■コメの値段はどれだけ下がるのか
最近、期せずして主要紙の記者とアメリカの政治学の大学教授から同じ質問を受けた。
「この2年間、あなたがプレジデントオンラインや著書で書かれたコメについての予測は、ことごとく的中している。何度となく農林水産省のウソを指摘してウソがばれた同省は謝罪している。あなたは同省とは音信不通の関係で取材もしていないのに、なぜ当たるのか」と言うのだ。
答えは簡単である。
マスコミも専門家と言われる人たちも農林水産省が言うことを信じてしまう。まさか役所がウソをつくとは思わないからだ。しかし、役所も民間企業と同じく、組織の利益を守るためにはウソをつく。
30年も農林水産省の内側にいて際どい仕事もしてきた者には、それがよくわかる。役所の言うことを信じないで(あるいはウソをつくだろうと思って)、データが示す事実を経済の原則に照らして分析すると真実が見えてくる。
コメに関する農林水産省の組織利益とは何か? それはJA農協のために米価を高く維持することである。これが国民や消費者の利益と異なることは、お分かりだろう。
マスコミの報道は、コメの値段が毎週どれだけ下がるかに一喜一憂しているようだ。確かにここしばらく少しずつ下がってはいる。しかし、精米5キログラムが、昨年8月3542円だったものが今年1月に4416円まで上昇した後低下している。
それでも直近(4月27日の週)の値段は3796円である。昨年8月よりもまだ高いし、2年前は2000円を切っていたことを考えると、今の値段でも異常に高い水準だ。
もちろん、生産が増え在庫が積み上がっているなかで、コメの値段が低下傾向にあることは、コメ業界の人たちが指摘しているとおりである。しかし、どこまで下がるのか。
私は、3月11日付プレジデントオンライン「コメ価格が上がるのも、下がるのも『JA都合』…専門家が『暴落は今年9月』と断言する、あまりに理不尽なカラクリ」で、今年9月コメの値段は大きく下がると予言した。
それを補強する事実も出てきた。それを指摘する前に、なぜ9月なのか、なぜ大きく下がるのかについて、もう一度、整理・確認しておこう。
■JAが招いた史上最悪の高米価
2024年の夏にスーパーの棚からコメが消えたのは、前年に収穫された23年産米が40万トンほど猛暑などの影響を受けたからである。このため、本来なら10月から翌年9月に消費されるはずの24年産新米から40万トン分を端境期の24年8~9月に先食いしてしまった。24年の10月から25年9月まで供給されるコメがその分少なくなってしまったのだ。
これにより農家がJA農協を通じて販売する24年産米の価格(60キログラム当たり玄米)は、前年の1万5000円から2万5000円に70%程度上昇した。これにつられて消費者がスーパー等で支払うコメの値段も上がった。「コメは不足していない。新米が供給されるとコメの値段は下がる」と言った農林水産省の予測(ウソ)は見事に外れた。
25年産米はさらに上昇して3万6000円となっている。
ところが、前年、他の業者に負けて十分にコメを集荷できなかったと考えたJA農協が、通常の年なら1万2000円である農家への仮渡金(概算金)を3万円~3万3000円まで一気に引き上げたため、JA農協が卸売業者に販売するコメの価格も3万6000円に上昇したのである。
■生産が増えても価格が上がるトリック
しかし、生産が増えるなら米価は下がるのに、なぜJA農協は高い価格を卸売業者に要求できるのだろうか。ここにトリックがある。
保存できないので収穫したものをそのまま市場に出荷せざるをえない野菜の場合には、生産が増えると価格は下がる。豊凶によって価格が乱高下するのが野菜の特徴である。ところが、野菜などと違い保存できるコメなどの穀物は在庫として保管することができる。生産が増えても、JA農協が在庫量を増やせば、市場への供給量を抑えられる。
過去にも生産が増えたのに米価が上がるという例はあった。市場占有度が高いJA農協は在庫を調整することで価格を操作できるのだ。
■農水省とJAの出来レース
しかし、在庫には金利倉敷料(保管料)がかかる。できれば在庫は持ちたくない。
ここで、登場するのが政府(農林水産省)である。同省が備蓄米として市場からコメを買い上げてくれれば、そのぶんJA農協の在庫は縮小する。つまり政府が納税者の負担によってJA農協の保管料を肩代わりしてくれるのだ。そのうえ、JA農協は米価を高く設定できる。
農林水産省は適正な備蓄在庫を100万トンだとしている。昨年59万トンの備蓄米を放出した。今残っている32万トンも5年古米等で家畜のエサに処分寸前でいずれ新米を買い入れるしかない。
つまり、政府(農林水産省)は備蓄米の買い入れを通じてJA農協等の過剰在庫の100万トンを引き受けてくれることになる。これを見越して、JA農協は異常な在庫を積み増し、それによるバブル米価を実現したのだ。
