1988年生まれで現在31歳の川谷は、ストロークスのデビュー時における、いわゆる「ロックンロール・リヴァイヴァル」をリアルタイムで経験した世代ではない。しかし、「ロックンロール/ガレージ」という一面的な見方ではとても語れない、ストロークスのアブノーマルにしてモダンな魅力を探る上では、常に最新の音楽を探している川谷のようなリスナーこそが適役なはず。ゲスの極み乙女。やindigo la Endの話を交えながら、現代における「バンド」や「ギター」のあり方についても幅広く聞いた。
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―まずは、ストロークスとの出会いから教えてください。
川谷:俺自身はストロークスよりもアークティック・モンキーズの世代なんですよね。大学生だった2007年とか2008年くらいのUKロックにどハマりして、アークティック・モンキーズとかブロック・パーティが好きで、リバティーンズ好きの友達から、「リバティーンズが影響を受けたバンド」って、ストロークスを教えてもらって、最初に聴いたのが「Juicebox」。当時はそれが3枚目のアルバムに入ってる曲だとかいうことも全然知らなかったですけど、一回コピバンをやって、そこでは「Juicebox」と「12:51」をやりました。
2006年発表の3rdアルバム『First Impressions of Earth』収録曲「Juicebox」
2003年発表の2ndアルバム『Room on Fire』収録曲「12:51」
―アークティック・モンキーズとか他のバンドと比較して、ストロークスはどんな印象でしたか?
川谷:「Juicebox」はめっちゃ好きだったんですけど、『Is This It』(2001年発表の1stアルバム)の曲とかは当時あんまりわかんなかったんですよね、アークティックとかの方が洗練された印象だったし。あと大学生時代の無知な自分からするとちょっとロック過ぎたっていうか。ウィキとか調べると、メンバーが富裕層の出身って書いてあって、それもうーんって思ったり(笑)。リバティーンズとかアークティックの方が斜めに構えてない感じがしたというか、大学生だった自分にとってはそっちの方がよかったんですよね。
―もともとホワイト・ストライプスとかゆらゆら帝国が好きだった絵音くんからすると、初期のストロークスはギターの歪みも足りなかったのかなって。
川谷:ちょっと聴いた曲が軽快なリズムのバッキングが多くて、わかりやすいリフがあんまりなかったから、それがちょっとなっていうのはありました。あんまり聴いてないくせに(笑)。あとはもうちょっと暗い方が好きなんですよね。ホワイト・ストライプスが好きになったのも「Jolene」のライブ動画からだったし。それがカバーだっていうのもあとから知るんですけど(笑)。
「また時代がストロークスに追いついた感じがする」
―じゃあ、ストロークスにどハマりしたきっかけは?
川谷:2013年に(5作目の)『Comedown Machine』が出て、それがめっちゃ好きで。「Tap Out」にはすごく影響を受けてて、当時のインディゴの曲作りのときに、「こういう感じのギターを弾いてほしい」って、長田くんに何回も言ったことがあります。あとは、ジュリアンって声が低いイメージだったんですけど、「One Way Trigger」の裏声を聴いて、そこで改めてめっちゃいい声だなって気づいて。それまでは渋いロックなイメージで、きれいに歌うイメージがあんまりなかったから、結構裏切られたというか。でも一回そのイメージが(自分のなかで)定着すると、昔の曲もめちゃくちゃよく聴こえるようになったんですよね。(『Is This It』収録曲の)「Last Nite」とかも、昔は全然わかんなかったんですよ。
―「Tap Out」のギターに影響を受けたっていうのは、どんな部分ですか?
川谷:それまでギターの歪みに対して新鮮さを感じることがほぼなかったんですけど、「こんな音が出せるんだ」って思ったんですよね。それは今回の新譜『The New Abnormal』を聴いてもそうで、「この音どうやって作ったんだろう?」って思いました。ギターのコードがジャーンって鳴っても、Spotifyのプレイリストとかだとしょぼく聴こえちゃうじゃないですか? いわゆるトラップっぽい音の方がよく聴こえるわけで。でも、今回のはギターが全然しょぼくなくて、分厚過ぎないし、アルペジオも絶妙な音で。プロデューサーが(リック・ルービンに)なったのも大きい気もするんですが、また時代がストロークスに追いついた感じがするっていうか。
今ってチルなR&Bが飽和して、ポストパンク的な音が盛り上がってるじゃないですか? ムラ・マサの新作『R.Y.C』もそうだし、「BBCが選ぶ今年の新人」みたいなやつでも、ポストパンクのバンドが3つぐらい入ってて、スクイッドとかかっこいいなって思うし。狙ったかどうかはわからないですけど、ストロークスのアルバムもその流れになっていて、2020年の重要なアルバムになるんじゃないですかね。ジュリアンも「カムバック」みたいなことを言ってたし、すごい自信あるんだろうなって。
―去年の大みそかのブルックリンのライブで宣言してましたよね。
川谷:それってすごいことだなって。
ムラ・マサ『R.Y.C』収録曲「No Hope Generation」
―ゾーンに入ってる、みたいなね。具体的な曲で言うと、どの曲が好きですか?
