動(体内時計によって変動すること)について、多くの基礎実験が行われています。夜に一定の時刻になると眠たくなるのは、生き物が約24時間で生理的機能をコントロールしている体内時計の働きによるものです。この体内時計の働きで、その人にとっていつも眠る時刻の2~4時間くらい前の時刻に、1日のうちでもっとも眠りにくい時間帯が訪れます。
たとえばいつもは24時になってから寝床に入ってその後すぐに眠りに入る人を想定すると、21時前後は1日のうちでもっとも眠りにくい時間帯なのです。この時間帯は「睡眠禁止時間帯」と呼ばれています。ちなみに、前日に1分も睡眠を取らない徹夜をして睡眠不足の状態であっても、この時間帯には眠りにくいことがわかっています(※1)。

※1 『Neuroscience Letters』2000年「Diurnal preference, sleep habits, circadian sleep propensity and melatonin rhythm in healthy human subjects」(Liu X ら)
■眠る時間は起きる時刻に左右される
私たちの体には24時間強で動く体内時計のプログラムが設定されています。

たとえば朝7時に起きる方のプログラムを考えてみましょう。起きてから2時間くらい経った9時頃には脳が本格的に働き出して、目もシャキッとしてくる。起きてから、6時間、7時間が経って13時から14時頃になると、昼の眠気が訪れます。
そして、起きた時刻からさらに14時間ほど経った21時には、頭も目も冴えるようになります。この後、昼寝で眠たくなる時刻から12時間ほど経った時刻には、いちばん深く眠っている時間帯になります。13時、14時頃に昼寝の眠気が来る人の場合は、深夜1時、2時頃がその時間帯です。その前の0時、1時には眠りについているのが一般的です。
これは代表例であり、皆に当てはまるものではなく個人差があります。しかし、眠る時刻は、起きる時刻に左右されることに変わりはありません。歴史を紐解いてみても、自分の意志の力で眠ろうと思って眠れた人はいません。そのため私たちは、寝床に入って眠る時刻ではなく、起きる時刻をコントロールするのです。起きていること・起きることは状態に応じてコントロールできます。
そして起きる時刻のコントロールが、朝に太陽光を浴びる時刻を決定し、これが体内時計に作用して、眠る時刻を間接的にコントロールすることにつながります。
■生活リズムを安定させる朝日の力
寝つきの悪い人に朝の光を取り入れることが勧められるのは、このためです。睡眠でいえば、たとえば少し眠たいけれども頑張って目覚まし時計をかけていつも同じ時刻で起きて、朝日を浴びるというところから始める。
これが、寝つきの悪さを解消するポイントになってきます。そうしているうちに、朝起きる時刻が定着してきて、体内時計の仕組みを介して徐々に眠りに入る時刻が安定してくるのです。
私たちの体の中で1日のスケジュールを作っている体内時計の仕組みからいうと、朝起きた時に、太陽の光を手掛かりに1日が24時間より少し長いその時計を24時間に合うようリセットします。夜眠る時刻を一定にしていても、それだけでは体内時計のリズムは変わりません。睡眠を改善するには、起きた際に光でリセットされるこの仕組みを安定化するのが効果的です。
生活リズムを一定にするという目的で、早寝早起きを心がけたいと思うかもしれませんが、これは子どものしつけという観点からの話です。一方、大人になると、体内時計も安定してきて、その時計のリズムに厳密に従うようになってきます。
■眠くないのに布団に入るのは避ける
また、子どものように長く眠ること自体もできなくなります。早寝をしようと思っても、眠る前には頭も目も冴えてくる睡眠禁止時間帯が訪れます。
この時間帯には寝床に入らないことが不眠に悩まないための鉄則です。
そもそも、早寝がそれだけで健康的という根拠はありません。熟年になって必要な睡眠時間が短くなってきたら、寝床で過ごす時間を適正化するほうが良い睡眠が得られます。その理由は大きく2つあります。1つは、寝床で横になっている時間が生理的な睡眠時間よりも長いと、結果的に睡眠が分断されたり浅くなったりしやすいためです。もう1つは本能的な問題で、布団の中で覚醒しながら夜に暗いところでじっとしていると、警戒心が増すことがわかっているためです。警戒心が強い状態だと先のことを捉えようとして取り越し苦労が増えてくるのが普通です。こうなると休息感が損なわれていきます。大人にとって大事なのは、早く寝ることではなく、眠くなってから寝床に入ることです。
■起床時間を軸に1日を管理する
そういう意味からも、まずは起床時間を固定することで、体内時計の性質をうまく利用して、24時間の体内機能の流れをマネジメントしていく。たとえば、頭を使う作業は、起床2時間後くらいからと、さらにそこから12時間後の時間帯に集中させるのが効率的です。
眠気が訪れる昼寝の時間帯は、頭を使わなくてもこなせるルーティンワークに当てる。
7時に起きる人であれば、9時からと21時からに頭脳をフル回転させる作業を行う。そして13時から14時頃には、コピーや書類の発送等、必要な作業ではあるものの頭はそれほどまで使わないルーティン業務に割り当てる。
もしくは、環境が許せば短い昼寝をしてしまう。ミドル世代は、早寝早起きを目指すのではなく、こういう考え方にシフトしていくことが大事です。急に変えることは難しいですが、体験的に自分の体内時計の働きを実感すると、考え方も生活リズムも変えることができます。

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内山 真(うちやま・まこと)

東京足立病院名誉院長

1954年生まれ。80年、東北大学医学部卒業。 東京医科歯科大学神経精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長を経て、日本大学医学部精神医学系主任教授(2006~20年)、日本睡眠学会理事長(17~21年)を務める。厚生労働省の睡眠や睡眠障害研究班等の班長を歴任し、検討会座長として「健康づくりのための睡眠指針2014」の作成に尽力した。2020年からこころの医療と高齢者医療を専門とする東京足立病院院長を務め、外来診療も担当。2026年4月より
同病院の名誉院長に。著書に『睡眠のはなし』(中公新書)、『眠りの新常識』(KADOKAWA)、『睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版』(じほう)など。


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(東京足立病院名誉院長 内山 真)
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