100万トンは民間在庫が前年比97万トン増加していることと符合している。しかも、この政府備蓄在庫は市場から完全に隔離されるので、市場価格低下の圧力とはならない。農林水産省とJA農協の出来レースである。
■9月にコメ価格が大幅に下がるワケ
しかし、農林水産省は通常1万5000円で備蓄米を買い上げてきたのに、3万6000円で買い上げると財政負担が膨大なもの(今まで行ってきた毎年の20万トン買い入れでも500億円が1200億円)になる。さすがに財務省も首を縦にふらない。JA農協に米価を3万6000円より下げてもらわなければならない。
ところがJA農協にも事情がある。25年産米の価格を下げると、すでに農家に払った概算金から過払い分を徴収しなければならない。これは農家に不評となる。かつて農家が翌年JA農協に出荷しなかったこともあった。
しかし、26年産ならある程度下げても農家は文句を言わない。これまでも米価は毎年変動するのが当然だったし、25年産米はバブル米価なので、これから少々下げても許容される。26年産は9月から収穫・販売される。ここでJA農協は、政府に買い入れてもらうために概算金を下げてくるというわけだ。概算金が下がると卸売業者への販売価格も下がる。私が9月に価格が大きく下がると言ったのは、このためである。
4月農林水産省は備蓄米として21万トンをJA農協等から買うために入札にかけた。落札したのは17万トン、落札率は83%である。次回の入札でこれは100%となる見通しである。
■政府の備蓄米買入れ価格2万円の意味
ここでのポイントは二つある。
農林水産省が買い入れるため落札にかけたのは、今市場で流通して3万6000円を付けている25年産米ではなく、これから作付けされる26年産米だということである。26年産米の価格が低下し、その価格で買い入れることを、JA農協とすり合わせ済みだったのだろう。
もう一つのポイントは、農林水産省がそれ以上では買わないとした落札予定価格が2万500円だったということだ。25年産米の3万6000円よりは下げる、しかし、通常の年の1万5000円までは下げない。
出来レースではないか。
結論を言おう。9月に農家がJA農協を通じて販売するコメの価格は60キログラム当たり玄米で2万円程度に下がる。消費者がスーパーから購入するコメの値段は精米5キログラム当たり2500円から3000円になるだろう。しかし、2年前の2000円以下には下がらない。
■備蓄米は必要ない
備蓄米が100万トンに満たないことは食料安全保障の観点から問題だとか、新たに買い入れる前の備蓄米32万トンは年間の消費量700万トンからすれば国民15日分にしかならないという、指摘がある。
しかし、これは3つの点で間違いである。
まず、政府が在庫を持とうが民間が在庫を持とうが、国民への食料供給という点では違いはない。食料危機が起きればコメの価格は高騰する。そのとき民間業者はその在庫を放出することで利益を得る。
何らかの事情でコメが260万トン不足したとしよう。国内にある政府の在庫が20万トン、民間在庫が150万トンのとき、まずは国内で170万トンをかき集めて対応し、残りの不足分90万トンは海外からの輸入で凌ぐことになる。このときは海外にあるコメの在庫を利用することになる。政府の在庫だろうと民間在庫だろうと海外にある在庫だろうと、コメを食べる消費者には違いはない。
強いて違いを見つけるとすれば、政府にしろ民間にしろ、平時に安く買ったものを危機時に高く売るので、棚ぼた利益” windfall profits”が発生する。それがだれに帰属するかに過ぎない。モノの価格は需要と供給で決まる。原則一物一価である。基本的には、備蓄米だろうがJA農協の販売するコメだろうが価格は同じである。違う値段がつけられれば、安く買って高く買ってくれるところに売ると必ず儲かる。これで最終的には同じ値段がつけれれる。
小泉農相がコメの値段を下げようとしてスーパーでの特売的に備蓄米を安く売ったのは異常なやり方だった。業者でない消費者は転売しなかったが、備蓄米の価格が安いだけで全体の需給で決まるコメの価格水準は変化しなかった。経済学の基本を理解していなかったのだ。
いずれにしても、民間在庫が100万トンも過剰にある今、政府が備蓄米を買い入れる必要性は全くない。JA農協のためとしか言いようがない。
■「備蓄米100万トン」では食料危機に対応できない
第二に、備蓄米100万トンの根拠は、小麦や牛肉等をふんだんに輸入しているためコメの消費量が700万トンにすぎない現在の食料消費を前提として、「10年に1度の不作(作況92)や通常程度の不作が2年連続しても国産米で対応できる量」として約100万トンを適正水準としているものである。