川谷:先行で出た「At The Door」はシンセのフレーズだけでずっと行き切ってて、すごい最新型のアルバムが出るのかと思ったら、次の「Bad Decisions」はいかにもストロークスな感じでしたよね。で、一周聴くと……結局「At The Door」が一番好きだなって。とにかくアルバム全体で音がいいんですよ。分厚いけど、ちゃんと隙間があって、詰まってはないのに、物足りなくないっていうか。「At The Door」もシンセの音めっちゃ太くて、ドラムが入ってなくても全然成り立ってる。なかなか難しいことですけど、それをサラッてやってる感じもすごい。逆に「Bad Decisions」は一番聴いてなくて、「At The Door」のシンセ聴きたくなっちゃうっていう(笑)。
―その感じは今のストロークスの聴き方として一番正しい気がする(笑)。
川谷:ソロをやりながら変わってきた部分もあるかもしれないですね。ザ・ヴォイズも最初はストロークスっぽかったけど、去年出したシングルはソロっぽい感じになってて。俺もゲスとインディゴとふたつずっとやってるから、ゲスがインディゴっぽくなったり、インディゴがゲスっぽくなったりって、どうしても避けられない問題というか。で、去年のヴォイズがソロっぽいっていうことは、ストロークスの新作はストロークスっぽくなるんじゃないかと思ってて、そこは予想通りそうだったかなって。
井上陽水の曲からストロークスの音が聴こえる?
―一度話題をストロークスの話から絵音くん自身に移すと、「ストリーミングの時代においてバンドがどんなアプローチをするべきか?」みたいな話は2010年代後半ずっと言われてきたことですが、ゲスの新作『ストリーミング、CD、レコード』においては、どんなことを意識しましたか?
川谷:最近は特に、海外のサウンドに憧れてそのまま参照する人が多いじゃないですか? そこに日本語の歌が乗って、「日本っぽい」みたいな。そうはしたくなかったので、洋楽そのもののサウンドになり過ぎないようなトラックアレンジにはしました。あとはストロークスの取材で言うのは何ですけど、とにかくギターを弾かないっていう(笑)。
『ストリーミング、CD、レコード』に収録される「人生の針」
―まあ、そこはバンドの編成が全然違うしね(笑)。
川谷:チルってる場合じゃないけど、でもただロックをやってる場合でもなかったっていうか。さっきも言ったように、歪んだギターを鳴らすと、どうしてもプレイリストでしょぼくなっちゃうっていう問題がある。いい音にするには、ミドルに音を集めないで、わりとスカスカにする必要があって、その一番の有効打が、ギターを弾かないってこと。
―ははは(笑)。
川谷:ポストパンクの流れも含めて、ギターがまた来てると思うから、今作ったらまた違うものになると思います。ちょうど昨日、課長と一緒にストロークスを聴いてたんですけど、やっぱり「歪みの質すごくない?」って話になって、ギターを弾きたいなって。
―それで言うと、むしろインディゴですよね。ギターが2本あるバンドなので。
川谷:インディゴは今ちょうど制作をしてて、そっちはそっちでまた全然違う感じっていうか(笑)。もちろん、ギターは弾いてるんですけど、どっちかっていうと、昔の歌謡曲っぽい感じで、楽器のアレンジもモロにそっちに寄ってて。ユーミンさん、達郎さん、井上陽水さんとか。あとは俺フォークって全然聴いてこなかったんですけど、そういうエッセンスも入れたいなって思ってて。
―2月に配信された新曲の「チューリップ」も絵音くんはアコギですよね。
川谷:そうですね。今また3曲作ってて、一曲はフュージョンとかファンクみたいな感じで、ギターもラインで録ってて、あとはめっちゃジャズロックみたいなのと、これからフォークっぽい曲を作りたいなって。あっ、あと陽水さんの昔の曲で、「娘がねじれる時」っていう曲があって、それがめっちゃストロークスっぽくて好きなんですよ(笑)。途中のギターとかめっちゃストロークスで、(誰の曲か)知らないでその部分だけ聴いたら、「これストロークス?」ってなるくらい。ギターとアレンジが高中正義さんで、今度もし誰かに曲提供する機会があったら、叶うなら高中さんにアレンジ頼みたいなと思ってるくらい好きで(笑)。
「娘がねじれる時」は井上陽水の79年作『スニーカーダンサー』に収録
―なるほど。フュージョン視点でストロークスを見たら、また違った見え方ができそう。
川谷:今って「どうやったら海外で日本の音楽が聴かれるか」みたいな話もあるけど、結局日本が感じられないと、誰も聴いてくれないと思うんです。洋楽っぽくやっても、日本人が聴く分にはオシャレって思うかもしれないけど、海外の人からすれば、わざわざ聴く必要ないって思われちゃうと思うから、そうはなりたくないなって。で、誰を参考にするかってなると、達郎さん、ユーミンさん、陽水さんを聴けば、そこにはヒントがめちゃくちゃある。昨日もずっと陽水さんを聴いてたんですけど、「これ今でいえばストロークスだな」とか「これテクノじゃん」とかいろいろあって、そういうのを自分流に消化して出したら、今の日本にはないものが作れるんじゃないかと思ってるんですよね。
この状況下にロックンロールが目を覚ますか
―途中で「またギターが弾きたくなった」という話がありましたが、Rolling Stone Japanの最新号では「いまこそ楽器を」という特集をやっていて。休日課長とサンダーキャットの対談も載ってたりするわけですけど、絵音くんは楽器の可能性、生演奏の可能性について、どんな風に考えていますか?
