90年という長い歴史のなかで、時代の変化とともに進化を重ねてきたリーガロイヤルホテル。その歩みのなかで、揺るがずに守られてきたのは「あたたかいおもてなしの心」だ。


その精神を受け継ぎ、自ら体現しながら次世代へ伝えることで、リーガロイヤルホテルのおもてなしを支えてきた人々がいる。それが「接遇インストラクター」だ。おもてなしの精神を体現し、それを教えることができる社員を着実に増やすことで、ホテル全体のサービス力を底上げしているロイヤルホテル独自の制度である。

今回、この「接遇インストラクター」の育成を通して、「ロイヤルホテルのおもてなし」の土台を長年にわたり支えた、吉田 富貴子氏に話を伺った。

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※写真:「ロイヤルホテルのおもてなし」イメージ

先人たちが守り続けた「お客様を第一に考える心」

──ロイヤルホテルのおもてなしの原点とは、どのようなものだとお考えでしょうか。

私見にはなりますが、おもてなしとは、当社が90年続いてきた「理由そのもの」と言ってもいいかもしれません。大阪の迎賓館として創業した当時から、先人たちが大切にしてきたのは「お客様を一番に考える」という姿勢でした。訪れてくださったお客様に心から楽しんでいただきたい、そして、お帰りの際には「ありがとう」と言っていただけるような空間をつくりたい。その想いの積み重ねが、ホテルの歴史を支えてきたのだと思っています。

私自身、当社では30年のキャリアですが、その間に受け継いだものは、笑顔、あいさつ、そしてお客様をお迎えするときの心構え。これらはすべて創業期から息づくロイヤルホテルの精神だと考えています。

──そのおもてなしの精神を次世代につなぐために設けられたのが「接遇インストラクター制度」だと伺っています。
この制度が誕生した経緯を教えてください。

当社では、社内研修だけでなく、社外でのおもてなし研修を担う「接遇インストラクター」を、これまでにグループ全体でおよそ100名輩出してきました。現在は約50名が現役として活動しています。こうしたインストラクターを体系的に育成するために、約20年前に導入されたのが「接遇インストラクター制度」です。

そのはじまりは、「接客訓練」という名称で新人研修を行っていた頃にさかのぼります。私がロイヤルホテルに入社した当時、接客訓練という言葉にどこか違和感を覚え、「接遇研修」に変えてはどうかと提案をしました。以来、接遇の講義を担当してきましたが、私ひとりでは対応できる範囲に限界があります。「同じ考え方、同じ言葉で接遇を伝えられる人を増やしたい」という声が社内でも上がり、接遇インストラクター制度が立ち上がったのです。

──接遇を教えるのではなく、接遇を教えられる人を養成するという発想に独自性を感じます。

ロイヤルホテルで創業から受け継がれてきた「お客様を大切にする精神」は、いわゆる接遇の原則と驚くほど重なっています。温かい心で接する、笑顔を絶やさない、お客様を放っておかない。こうした先輩方の言葉に耳を傾けるほど、私が学んできた接遇の理論とマッチすることに気づかされました。
接遇の土壌が根づいているロイヤルホテルだからこそ、その考え方を論理的に説明し、誰にでもわかりやすく伝えられる人が複数いれば、どれほど組織は強くなるだろう──その気づきが、接遇インストラクター養成の仕組みをつくる大きな力となりました。

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※写真:「ロイヤルホテルのおもてなし」イメージ

理論と実践の両面から学ぶ接遇の本質

──接遇インストラクター研修の内容を教えてください。

まず柱となるのは、接遇の五原則である「身だしなみ」「あいさつ」「表情」「言葉遣い」「態度」です。大切なのは、これらを実践するだけでなく、なぜ必要なのかをしっかり理解することにあります。そのうえで、敬語、立ち姿、接客動作といった具体的な所作を学びます。講義だけでなく、ロールプレイングを重ねて、実際に身体で覚えていくスタイルを重視しています。

研修は、前期3日間・後期3日間の合計6日間で構成しています。前期では、接遇の五原則をはじめとする基本知識の習得から、教える際のポイントまで、講義とロールプレイングを通して学びます。

そのあと、1カ月間の実践期間を設けているのも特長のひとつです。学んだことを実際の現場でどう生かせるのかを体験し、自らの気づきを深めるための大切な時間です。続く後期の研修では、実践期間で得た気づきや成果を持ち寄り、互いに共有しながら理解をより確かなものにしていきます。

