フー・ファイターズ(Foo Fighters)のニュー・アルバム『Your Favorite Toy』が本日4月24日にリリースされた。激しさと爽快感が同居する今作。
その制作背景と聞きどころを、日本盤ライナーノーツを執筆した音楽ライター・鈴木喜之に解説してもらった。

フー・ファイターズのニュー・アルバム『Your Favorite Toy』。通算12作目を数える本作は、デビュー31年目に突入した彼らのキャリアの中でも、とりわけ特別な位置付けの作品となるだろう。

前作『But Here We Are』もまた、2022年3月のテイラー・ホーキンス急逝、同年8月にはデイヴ・グロールの母ヴァージニアまで亡くなってしまうという巨大な喪失と向き合った、あまりに特別なアルバムだったが、それに続く『Your Favorite Toy』は、多くのリスナーに自然と「再出発」をイメージさせるに違いない。1曲目「Caught In The Echo」から「ドゥアイ! ドゥアイ!」と威勢よくデイヴのシャウトが響き渡り、陽気なトーンのフー・ファイターズが帰ってきた……と感極まるリスナーは少なくないはずだ。ただし、全10曲を約36分で駆け抜ける本作は、アッパーなエネルギーに満ちている一方、「重苦しい過去は吹っ切って、どんどん前向きにやってくことにしました」という性質のものでは決してない。むしろ、永遠に埋めることのできない喪失感をずっと抱え続けながら、それでも、いや、だからこそ音楽を続けていくんだという決意が伝わってくる。

熱心なフー・ファイターズのファンであれば、このバンドが誕生した時も、よく似た状況だったことに思い当たるかもしれない。カート・コバーンの死、ニルヴァーナの終焉、いきなり突き落とされた闇の中を潜り抜けるために、デイヴ・グロールはひたすら音楽へと没入した。それがそのままフー・ファイターズの1stアルバムに結実したのだ。まさか30年後も同じような状況が繰り返されることになるとは、運命の過酷さに言葉も出てこないが、とにかく今回もデイヴの「音楽を続けなければならない」という確信は揺るがなかった。そうすることで、かつて彼は間違いなく救われたのだから。
そして、30年前と大きく違うのは、今度は独りぼっちの再出発ではなく、この間にフー・ファイターズの一員となった仲間たち、ネイト・メンデル、クリス・シフレット、パット・スメア、ラミ・ジャフィといった面々がともにいる、という事実だ。

そこには、イラン・ルービンという新顔も加わっている。テイラーの後任を務めたジョッシュ・フリーズに代わり、ナイン・インチ・ネイルズで叩いていた(直前に行われていたNINのツアーにも参加)イランが電撃加入を報じられたのが、2025年夏のこと。そうしてイランが参加した初めてのツアー(日本公演を含む)を秋にこなしてからすぐに、ニュー・アルバムのレコーディングはスタートした。

もともとワーカホリックとして知られるデイヴは、バンドの公的な活動がストップしている間も、日課のようにデモの作成を続け、自宅スタジオで、レッド・ツェッペリンからバッド・ブレインズまで想起させるような、多様なジャンルのインストゥルメンタルを録り続けていたそうだ。『Your Favorite Toy』の共同プロデューサーを務めたオリヴァー・ローマン(フー・ファイターズが本拠地とする、スタジオ606生え抜きのエンジニア)は、たびたびデイヴから録音テクニックに関する質問の電話が夜中にかかってきたと証言している。そうやって書き溜めた、50曲にも及ぶデモ音源を聴き返していた際、10曲くらい連続してエネルギッシュなパンチを感じられる部分があり、それがデイヴに「次に進むべき方向」を示し、アルバムの足掛かりとなったという。

フー・ファイターズ、デビュー31年目の再出発 爆発的エネルギーで突き進む新作『Your Favorite Toy』徹底解説

Photo by Gen Circ

デイヴからイランに「今週末レコーディングしたい、正午に来られるか?」という連絡に続けて、3曲のデモ音源が添付されたメールが届いたのは、サンクスギヴィングの頃だったそうだから、久々の単独来日公演で30周年を祝い、待ち望んでいた日本のファンを歓喜させたツアーが終わってからのことになる。他のメンバーより20歳も若いイランは即座に機動力を発揮、当日に曲を覚え、ドラムとギターのベーシック・トラックを録音した。次の日と、その次の日にはさらに3曲の作業を完了させ、その結果、たちまちアルバム1枚分のマテリアルが揃ってしまった。アルバムのリリースが公式にアナウンスされたのが年明けの2月だったから、異例のスピードで作り上げたのは間違いない。

バンド全員が一同に会してのレコーディングというわけではなかったようだが、各メンバーは、自分の担当パートをテキパキと加えていった。
パットは今作のレコーディングについて、「バン、バン、バン!って感じでやったんだ」と嬉しそうに表現している。また、オリヴァーによれば、制作中には頻繁にスティーヴ・アルビニの名前があがっていたらしい。デイヴが、ニルヴァーナとしてアルビニと『In Utero』を録音した時も、時間をかけたサウンド・プロダクションは一切施さず、ほとんど一発録りのようにして短期間でアルバムを完成させたが、その時の感覚を重視しながら『Your Favorite Toy』は生み出されたのだ。

