「One World: Together at Home」でのオンライン共演も話題となった「無情の世界(You Cant Always Get What You Want)」。アルバム『レット・イット・ブリード』収録のクラシック曲の初ライブ演奏はストーンズの「ロックンロール・サーカス」スペシャルでのこと。
ブライアン・ジョーンズとの演奏もこれが最後となった。

2020年が始まったとき、ローリング・ストーンズは継続中の「ノー・フィルター」ツアーで北米中のフットボール・スタジアムをソールドアウトにし、再びステージに立つと思ったことだろう。理論的には年末までに日程を調整してツアーを実現することが可能とは言え、現実的には2021年もしくは2022年まで待つことになる確率の方が高い。

ストーンズ・ファンは、週末のグローバル・シチズン主催のイベント「One World: Together at Home」で彼らのライブ演奏を垣間見る機会を得た。彼らはそれぞれの自宅から「無情の世界」を演奏したが、エアドラムだったチャーリー・ワッツの姿にファンは困惑を隠せなかった(ストーンズの代理人はワッツの演奏についてのコメントを控えた)。とは言え、世界中が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために閉鎖されている現在、人々が自分の求めるものを手に入れられない現状に見合った合理的な選曲だった。

●1968年の「無情の世界」初ライブ演奏を見る

「無情の世界」は1969年のアルバム『レット・イット・ブリード』に収録されており、1972年の『メイン・ストリートのならず者』ツアー以降、ライブでの定番曲となっている。これまで総計で757回演奏されてきたこの曲は、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」「ブラウン・シュガー」「ホンキー・トンク・ウィメン」「ダイスを転がせ」「サティスファクション」「スタート・ミー・アップ」「悪魔を憐れむ歌」「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」と匹敵する演奏回数だ。

第1回目のライブ演奏は1968年12月11日に「ロックンロール・サーカス」スペシャルの収録時に行われた。このショーには、ジェスロ・タル、ザ・フー、タージ・マハル、マリアン・フェイスフルなど錚々たるメンバーが集った。さらにジョン・レノン、エリック・クラプトン、キース・リチャーズ、ミッチ・ミッチェル、オノ・ヨーコ、イスラエル人ヴァイオリニストのイヴリー・ギトリスで結成した一度きりのスーパーグループ、ダーティー・マークも登場した。

ローリング・ストーンズ、1968年の「無情の世界」初ライブ演奏を振り返る


今回紹介する「無情の世界」のビデオはその番組で演奏されたもので、ストーンズ以外にピアニストのニッキー・ホプキンス、パーカッショニストのロッキー・ジジョルヌも参加している。
また、ここでのライブ演奏がストーンズでブライアン・ジョーンズが演奏する最後の姿で、ジョーンズはこの7カ月後に死亡した。ビデオの最後の方ではジョン・レノンとオノ・ヨーコが明るい色のケープをまとって、観客と一緒に歌っている姿も見える。

この映画はしばらくの間お蔵入りしており、全編が公開されたのは1996年にDVD化されたときだった。お蔵入りしている間にリリースされない原因があれこれ囁かれたが、ミック・ジャガーが終日続いた撮影で疲労困憊になり、収録された演奏のクオリティが標準以下になったと感じたことが一番の理由だと言われている。また、ジャガーは強烈な「ア・クイック・ワン」を演奏したザ・フーに注目を奪われたと感じたとも言われてきた。もしかしたら、ステージ上のブライアン・ジョーンズが蔑ろにされる侘しいイメージも原因の一つだったかもしれない。

現時点でストーンズが再びライブを行なう時期を予測するのは不可能だ。医療専門家たちが口を揃えて、国内を元の状態に戻したいのであれば大勢が集まる状況を作らないことが一番だと言い続けている。ローリング・ストーンズのコンサートに集まる人数以上に集まるような集会などほとんどない。ということは、新型コロナウイルス発生以前の状態に戻ったことを確認する究極の方法が、ストーンズのツアーが再開されることとも言える。

そのとき、チャーリー・ワッツは80歳台に突入するのだが、今回のイベントで彼が見せたエアドラムに惑わされてはいけない。今でも彼は2時間のライブでパワフルに演奏し続けているし、演奏後の最後の挨拶で息切れする姿を晒したことは一度もない。
ストーンズが再びステージに立つとき、ワッツは確実にそこにいる。そして、エアではなくリアルなドラムを叩くのだ。
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