イギリスに拠点を移して約3年半。前作のアルバム『There』以来、まとまった作品集となるEP『Wash Away』を9月13日(金)にリリースするThe fin.。

Interview:Yuto Uchino(The fin.)
──前作『There」リリース以降、The fin.が獲得していったものについてまず聞かせてください。バンドの流れ的に話していくと、今回のEPの前にギターが抜けてThe fin.は2人になったんですけど、最初から自分はThe fin.をバンドバンドしている風に見ていなかったんです。

──イギリスに行ってから増えた情報量とは具体的には?まず1つ思うのは、これはアメリカにも言えると思うんですけど、そもそも今のポップ・ミュージックって、アメリカとイギリスがやっぱ中心というか。だからその土地にはちゃんとルーツがあるんですよね。普通の人にも自然に染み付いてる。だからライブハウスやパブで演奏してるアマチュアの人とか見ても、ちゃんとルーツがあるんですよね。ものすごい自由だけど、基礎が割としっかりしていて、ちゃんとした土台を持ってるみたいなところがあるんですよ。あとは音楽の教育が日本よりレベル高いのかな? と思ったりしました。──情報というか生活にルーツがある場所ということですね。あと1つ思うのは、音楽だけじゃなくてアートカルチャーの根付き方も全然違いましたね。なんでアートカルチャーが大事にされてるかというと、自分を表現するというところを大事にしている人達だからだと思うんですね。

──そもそもロンドンでも東京でもなく第3の場所が必要だったのは何故なんでしょう?単純に大きい家が欲しかったんですね。ドラムを録りたかったんで。ただ、さらに言うと、俺の出身が(兵庫県の)宝塚なので、あんまり大都会が好きじゃないんですよ。東京に2年半住んでたんですが、だんだん寂しくなっちゃったというか、実家に帰ると、ここが正しい場所と思えちゃう。季節が変わっていくのとか、風の匂いとか、そういうサイクルが自分の中で感じられていないと、自分の中で滞留してしまって、自分が新しくなっていかないような感覚になるんです。それで結構、東京にいるのに疲れちゃって。ロンドンっていうのは1つのチャレンジだったんですけど、すごく良かったです。ロンドンって東京みたいなシティじゃないので、自分の中では楽だなって思ってました。でも、ロンドンの大変さって、社会的な部分なので、住んでいると疲弊していくんです。──それでロンドンでも東京でもない場所が必要だったんですね。
The fin. - Come Further
──神出鬼没ですね(笑)。“Gravity“と”When the Summer is Over“と”Wash Away“はイギリスの家で作りました。”Melt into the Blue“もイギリスだけど、また違う家で作りました(笑)。だから、もうどの曲も環境が全然違うんですよ。
The fin. - Gravity (Official Video)
──環境を変えるのは自分の反応を変化させる目的で?それもありますね。あんまり俺って自分で変えようとしないタイプなんです。こういう歌詞を書きたいとか、こういう音楽を作りたいとかいう風に曲を作ることはあんまりなくて、ただ単に自分の中にある今の感じっていうのを常に出していくような作り方なので。──Yutoさんの曲があまりジャンルで括れない理由が少しわかりました。“Crystalline”は特に象徴的ですが、鍵盤のリフに温かいものを感じたんですが、今回の音像はそれがよりわかりやすい印象です。単純にだんだん上手くなってきました。表現したいものを表現するテクニックが単純に上がっているのに加えて、たぶん自分も考えが深くなっているので、歳とったなって思いながら作ってますね(笑)。いいか悪いかは別にして、変わっていってはいるので。──相変わらずチルとかエレクトロ、アンビエントという形容でくくれない。ほんとにそういうジャンルは気にしていなくて。例えば、こういう音楽が作りたいとかも全然ないし。だからその時に作れたものがこれ、みたいな感じなんで(笑)。──コツだけで作るときっと小手先になるだろうし。そうですね。自分のアートとしての指標、中身がないとほんとに意味がないと思っているんです。表現するものがあってガワというか、ジャンルや形式があるんで。でもガワだけを見て、ガワだけ作ったりしてる人もいるじゃないですか。それはそれで音楽ってビジネスの部分も大きいので全然良いんですよ。むしろ、ビジネス目線で見ると、そういう音楽って役割を果たしているな、と思っています。でも、俺がやろうとしているところはそういうことではなくて、もうちょっと意味があるものにできたらいいかなと思います。それは自分の人生にとってもそうだし、誰かの人生にとってもそう。例えば、仕事で音楽をやってたら、多分こういう音楽をしてないと思うんです。仕事と思ってやっていたら、普通に売れる音楽作ったらいいじゃないですか。でも、そうじゃなくて自分にとっても誰かにとっても意味のあるものを作りたいと思っていて、結果、今は仕事になってるっていうサイクルになっているんです。それが崩れないようにしたいなっていつも思っていて、上手くいってるうちは感謝しないとな、と思ってます。

