【写真を見る】熊木幸丸とGEN
未知のリスナーにプレゼンする場としての音楽フェス
ー二人がガッツリお話するのは今日が初めてなんですよね?
熊木 そうですね。フェスでご挨拶させていただいたり、GENさんがMCを務めるSPACE SHOWER TV『スペシャのヨルジュウ♪』でお世話になったりはしたんですけれど、そのぐらいで。
ーお互いのバンドに関しては、どのようなイメージを持っていますか?
熊木 Lucky Kilimanjaroに、ジーコ(Gt)っていうメンバーがいるんですけど……。
GEN ジーコ?
熊木 松崎浩二という名前で、「コージ」を逆にして「ジーコ」で(笑)。彼は、ankっていうメロディックパンクのバンドもやってて。
GEN あー! 新宿ACBとかでライブしてますよね?
熊木 そうです。ジーコとは昔、同じ夜勤のバイトをしてたんです。で、サボりながらオススメのバンドを紹介し合ったりしている中で、当時リリースされたばかりの(04 Limited Sazabysの)「monolith」を聴いて。僕も元々モッシュしたりダイブしたりするのが大好きなタイプだったのでその文脈もありつつ、メロディが他のバンドとは全然違って、「めっちゃ新しい!」と思ったんです。そのままあれよあれよと『YON FES』を主催するようになり、そのラインナップにはDATSのような毛色の違うアーティストがいたりして……いちリスナーとしても、バンドマンの先輩としても、「すごい人たちがいるな」という印象でした。
ーGENさんからLucky Kilimanjaroへのイメージは?
GEN まず曲から知りまして、音の印象からして全然若手っぽくないし、なんなら先輩なのかな? と思ってました(笑)。僕、大学生の頃にヴィレッジヴァンガードで働いてて、エレクトロ系のCDとかも自分で展開してたんですけれど、いまも店員だったら絶対並べてただろうなっていうくらい、本当に好きでよく聴いてます。今日も新譜(10月30日にリリースされたEP『Soul Friendly』)を聴きながら来たんですけど、めっちゃヤバかったです。
熊木 ありがとうございます。
GEN オリエンタルな、日本の匂いがする作品ですよね。エレクトロミュージックって、どうしてもある意味で無機質になりがちだと思うんですけれど、このミニアルバムには温もりがあって。絶妙にオシャレすぎない、生活を感じさせるところがすごく好きでした。
熊木 確かに、ダンスミュージックって人の温もりとは別の場所で鳴っていると思われることが多くて。ですけど、僕はダンスミュージックもロックと同じように泣けたり心が温まったりするものだと思いますし、今回のEPもそういう側面にフォーカスして制作したんです。だから、すごく嬉しい感想ですね。
ー二組とも、各地のフェスに引っ張りだこのバンドですよね。
熊木 特にコロナ禍以降、たくさんフェスに出演させていただけるようになりましたけれど、やはり僕らってロックバンドではないので。ロックだけではなくダンスミュージックにも感動できるところやはしゃげる要素があるよということを、自己紹介をかねてプレゼンテーションし続けて、どうやって音を鳴らしていくかを模索し続けたのがここ2年間の活動だったなと思います。まだまだフェスの中にしっかりとLucky Kilimanjaroの居場所があるという感触はなくて、みんなにご挨拶をしている最中かなと。そのことを念頭に、セットリストや演出も作っています。
GEN フェス出演がライフワークになってきたような感覚はあって、ありがたいことに僕らを目当てに来てくれるお客さんも増えてきましたけれど、未だに「他所の客を取ってやるぞ!」っていう気持ちでやってて。僕らはそこまでメディアに出演するタイプのバンドでもないので、できるだけ売れてるバンドの前でやれたらおいしいなって、いつも思ってます(笑)。
熊木 今もそういう気持ちがあるんですね。
GEN そうですね。だから、前の方で盛り上がってくれてる子よりも、移動しながらちょっと耳を傾けてくれる子をめがけて演奏してる感覚はあります。
熊木 他のステージと微妙にタイムテーブルがかぶってたら、「絶対移動させねえ!」っていう気持ちはありますよね。なんとしても最後までいてもらおうっていう。それぐらい多くの人を自分たちにハマらせないと、みんなに踊ってもらうことなんてできないだろうから。
ーそして、フォーリミは主催フェス『YON FES』を2016年から毎年開催しています。地元でフェスを開催するというイメージはいつごろから抱いていたのでしょうか?
GEN なんならバンドを始める前から、漠然とした夢として考えてまして。その妄想を2015年あたりからちゃんと口にするようになり、ちょっとずつ協力してくれる方々が増えて、その年には開催できなかったんですけれど2016年に実現させることができました。
熊木 かなり早い段階から始めてますよね。メジャーデビューの翌年?