シーレーンが破壊され全ての食料輸入が途絶する際に、国民に戦時中の一人一日当たり2合3勺の配給米を供給するためには、1600万トンのコメが必要となる。毎年の生産量700万トンに備蓄米100万トンを加えても、その半分しかない。国民は半年後に餓死するということである。つまり、備蓄米100万トンは食料危機を想定したものではないのである。
第三に、減反をやめれば、短期的にコメ生産は1000万トン、品種改良で単収が上がれば長期的には1700万トン生産できる。国内消費を700万トンとすれば、短期には300万トン、長期には1000万トン輸出できる。
輸入が途絶する危機の時には輸出もできない。平時に輸出していたものを食べれば危機を凌ぐことができる。最低限の配給米は確保できる。つまり、減反を廃止し、平時に輸出をしていれば無償の備蓄の役割を果たす。裏を返せば、備蓄米制度は減反を前提にしているのだ。
■財務省案に農水省は反発する
なお、財務省は国産米を備蓄用に買い入れるのではなくコメの輸入枠77万トンを備蓄用に使用すべきだと主張している(参考記事:戻らぬ備蓄米、国産限定の入札ネックに 財務省は無関税米の活用提起)。安い輸入米を利用するので財政負担が少なくなるのは事実だ。
しかし、農林水産省が毎年20万トン国産米を買い入れてきたのは、食料危機に備えてのものでも食料安全保障のためでもない。20万トン分市場から隔離することで米価を浮揚させる効果を狙っているのだ。
つまり備蓄米制度は表向きの食料安定供給という理由ではなく、農家・JA農協保護のために作られ運用されてきたのである。備蓄米制度にこのような隠された動機や目的がある以上、財務省案は農林水産省をはじめとする農政トライアングルの抵抗を受けるだろう。食料危機にも備えられ、財政負担もなくせるのは、減反を廃止して備蓄米制度自体をなくすことだ。財務省には、こうした王道の主張をしてもらいたい。
■高市氏が名宰相となる条件
今のところ高市氏には高い人気がある。植物工場への投資、食料自給率100%など、思い付きに過ぎない主張も人気に隠れて目立たない。食料品の消費税ゼロも、十分考えもしないで飛びついただけのようだ。実施しようとすると反対論が続出している。
保守派で安全保障を重視しているというのが売りのはずなのに、装備品の充実だけに目が行き、戦争状態になったときの兵站(食料、エネルギー、弾薬)の重要性を全く理解していないようだ。日米開戦前に、これからの戦争は総力戦になるとして総力戦研究所を作ってシミュレーションした戦前の政府のレベルにも達していない。
中国に、「宰相なる者は、陰陽を理め四時に順い、下は万物の宜を育す。」(天地の陰陽の調和をはかり、四季の移り変わりにうまく順応しながら政治を行い、下には、あらゆるものがそれぞれふさわしいあり方を保てるように整える)という名言がある。
かつて国家としての大きなグランドデザインを作ろうとした、大平正芳や中曽根康弘には、独断専行するのではなく、たくさんのブレーンをうまく活用した。今の高市氏にはそのような人はなく、全て一人で抱え込もうとしているようだ。多くの政策分野で専門性が要求される今日、そのようなことは不可能だ。逆に、減反や再審抗告のように関心もなく得意ではない分野では既得権に丸投げする。
思慮のない思い付きや人気だけで国家運営はできない。当初は高い人気を持ちながら最後は政権を投げ出した、近衛文麿と同じ道をたどるのだろうか?
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山下 一仁(やました・かずひと)
武蔵野大学国際総合研究所研究主幹
1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、同局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員、2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、2026年5月より現職。著書に『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』『国民のための「食と農」の授業』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)、『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備える』(日本経済新聞出版)など多数。近刊に『コメ高騰の深層 JA農協の圧力に屈した減反の大罪』(宝島社新書)がある。
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(武蔵野大学国際総合研究所研究主幹 山下 一仁)

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