川谷:ギターはこれから来ると思いますね。今コロナですごいことになってて、全世界平等に、すべての人が負のオーラを感じてる。こんなこと今までなかったと思うんですけど、これを打破する音楽って打ち込みじゃないなって思うんですよ。まあ、実際はみんなリモートワークになってて、さらに打ち込みが増える可能性も十分あるけど。でもやっぱりギターで、安直かもしれないけど、ロックスターみたいな人がコードひとつで世界を変えるみたいな、そういうことってありうると思うんです。ここで一回リセットされて、エンタメの構造も全部変わっていくと思うんで、その空気感をいち早く切り取って音楽にするには、自然とギターになるっていうか。実際、俺もひさしぶりにギターを弾いたら、自然にゆら帝の「すべるバー」を弾いてて、自分もこういうマインドになってるんだなって。
―社会的にも、大きな時代の転換点を迎えていることは間違いないでしょうからね。
川谷:時代を変える……というか、時代はもう変わっちゃうから、そこでどういう音楽が出てくるかって、すごく重要だと思うんです。Spotifyで新曲を聴いても、「またこういうトラックか」ってなるのに飽きたというか。ニューリリースのページから曲を聴いてもちょっと違うなと思うものが多いというか。もちろんかっこいい音楽は山程あるんですけど、今の自分は確実に違うものを欲していて、ストロークスがこのタイミングで出るっていうのは意味があるなって。
―途中の「ゾーン」みたいな話で言うと、ストロークスの新作は社会的な意味でもゾーンに入ってることを感じさせる作品ですよね。今回のコロナで一番ヤバいことになってるのがニューヨークで、そんな中ニューヨークを代表するバンドが、ニューヨークを代表する画家であるバスキアの作品をジャケットに据えて新作を発表する。「ABNORMAL」というワードにしても、音楽的な意味でも、社会の危機という意味でも取れるタイトルだと思うし、誤解を恐れずに言えば、やはり「持ってる」バンドだなって。
川谷:めちゃくちゃ「持ってる」バンドだと思いますね。
―世界の音楽シーンの変化という意味でも、何かの予兆のような作品になるかもしれない。
川谷:「変わる」というよりは「戻る」のかなって。オアシスが再結成するしないみたいな話もあって、それが実現したらさらにその動きが加速すると思うんですけど、今の若い人にとってはチルな音楽の方が普通で、ロックンロールに戻ると、それが逆に新しいっていうことになると思うから。
―ストロークスの登場もまさにそうだったわけですよね。90年代にダンスミュージックが台頭して、チルっていう意味だと、90年代終わりの方にはエレクトロニカも出てきて、そういう中でシンプルなロックンロールを、ちゃんと2000年代の形で提示したことが新しかったし、だからこそ誰もが熱狂したわけで。そう考えると、やはり歴史は繰り返すというか。
川谷:20年前にやったことをもう一回アップデートしてやるというか、そういう感じもありますよね。
―ちなみに、他にも今気になってるバンドっていますか?
川谷:ポストパンクで言うと、さっき挙げたスクイッドもそうだし、Snapped Anklesってバンドもかっこよかったです。最初の話に戻りますけど、俺が大学生のときも音楽友達周りでポストパンクが流行ってて……もはや「ポストパンクってどこからどこまでなのか?」みたいな話もありますけど(笑)、でもそれから時を経て、今改めてすごく新鮮で、やっぱり時間って必要だなって。フォールズとかも、一時期アンビエントな方に行ってたけど、Amazon Primeでドキュメンタリーを見て、やっぱり今の時代に必要なロックバンドだなって思いました。俺も一時期はロック的な歪んだギターがクールじゃないなって思ってたんですけど、今だったらちょっといなたいチョーキングとかも使い方によっては全然アリだなって思うし、そういう中で、自分なりの答えを出したいと思ってます。
ザ・ストロークス
『ザ・ニュー・アブノーマル』
国内盤CD:2020年4月10日(金)発売
歌詞・対訳・解説付き
配信リンク:https://lnk.to/TheStrokesTheNewAbnormal
FUJI ROCK FESTIVAL 20
日程:2020年8月21日(金)~8月23日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
時間:9:00 開場/11:00 開演/23:00 終演予定
※ザ・ストロークスは8月22日(土)に出演
https://www.fujirockfestival.com
ゲスの極み乙女。
『ストリーミング、CD、レコード』
2020年5月1日より全曲配信開始
配信リンク:https://gesunokiwamiotome.lnk.to/johPu