──今作では前作に引き続き、3曲目から6曲目はブラッドリー・スペンス、そしてもう1人のプロデューサー、ジェイク・ミラーとはどういう出会い方を?ジェイク(・ミラー)は友達の友達なんですよ。以前から、「一緒になんかやろう」って連絡をくれていて。オーストラリア出身なんですけどロンドン在住で、このEP作ろうってなった時に1度ジェイクとやってみたいなと思って連絡したんです。その時、彼はオーストラリアにいたんですけど、富士山の近くのでっかい家を借りて、日本に来てもらいました。──またしても別物件が(笑)。その家を1週間借りました。ジェイクはイギリスからエンジニア連れてきてくれて。ジェイクは歳も同じなんですよね。昔、アビーロード・スタジオでエンジニアとして働いていて、今はプロデューサーなんですがエンジニア気質でもあって、ミックスも緻密にやっていくタイプ。機材の知識も豊富なんですよ。ちなみに彼は今、ビョークをやってます。──今回、エンジニアとしてマイク・ボッツィと仕事をしていることに驚いたんですが、どういうきっかけだったんですか?単純に低音の扱いがすごく上手い人なんです。ケンドリック・ラマーとかヒップホップ系もやってるんで、ローエンドの扱いが上手い。結構、ヒップホップのローエンドの感じが大好きで、ふくよかなローを作れる人に1回頼んでみようと思って、一緒にやってみました。──アルバム的に作ってないということなので全体を指しているかはわからないけれど、『Wash Away』というEPのタイトルが象徴するものはありますか?これは単なる曲名です(笑)。でも、俺的にすごく気に入ってる曲なんですよ。自分の中で意味がある曲というか、このEPの中で代表するとなると、この曲かもしれない。プライベート的に1番意味があるかなっていう曲ですね。でも、もちろんどの曲も意味はありますよ。──ちなみに“Crystalline”の歌詞は視点が大人というか、自分を俯瞰している印象で、昔の自分に比べて今の自分に言えることがあるとすれば、っていう内容なのかなと思いました。なるほど、そういうのもありますね。このEPを作って自分で気づいた点というと、だんだんビジョンが大きくなってきてるんですね。昔、曲を書いていた時は自分の人生しか見えていなかったんですけど、最初はバンドを支えようとしていたり、動かそうとしていたりして。そこから自分の人生にバンドメンバーがいて、会社と契約したら会社も見えてきて。ツアーをするとファンの姿も見えてきたり、ロンドンに移住したら日本と海外の違いも見えてきたり。だんだん大きく物事を見る機会が増えていて、自分の人生の中でいっぱい壁にぶち当たって。そうこうしている内に、やっぱり人って常に新しい1日を生きていかないといけないじゃないですか。そうなった時に、俺個人の一人称ではなく、俺たちの経験を含む大きな視点で見た時の一人称みたいなものが自分の中に出てきはじめていて、それを歌詞に落とし込んだりするようになったんかな? と、歌詞を見て思いました。