GEN そうですね。かなり無茶をしたと思います。絶対、名古屋の先輩であるcoldrainよりも先にやりたかったんですよ(笑)。あとSECRET 7 LINE主催の『THICK FESTIVAL 2014』に出演させてもらった時に、「俺もやりたい!」と思ったことを覚えてます。『YON FES』は、最初はなかなかチケットが売れませんでしたけど、今はありがたいことにメンツを発表する前からチケットが捌けるようになってきて、ようやく根付いてきたのかなと感じています。当初は同世代のバンドを軸にしたフェスにしようとしてたんですよ。
ー自身の世代を盛り上げるためのフェスでもあったんですね。そういった開催のモチベーションは、回数を重ねるごとに変化してきましたか?
GEN 2016年に名古屋から上京してきた僕らがずっと「名古屋の04 Limited Sazabysです!」と語って活動するにあたって、地元との強い接点を作れることは大きいと思っていて。
04 Limited SazabysのGEN(Photo by Mitsuru Nishimura)
17歳がダンスミュージックを楽しめる場所を作りたい
ーちなみに、熊木さんの地元って?
熊木 僕は埼玉の越谷出身です。
GEN dustboxですね。
熊木 そうですね、越谷といえば(笑)。バンドは東京で結成して、それからずっと東京で活動してきました。
GEN フェスをやるとしたらどこでやるんですか?
熊木 どこでやろうかな……。
GEN 野外ですか? 屋内ですか?
熊木 野外の方が楽しそうだなとは思いますね。
GEN ですよね。個人的には、深夜でもいいんじゃないかなとか。
熊木 僕の場合は、ダンスミュージックを泣ける音楽として捉えてる人、自分の拠り所だと捉えてる人のための場所を作っていきたいっていう思いがあるんですよ。ロックミュージックが20年、30年かけて作ってきた場所が今あるように、普段クラブに行く人だけではなく、中高生なども含めた色んな人がダンスミュージックを拠り所として選べる場所を作っていきたい。
GEN レイヴっぽい感じで。
熊木 そうですね。みんなが解放できる空間としての面白さはあるのかなと思ってます。
ー個人的には、深夜の幕張メッセをイメージしていました。
熊木 そうですね。僕もSONICMANIAとかelectraglideに行ってました。でも、僕がやりたいのは、もっと生活の延長で遊べるダンスミュージックで。なので、やるなら『YON FES』みたいに昼から……いや、どっちもやりたいな。昼も夜も通しでやりたい(笑)。
GEN 名古屋にTURTLE ISLANDっていうハードコアの先輩方がいて、『橋の下世界音楽祭』っていう野外フェスを豊田でやってるんですけど、それはもう完全に「日本のお祭り」っていう感じなんですよ。
熊木 確かに、お祭りをやりたいのかもしれないですね。僕自身、小さい時からお祭りが好きでしたし、越谷の花火大会の空気を再現したいのかもしれないです。子どもから大人まで、全員が踊ることを自然に選択できる場所としてのお祭りを。
GEN ハイセンスな音楽って、踊ることやその空間に行くことにも敷居の高さがあるじゃないですか。そういう緊張感がない、魂の解放場所を作ってほしいです。
熊木 そうですね。クラブやダンスミュージックのハードルを下げたいし、みんなの音楽なんだよっていうことを伝えたい。もっと言えば、別にロックだって踊れる音楽だと思いますし。今年の『YON FES』にも出演されていたYOUR SONG IS GOODがとても好きなんですけど、彼らのライブを観ていて、こういう空気をエレクトロミュージックで作りたいと思ったんです。もっとクロスオーバーを進めて、踊ることをみんなで主体的に楽しんでいく雰囲気を。
GEN 今年ユアソンに出てもらったのは、鳴ってる音に対して好きに踊ることを提示してほしかったからなんですよ。ロックフェスって、みんなで同じ動きをすることも多いですけど、僕はそれがずっと解せなくて。体全体で自由に反応すればいいと思うんですけど、(フロアを)仕切ってるやつとかいるじゃないですか(笑)。あれはロックがここまで定着したからこその弊害だと思う。初めて栃木のベリテンライブに出演した時にも、SPECIAL OTHERSのライブで子どもたちが自由に踊ってて、これが音楽の正しい形だなと感じて。「こうじゃなきゃいけない」っていうのはロックじゃないし、彼らのように人を楽しませたいですよね。
ーYOUR SONG IS GOODが出演した経緯も然りですが、『YON FES』はラインナップからメンバーのキュレーターとしての意識が感じられますよね。独自の視点やフックアップを欠かさないというか。