グレッグ・カースティンをプロデューサーに迎え、音楽性の拡大を図った『Concrete and Gold』(2017年)、『Medicine at Midnight』(2021年)、『But Here We Are』(2023年)という近作3タイトルとは真逆の方向に進んだと言っていい。

さらなる未来へと続く、力強い起点

フー・ファイターズの歴史を紐解けば、彼らがこういうことを過去にもやっていたことを確認できる。たとえば4作目のアルバム『One by One』(2002年)では、高級なスタジオで多額の制作費をかけてレコーディングした音源を全て破棄し、強行スケジュールのもと自宅で録音し直してしまった一件とか。それから、アコースティック・ディスクとの2枚組となった『In Your Honor』(2005年)を経て、続く『Echoes, Silence, Patience & Grace』(2007年)で多様なサウンドを取り入れてみせた後、そうした方向を発展させていくのかと思いきや、やはり自宅録音を敢行してタイトな傑作ロック・アルバム『Wasting Light』(2011年)を作った時のことも、最新作『Your Favorite Toy』と相似形を描いているように感じる。デイヴ・グロールという人は、常に自らにもバンドにもチャレンジを課すタイプのアーティストだが、その中に、ある種の「揺り戻し」を起こす波が見られることが興味深い。

ただし、最新アルバムを聴けばすぐ、このアルバムが単に原体験を見つめ直し、ストレートなパンクをワイワイと鳴らしてみました、というだけのものではないことがわかるだろう。一筋縄ではいかない楽曲ばかりが並んでおり、それらが、パンクから発展していったポスト・パンクやポスト・ハードコアとは一線を画したものになっているところが、フー・ファイターズの面目躍如だと実感させられる。あくまで個人的な感想の範囲ではあるが、なんとなく「ニューウェイヴ」と呼びたくなるフィーリングも伝わってくる。ニューウェイヴと言っても、スタイリッシュなブリティッシュ・ニューウェイヴとは違う、今作のアートワークにも表れているような、独特のいなたい味わいを持ったアメリカン・ニューウェイヴに連なるものを感じるのだ。


それから、近年のデイヴが特に気に入っているバンドであり、昨年の日本公演でもサポート・アクトに起用され、今年のヨーロッパ・ツアーにも帯同する予定の、おとぼけビ~バ~から刺激を受けたところもあるのかも?と想像したりもする。つまり、音数を増やしたり、プロダクションに凝ったりする方向を目指さなくても、十分に先鋭的なことはやれるのだという点で、インスピレーションを受けたのではないだろうか、と。

フー・ファイターズ、デビュー31年目の再出発 爆発的エネルギーで突き進む新作『Your Favorite Toy』徹底解説


ともあれ、全米8都市をめぐって各地の特色を持ったスタジオで1曲ずつ録音し、その様子をドキュメンタリー番組にするという「実験的な」作品だった『Sonic Highways』(2014年)以降に続けてきた路線(その背景には、キャリア史上でも最もバンドが安定していた時期であることが窺えるのだが)から大きく舵を切りつつ、この間に培った経験値はしっかり血肉となって現在も生かされている。そして、NINでは優等生的な枠に収まっていた感もあるイラン・ルービンの才能が、一皮剥けた存在感を示しながら、早くも大きな貢献を果たしてくれたことも大きいと思う。改めて、NINとのドラマー・コンバート劇は、誰が仕組んだわけでもないらしいが、当初こそ少々お騒がせな部分もあったものの、関係者全員に良好な結果をもたらした、見事な着地点だったと感心する。

波瀾万丈な歴史を歩んできたデイヴ・グロールとフー・ファイターズ。そんな彼らが完成させた最新作は、31年目にして新たな起点となり、これからもまだまだ続いていくバンドの将来への期待を膨らませ、力強い確信を抱かせてくれる。

フー・ファイターズ、デビュー31年目の再出発 爆発的エネルギーで突き進む新作『Your Favorite Toy』徹底解説

フー・ファイターズ
『Your Favorite Toy | ユア・フェイヴァリット・トイ』
発売中
・日本語入り独自アートワーク仕様
・解説:鈴木喜之 歌詞・対訳付
再生・購入:https://smji.lnk.to/FooFightersYFTRS

〈収録曲〉
1.Caught In The Echo/コート・イン・ジ・エコー
2.Of All People/オブ・オール・ピープル
3.Window/ウィンドウ
4.Your Favorite Toy/ユア・フェイヴァリット・トイ
5.If You Only Knew/イフ・ユー・オンリー・ニュー
6.Spit Shine/スピット・シャイン
7.Unconditional/アンコンディショナル
8.Child Actor/チャイルド・アクター
9.Amen, Caveman/アーメン、ケイヴマン
10.Asking For A Friend/アスキング・フォー・ア・フレンド
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