アラ古希(65~74歳)世代で働く人は、15年前は37%だったが最近の調査では54.9%。なぜ増えているのか。
ジャーナリストの溝上憲文さんは「働くことが規則正しい生活や健康に資するとの考えもあるが、将来への不安や生活費の補填やゆとりある生活をしたいという願望が大きい」という――。
■働くアラ古希37%→54.9%
働く高齢者が増えている。60~64歳まで高年齢者雇用安定法により、企業に雇用確保義務があるために就業する人は多く、実質的定年は65歳になっている。
65歳から年金の満額支給が始まるが、最近は65歳以上のアラ古希(65~74歳)世代でも働く人が増えている。
65~69歳まで働く人は2011年までは37%程度で推移していたが、2012年以降上昇に転じ、2024年は54.9%と2人に1人以上が働いている(総務省「労働力調査」)。男性は64.8%、女性も45.2%に達している。
さらにその上の70~74歳でも2010年までは22%程度と同世代の2割にすぎなかったが、2011年以降、上昇傾向にあり、24年は35.6%に達している。
また別の調査(内閣府「2024年度高齢社会対策総合調査」)では70~74歳の男性は49.1%、女性は38.1%が働いている。
なぜ働くのか。
■高齢者はなぜ働くのか
スタッフサービス・ホールディングスの「アラウンド古希(65~74歳)の生きがい、働きがいに関する意識調査」(2026年2月12日・3月4日)によると、
働く理由の上位3つは、
「生活のメリハリのため」84.7%

「生活費を稼ぐため」81.9%

「健康・体力維持のため」79.7%
となっている(複数回答、以下同)。
今後も働きたいかという質問に対しては
「とても働きたい」31.3%

「やや働きたい」48.4%
で計79.7%と就労意欲が高い。
今後も働きたい理由は、
「生活にメリハリを持たせたいから」89.5%

「健康・体力を維持したいから」88.6%

「金銭的にゆとりある生活を送りたいから」83.7%
となっている。

今は公的年金だけで生活を維持するのは困難な時代である。働く以上、対価を得るのは当然としても、アラ古希世代は、生活費の補填やゆとりある生活をしたい一方、働くことで規則正しい生活や健康にも資すると考えている。これは働いている人に限定した回答であるが、実は現在働いていない人も19.5%が働きたいと答えている。
また、アラ古希世代は働くことに不安を感じている人も多い。
「働くことによる不安や障害」は何かと聞くと、
「年齢により採用されにくいこと」71.4%

「労働に見合う体力の維持」68.8%

「自分に合う仕事を見つけること」66.7%
となっている。
「年齢により採用されにくいこと」と回答した人は、働いていない人ほど多く、81.1%に上っている。
■ほとんどはパート・バイト
一般的に60歳以上の再就職は難しいといわれるが、アラ古希世代はなおさらだろう。働きたいが働いていない人の働いていない理由では「自分に合う仕事が見つからなかった・採用されなかったから」が最も多く29.6%となっている。
実際に働いている人の雇用形態は
「パート・アルバイト」41.0%

「自営業・自由業」18.4%

「正社員」13.5%

「契約社員」12.1%
となっている。
働いている人の労働時間は、
「週40時間以上」(フルタイム)10.4%

「週10~19時間」8.5%

「週30~39時間」7.1%

「週20~29時間」6.8%
となっている。
アラ古希世代を正社員で雇うところはほとんどなく、この「正社員」にしても65歳まで勤務していた会社で継続して働いている人が多いのではないだろうか。
しかも雇用形態で最も多いパート・アルバイトの賃金は一般的に低く、決して高収入を望めない。