GEN あんまり固め過ぎたくないっていうか。パンクやロック系だけじゃ嫌ですね。よく自分自身のことを「パンクロック生まれサブカルチャー育ち」って形容してるんですけど、そんな僕ならではのバランス感っていうのはすごく意識してます。
熊木 確かに、○○系ってくっきりと分けたくはないですね。そうすることで、アーティストそれぞれが伝える言葉や音がボヤける気がして。だから、僕らのフェスはロックバンドも含めた全部をひっくるめてやりたいです。
ー血の通ったブッキングによって、凝り固まったシーンを解体することができるかもしれないですしね。
熊木 そうですね。自分たちの見てる視界や価値観を反映させたものを作っていきたいです。
GEN それに、シンプルに友達同士が仲良くなるのは嬉しいですからね。『YON FES』は、僕の友達を自慢する場所というか、自分の人生の豊かさを見せ付ける場所でもある(笑)。
Photo by Mitsuru Nishimura
音楽に合わせて踊ることをもっと当たり前に
ーラインナップやコンセプトももちろんですけど、フェスを主催するにあたっては裏側の泥臭い部分にも向き合わないといけないですよね。GENさんのSNS曰く、今年の『YON FES』のレイアウトにはかなり満足がいったそうですが。
GEN 会場のモリコロパークが全館休館の日に開催できたんですよ。例年は他の施設の営業に合わせて考えないといけないことが多い中で、今年は自由に、快適に導線を組むことができたので良かったですね。
ーその成功には、これまで積み重ねてきた地域や行政との結び付きが関わっているのでしょうか?
GEN もちろんあると思います。それも『YON FES』のやりがいの一つかもしれないですね。最初は自分たちだけの夢物語だったのに、気付いたら地域の公益性のようなものが生まれていて。『YON FES』と直接の関わりはない商店や飲食店が、その日は異様に売り上げが良かったりとか。僕が昔働いていたヴィレヴァンにもお客さんが集まったり。自分が知らないところにも良い影響を与えてるんじゃないかと思えるのは嬉しいですね。
熊木 僕はご飯とお酒がとても好きで、ツアーではライブ翌日の昼から飲んだりしてるんですけれど(笑)、お世話になっているお店に恩返しをしたいという気持ちはありますね。だから、フェスをやるなら僕が好きなお店に屋台を出してもらったり、地方のビールを飲んでもらったり。音楽と一緒に色々なカルチャーを楽しめるショップがあって、そこからみんなが色んな方向に拡張して、新しいものにワクワクし続けられるような場所にしたいですね。でも……行政かあ。
GEN 行政ですね(笑)。今ふと浮かんだアイデアなんですけど、大きい酒樽を用意して、500円でワンショット飲めるっていうのはどうですか?
熊木 みんな帰れなくなりそう(笑)。僕たちのライブって、いつも異常にお酒が出るらしくて。もちろん個人の自由なんで飲まなくてもいいんですけど、飲んで踊るのって楽しいよというのは伝えたいですね。
ーここまで話してきた熊木さんの音楽観にも繋がりますね。「そんなに生真面目じゃなくてもいいんだぞ」っていう。
熊木 そうですね。前提となる何かを持っていないと楽しめないっていうのが嫌で。僕自身も、予習をせずにライブに行って、その場で「こういうことを伝えたいのかな?」とか考えながら踊るのが好きなんです。だから、音楽に合わせて身体を動かすことを、もっと当たり前にしていきたい。
GEN でも、日本人って照れ屋じゃないですか。みんなが踊り始めないと踊らないみたいな空気感があると思うんですけど、ラッキリのライブではそういう恥じらいをどうやって捨てさせてるんですか?
熊木 意識してるのは、僕が踊らないとみんなも踊らないっていうことですね。僕、全然運動できないんですよ。だからこそ、ダサくてもいいから踊りなよっていう。それが僕からお客さんに伝染して、お客さん同士で伝染していくんです。
Lucky Kilimanjaroの熊木幸丸(Photo by Mitsuru Nishimura)
ーより視野を広げて、アーティストがフェスを主催する意味や意義についてお聞きしたいのですが、GENさんは『YON FES』を始めたことでその他の活動に対する意識の変化はありましたか?
GEN 自分でフェスをやるようになって、呼んでもらったイベントに出演するときもそこに関わる人のことを考えるようになったし、手垢を感じるようになりましたね。あとは、バンド仲間も『YON FES』を意識してスケジュールを空けておいてくれたり、名古屋の後輩たちにとっては出演が目標になっていたり。先輩後輩の繋がりが生まれたのは嬉しいです。
ー『YON FES』は、フォーリミのファンにどのように受け入れられていますか?