後期を終えると、いよいよアルバイトスタッフなどを対象とした研修で、実際に講義を担当します。
その講義内容や、伝え方、視線の配り方、声の出し方、表情などを総合的にチェックし、講師としての力を点数化します。合格者には、晴れて「接遇インストラクターバッジ」が授与されます。これは、接遇を伝えるプロとして認められた証でもあるのです。

──接遇インストラクター研修を受講するための条件はありますか。

明確な要件はありませんが、実際には2~3年ほど現場で経験を積んでから挑戦するのが望ましいと考えています。受講希望者にはおもてなしに関するレポートを提出してもらい、その内容を踏まえて面接を行い選抜します。面接では、接遇に対する想いや姿勢が第一印象にどのように表れるかも重要な判断材料になります。何より大切なのは、本人に「学びたい」「伝えたい」という強い意志があるかどうか。そこを丁寧に見極めています。

接遇インストラクターになったあとも、年に一度、ブラッシュアップ研修が行われます。その年に誕生した接遇インストラクターが、先輩たちの前で、自分が学んできたことを発表する場面も設けられています。レポート提出から面接、研修、その後のフォローに至るまで、じっくりと時間をかけて育成するこのプロセスは、他ではなかなか見られない特徴かもしれません。


──接客に携わるスタッフの方以外も、接遇インストラクターに合格されているそうですね。

接遇インストラクターには、接客に携わるスタッフだけでなく、営業や商品開発など、普段はお客様と直接関わらない職種のメンバーも合格しています。どの部署であっても「ロイヤルホテルのおもてなし」を共通の視点で語れる人材が増えることで、社内全体の接遇レベルが底上げされると感じています。

さらに、多様な現場を知るスタッフがインストラクターとして講義を行うことで、実体験に裏打ちされた「生きた研修」になる点も大きな強みです。外部講師から学ぶことはもちろん多いですが、自社の業務を深く理解したインストラクターから得られる学びは非常に貴重なものだと思っています。

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※写真:「接遇インストラクター」認定バッジ

一人ひとりの経験と個性を生かしたおもてなし

──接遇インストラクター制度を取り入れたことにより、社内への影響や、お客様の反応はいかがですか。

社内では、おもてなしの原点を見つめ直すきっかけになっていると感じています。接遇インストラクターたちは、日々の立ち居振る舞いや言葉遣いそのものがロールモデルとなり、周囲にいい影響を広げています。「自分もいつかインストラクターを目指したい」と話す新入社員もいて、組織全体のモチベーション向上にもつながっているようです。また、お客様からは「安心感がある」「丁寧で心地よい」といったお声をいただきます。こうした積み重ねが、ロイヤルホテルらしさをさらに磨き上げていく力になっていくのではないでしょうか。

──ロイヤルホテルのおもてなしの未来について、お考えを聞かせてください。


世の中が大きく変化し、AIの知識や活用は必須になっていくと思いますが、それはあくまでも「道具」であって、すべてを鵜呑みにしない姿勢が大切でしょう。そして何より、一人ひとりが積み重ねてきた経験は誰とも同じではなく、唯一無二の価値があります。さまざまなことに関心を持ち、自己研鑽を重ねることで、より質の高い接遇が実現できるはずです。ロイヤルホテルが大切にしてきた接遇の心を大切に守りながら、新しい技術もうまく取り入れていく。その両輪で、これからのおもてなしの未来を育てていきたいと考えています。

──最後に、ご自身にとってのおもてなしとは?

私にとってのおもてなしとは、目の前のお客様に「120%の気持ち」で向き合うことです。例えばレストランの場所を尋ねられただけでも、ただ案内するのではなく、そこにひと言ふた言の会話を添えることで、「来てよかった」「なんだかうれしい」と感じていただける瞬間をつくりたい。その思いはずっと変わりません。温かい声かけと笑顔、そして丁寧なあいさつ。これらを何より大切にしながら、一人ひとりに心を尽くしていくこと。それこそが、私の考えるおもてなしです。

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※写真:株式会社ロイヤルホテル 人事部 吉田 富貴子氏(2026年3月退職)

●吉田 富貴子(よしだ ふきこ)

日本航空株式会社での国際線客室乗務員を経てJALコーディネーションサービス株式会社で接遇講師として活動、官公庁・一般企業等における接遇講師を経験。
その後、1996年に株式会社ロイヤルホテルに入社。人事部 能力開発室 専任講師として、社内外における接遇・マナーの研修や、社内資格制度「接遇インストラクター」の育成に貢献。2026年3月退職。
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