■「正社員として雇ってくれなかった」
実際に契約社員として働いている鈴木龍二さん(仮名・66歳)はこう嘆く。
「60歳以降も契約社員として働いていますが、65歳を過ぎたら、よくて6カ月、3カ月契約になりました。しかも1つの会社の契約期間が終了すると、次の契約が決まるまでに数カ月のブランクがあり、その間をわずかの貯金で食いつなぐしかありません。今後の生活をどうしていくのかが一番の悩みです」
実は鈴木さんは50代後半で外資系企業を退職。人材紹介会社を通じて次の転職先を探したが、正社員として雇ってくれるところはなかったという。
それまで外資系の銀行、半導体、マーケティング企業などの人事担当として10社以上をわたり歩いてきた。
正社員時代の最後の年収は固定年俸1600万円プラスボーナス400万円の2000万円。銀行時代は2400万円だった。60歳以降も外資系企業の人事担当としてプロジェクトベースでの1年契約の社員として働き、年収は2000万円を維持していた。
「人事制度変更にともなう海外拠点での説明会や、グローバル規模のトレーニングの実施業務で、ドイツ、イタリア、イギリス、ポルトガルをはじめアジア各地に出張しました。嫌なこともいろいろありましたが、仕事自体はおもしろかったと思います」
人事というキャリアを活かし、年収2000万円を稼いでいたというから同世代の中でもかなり待遇は高かったと言える。65歳を過ぎてからは3~6カ月と契約期間は短くなったものの、外資系企業の人事業務に携わり、月収100万円の収入を得ている。

■「退職金も消えてしまった」
それでも「不安だ」という。一体なぜなのか。
「もともとお金に執着はなく、老後のことなんて心配してもしょうがないと考え、無駄遣いばかりしていました。転職先を探すのに1年ぐらいのブランクがあり、残っていた蓄えもその間の生活費や、2人の子供の教育投資に消えました。退職金ですか? 10年も勤務すると外資系でも企業年金を含むそこそこの退職金をもらいましたが、すべて一時金でもらっていましたし、これも全部消えてしまいました」
鈴木さんは40代で都内に一戸建てのマイホームを購入。ローンは残っていないが、64歳のときに貯金から1000万円以上費やしてリフォームした。65歳のときにその家を息子夫婦に月10万円で貸し、月15万円の都内のマンションに夫婦二人で暮らしているという。
「年金は、今は妻の分(国民年金月約7万円)だけ受給しています(本人分を含めると将来は夫婦で月25万円受給予定)。家賃以外に車の駐車場代が月に2万円。そのほか食費や娯楽費、生命保険料や雑費を加えると年金だけではとても暮らせません。とにかく働くしかありません」
今の仕事は月収100万円といっても所得税や社会保険料などを引かれると手取りは70万円弱。それでも他の高齢者世帯より所得は多いが、もともと支出額の多い鈴木家としては心もとないのだろう。
また、契約が終了すると、次の仕事先を探すまでの生活費に回す必要があり、さすがに以前のように自由には使えない面もある。
■75歳まで月30万円は確実にほしい
また、徐々に仕事も減っている。
「今の仕事は国内がメインですが、全国の営業所や工場のある拠点に出張し、リーダーシップ研修の講師などをしています。さすがに体力的にもきついですが、何より今の仕事を続けるには年齢の壁がありますし、あと2年もすれば雇ってくれるところはないと思っています」
鈴木さんは「これから病気などの健康面のことを考えると貯金もしなくてはいけません。今の月収より下がってもよいので、できれば75歳まで月30万円確実にもらえる仕事があれば」と強く願っている。
鈴木さんと同じようにアラ古希世代は、高血圧症、糖尿病をはじめ何らかの持病を抱えている人が多く、健康面の不安も大きい。
前出の調査によると、「働くことに関して健康面で不安を感じている」人は「とても感じている」(15.2%)、「やや感じている」(42.4%)。計57.6%が不安に感じている。
平均寿命が延びることは結構だが、それだけ長く生きるには健康の維持と生活していくためのお金も必要になる。アラ古希世代には、“働けどわが暮らし楽にならざる”状況の人も少なくない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)

人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。
月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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