GEN ファンに対する間口もどんどん広げていきたいし、知らないものを教えたい、提案したいっていう気持ちでずっと続けてきた結果、「フォーリミがやることなら間違いない」という信頼関係が出来てきているんじゃないかなと思ってます。
ーその信頼関係が、対バン相手を伏せた『MYSTERY TOUR』の成功にも繋がっていますよね。熊木さんは、ファンとの場所づくりについて意識していることはありますか?
熊木 みんなが色んな場所でチャレンジした後に、「ちょっとダンスしに行こうかな」って戻って来れる場所を作りたいという思いは年々大きくなってますね。今度、初のFCイベントを開催するんですけど、これからもっともっとみんなと一緒に活動を広げていきたいと思っています。昔は「全員、俺の音楽でぶちのめしてやろう」という気持ちでやってたんですけど(笑)。お客さんと一緒に踊り続けることでその考え方もだいぶ変わってきたというか。もっと愛で繋げていかないとダメだな、それがダンスミュージックの本質だなと思うので。だんだん恩返しのフェーズ、みんなと一緒に大きくなっていくフェーズに入っているという実感はありますね。まだまだ背負い切れてないとは思いますけれど。
GEN まさに、僕も昔はぶちのめしてやろうと思ってたんですけれど(笑)。今は、ひょっとしたら自分の活動が誰かの幸せになってるんじゃないかって考えるようになりましたし、逆に自分の幸福も自分だけじゃ成り立たなくて、誰かと共有してこそ初めて幸せになれるという感覚がありますね。他人にどういった影響を与えられるか、大人になってからはずっと考えてます。
ー本日の対談を通じて、ラッキリが主催するフェスのイメージがより具体的に浮かび上がったのではないでしょうか?
熊木 『YON FES』はじめ、アーティストが主催するフェスはそれぞれしっかりと愛をベースに作られているということを確認できた時間でしたね。先ほどGENさんがお話されていた地域のお店のことなんかも含めて、すべてをひっくるめた新たな文化を作ろうという気持ちで僕らもやりたいです。
GEN そういえば、僕が大学時代に使っていたリニモっていうローカル線があるんですけど、『YON FES』の日には増便してくれてるんですよ。しかも、車掌さんがアナウンスで『YON FES』について触れてくれてて。僕らが思っている以上に『YON FES』のことを考えてくれている人がいるんだなと思うと、感動しますね。
熊木 すごい、最高ですね。僕も、そんな風に愛してもらえる場所を作るのが目標です。
ー最後に、GENさんからラッキリ主催のフェスに期待することを教えてください。
GEN まず、メインスポンサーはコーヒー会社ですよね。そして、日本中のコーヒー豆農家が集まる。勝手なことを言いますけど(笑)。誰もが太古から持ってるダンスの感覚を目覚めさせるようなイベントをやってほしいです。
熊木 みんなのDNAに存在する、踊りたいという気持ちを呼び起こしたいですね。
GEN 個人的には、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINやOGRE YOU ASSHOLEを呼んでほしいな。DJにも出てほしい。DE DE MOUSEとか。妄想が膨らみますね。
熊木 もちろん、フォーリミにも出てほしいです。そうしないとクロスオーバーが進まないと思うんですよね。僕らが普段提示している踊り方でどうやってフォーリミの曲にノるのか、フォーリミのライブでダイブしてる人たちが僕らのライブを観たら何が起きるのかを知りたい。そうすることで初めて踊るっていうことを理解できるし、可能性が広がっていくんだと思います。
Photo by Mitsuru Nishimura
Lucky Kilimanjaro
『Soul Friendly』
配信中
https://lnk.to/soulfriendly
「Lucky Kilimanjaro presents. TOUR ”YAMAODORI 2024 to 2025”」
11/29(金)広島・CLUB QUATTRO
12/1(日)熊本・B.9 V1
12/20(金)札幌・Zepp Sapporo
12/22(日)仙台・SENDAI PIT
1/13(月・祝)大阪・Zepp Osaka Bayside
1/19(日) 福岡・Zepp Fukuoka
1/26(日) 名古屋・Zepp Nagoya
2/16(日)千葉・幕張メッセ国際展示場 4・5 ホール
https://fc.luckykilimanjaro.net/feature/tour_yamaodori2024to2025
04 Limited Sazabys
New EP『MOON』
1/29発売
https://lit.link/04LSmoon
全国ツアー
04 Limited Sazabys「MOON tour 2025」
https://www.04limitedsazabys.com/feature/moon