──的外れな話かもしれないけど、ビヨンセの去年の<コーチェラ・フェスティバル>のパフォーマンスのドキュメンタリー映画の中で、彼女は「人類代表」って言っているんです。人類として新しいパフォーマンスをやるという。やばいですね(笑)。でも、もしかしたらビヨンセと言っていることは一緒かもしれない(笑)。──Yutoさんが感じた「俺たちの視点ので見たときの一人称」もいわば人類じゃないのかなって。そうですよね。人が何かを思い切りやる時って、絶対どっかに原動力があるじゃないですか。そして、その何かを続けている人って、原動力が大きい人が多いと思うんです。最近、その原動力がだんだん大きくなっていくにつれて、自分のやってることも大きくなっていくように感じています。ここ数年のThe fin.はフェスやツアーの規模が大きくなっていって、人の数だけじゃなくて地域的にも大きくなってきました。そうすると、今まで自分が個人としてこだわっていたものが意味を持たなくなってきたりするんです。それはいい面も悪い面もあるんですけど、そういうものも全部音楽に結びついてきているので、大きいビジョンで何かを見て、何かを表現するっていう風になってきているのかなと思います。──規模が大きくなった理由は世界でThe fin.の音楽に似た感覚や感銘を抱く人がいるからでは?だからどこに行っても通じ合えるんですね。これは結構前に考えていたことなんですけど、¨なんでThe fin.は海外に出ていけたんだろう?“って。今、The fin.が海外でこういうポジションがなかったら、俺は音楽を続けられていなかったと思うんです、日本の中だけでは。音楽の形を変えるか、音楽をやめて仕事しながら好きな音楽を作るか、って2択しかなかったと思います。でも、なんで俺は海外に出てこういう活動ができていて、音楽を作り続けられているんだろう?と考えたときに、自分が作る音楽はカルチャーが違っても、育った環境とか肌の色とか目の色とかが違っても、人として本当に感じるものをちゃんとシェアすることができる音楽なんだなって、自分で俯瞰して見ることができたからなんです。だから、みんながライブに来てくれて、感動してくれて、好きでいてくれるんだなって思うと、自分に素直に制作するっていうプロセス、本当に思っているところから生み出していくっていうプロセスが、結局、現在のあり方につながっているのかなと思いました。──人類代表みたいな人は最終的にその表現がポップなものになっていくんじゃないか? と思います。そうなんです。やっぱり新しいものを作っていかないと、とは思います。今回の曲を作る時、プロデューサーのジェイクと「聴いたことがないサイケデリックを作ろう」と言ってました。サイケデリックって聞いたときにみんなが思い浮かべるサウンドじゃなくて、そのサイケデリックってものが持ってるイメージを違う風に表現する、みたいな。実際、曲ができた時に新しくて変な音楽を作ることができたと俺は思いました。そういう新しいものを作らないと、常に世界も変わっていくし、人も変わっていくし、状況も変わっていくわけだから。──特に今の世界の情勢はどの国も自国に閉じていて息苦しいし。やっぱり人間ってルールブックみたいなものをお互い見つけないといけないと思うんです。「これが大事だよね」とか「これはやっぱいらないよね」とか、そういう風に共同体として前に一緒に進んでいかないと、見失った時に暴力とかダメな方に行くと思っていて。そういう時に、アーティストってどんなところからでも光を持ってくることができると思っていて、それがアーティストの大事な役割なんかなと。その考えはすごく大事にしたいなと思いますね。

Text by 石角友香Photo by Kohichi Ogasahara

The fin.神戸出身、ロックバンドThe fin.。80~90年代のシンセポップ、シューゲイザーサウンドから、リアルタイムなUSインディーポップの影響や、チルウェーヴなどを経由したサウンドスケープは、ネット上で話題を呼び、日本のみならず海外からも問い合わせが殺到している。The Last Shadow Puppets、Phoenix、MEW、CIRCA WAVESなどのツアーサポート、<FUJI ROCK FESTIVAL>、<SUMMER SONIC>などの国内大型フェス始め、アメリカの <SXSW>、UKの<The Great Escape>、フランスの<La Magnifique Society>、中国の <Strawberry Festival>などへの出演、そしてUS、UK、アジアツアーでのヘッドライナーツアーを成功させるなど、新世代バンドの中心的存在となっている。また8/25(日)からはバンド自身最大規模となる中国で全13公演15,000キャパシティのツアーが決定しており、全公演がソールドアウトしている。
RELEASE INFORMATION

Wash AwayThe fin.
2019.09.13(金) リリース01. Come Further02. Crystalline03. Gravity04. When the Summer is Over05. Melt into the Blue06. Wash Away[Format] DIGITAL DOWNLOAD/STREAMING詳細はこちら
EVENT INFORMATION

#thefin_03
2019.11.23(土・祝)渋谷WWW XOPEN 16:45/START 17:30ADV ¥3,600 (Drink代別)チケット発売中2019年11月29日(金) 心斎橋ANIMAOPEN 18:30/START 19:00ADV ¥3,600 (Drink代別)詳細はこちら
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