昨年から続くザラ・ラーソンの躍進は目覚ましいものがある。しかし、その成功は決して突然どこからともなく始まったわけではない。今日私たちが目にしているバービー人形のようなポップ・スターは、1997年にスウェーデンで生まれ、その天性の才能は幼少期に開花する。10歳の時に国内オーディション番組でホイットニー・ヒューストンを完璧に歌い上げて優勝を果たし、幼いながらその圧倒的な歌唱力のおかげでレーベルとの契約を獲得。同世代が学校で机に向かって勉強する中、ザラは北欧中で聞かれるヒット曲(2013年の「Uncover」)をリリース、その勢いは止まるどころか、今度は2つの楽曲(2015年「Lush Life」「Never Forget You」)でグローバル・ヒットを17歳にして記録する。ユーロ圏内のみならず、その活躍は世界規模にまで拡大。歌モノEDMがチャートを席巻していた2010年代は、力強く歌い上げる実力派シンガーが重宝された時代でもあった。その追い風もあり、ザラは持ち前の歌声で一躍時の人となる。
すでに高い評価と人気を博していた彼女がなぜ今、歌手人生最大のピークを迎えているのか。大きな後押しとなったのは、ポップカルチャー全体を牽引しているピンクパンサレスの楽曲「Stateside」へのリミックス客演だろう。リリースされるやいなや人気に火がつき、ミラノ・コルティナ五輪では女子フィギュアスケート・アメリカ代表のアリサ・リュウが、優勝を祝うエキシビションで本楽曲を使用。
Z世代のアテンション・スパンの平均は8秒と言われるファスト消費の現代。近年のポップカルチャー文脈において、あるコンセプトを見るだけで特定のアーティストを瞬時に想像できる「象徴」作りは、楽曲制作と同じくらいの重要性がある。まさにこのトロピカルな世界観が、ザラがポップスターの頂点に上り詰めるための、重要なパズルのピースだったのだ。
すっかりザラの象徴となったトロピカルな世界観のコンセプトはどのように誕生したのか。それを理解するには、まずは「イルカ」の話から始める必要がある。
2024年の夏に戻ろう。TikTokなどのソーシャルメディアでは、イルカが舞うトロピカルで明るい画像にあえて、「対人不安がある」といった憂鬱な言葉を添えたミームが大量に拡散されていた。その音源で2015年にザラがクリーン・バンディットを迎えて発表した人気楽曲「Symphony」が使用され、海外では”Dolphin Meme”として大流行。
@luv4letitia 「Symphony」を用いた”Dolphin Meme”の一例
まだ快進撃は止まらない。昨年の夏、ザラはカナダ出身のポップ・シンガー、テイト・マクレーのマディソン・スクエア・ガーデン公演などを含む北米ツアーの前座として参加。ハードなルーティンのダンスを披露した後も決して乱れることのない圧倒的なボーカルで、総合パフォーマーとしての力量を見せつけた。そして、そのオープニング・アクトの座は単なる前座にとどまらず、最新の”it girl”としてザラを世界へと押し出す契機となったのだ。自身5枚目となるフル・アルバムを発表するのに、これほど完璧なタイミングはなかっただろう。ビヨンセやマドンナ等のディーヴァたちと共作してきたMNEKのプロデュースで、同年9月にアルバム『Midnight Sun』が誕生。テイトのツアーで披露したコンセプトをさらに進化させた「Midnight Sun Tour」をその翌月を皮切りに展開し、見事にソールド・アウトを連発する。
ザラを語る上で、彼女のメイクアップや衣装も外せない。大量のキーホルダーが揺れるスカートや、水着のような清涼感を感じさせるステージ・コスチューム。
『Midnight Sun: Girls Trip』──女性たちの祝祭
オリジナル・アルバム『Midnight Sun』が白夜に照らされた北欧の大地だとすれば、デラックス版『Midnight Sun: Girls Trip』は、水中深くへと潜った先に広がる、ザラと女性アーティストたちが祝祭を繰り広げる秘密の空間だ。「SHE DID IT AGAIN」でコラボしたばかりのタイラ、ピンクパンサレス、ロビン、シャキーラなどの第一線で活躍する歌手勢から、バンビやマリブ、元のアルバム制作から全面的に関わっているマーゴ・XSといった気鋭プロデューサー陣と、才能溢れる女性アーティストたち13名が集結。大幅なリアレンジによって、パーティー・アンセム・アルバムに様変わりしている。
共にナンバーワンを分かち合ったピンクパンサレスは、「Midnight Sun」にボーカルとトラックの両面で参加。DJフレッシュのドラムンベース曲「Gold Dust」をサンプリングし、ユーロポップなトラックに独自の解釈を加えている。ほかにもジャマイカ系カナダ人のバンビが手掛け、マディソン・ビアーが登場するブラジリアン・ファンク調の「The Ambition」、アルゼンチン人のシンガー、エミリアをフィーチャーし、ヘヴィなEDMに変身した「Girls Girl」、ケラーニが艶を与えるR&Bソング「Blue Moon」と、バラエティ豊かだ。世界各地のサウンドやテクスチャーを融合させることで、奥行きを持たせている。
オリジナル作品が最も感傷的になる瞬間も「Saturns Return」だったが、6分を超える今回のバージョンは、元の楽曲を凌ぐほどの美しい一曲だ。不確かさを受け入れて前に進む心情を反映させた歌詞に、占星術で人生の転機という意味の曲タイトル「土星の帰還」は、ザラのアーティストとしての新たな章の幕開けを示唆しているようでもある。そして、『Midnight Sun』の歌詞構築に携わってきたデンマーク系中国人のシンガー、ヘレナ・ガオが中国語で詩を囁く余白も、息をのむような幽玄さに満ちている。
ザラ・ラーソンの歌手人生の道のりは、決して平坦ではなかった。彼女は昔から芯の通った人物である。思春期時代から常に政治的スタンスを数多くのツイートで表明し、女性の権利の向上や移民擁護など、社会的問題には常に声を上げてきた。彼女には、それらの言動によって多少の代償を被る覚悟もある。10代の頃から表明してきたパレスチナ支持の影響で、ブランド契約や授賞式への出席が取り消されたほか、2年前のユーロヴィジョンのハーフタイムショー出演は、イスラエルの参加に抗議し辞退した。最近では、中絶に関する発言によって3億ドル規模の契約も失ったと公言。それでも彼女はまったく臆することなく、今日も自身の発信に正々堂々としたアティチュードで向き合い続けている。そうした姿に導かれるように、世界中のファンが彼女の背中を追いかけているのだ。
『Midnight Sun』は、単にさまざまなマーケティング戦略が重なって生まれた作品ではない。
ザラ・ラーソン
『Midnight Sun: Girls Trip』
再生・購入:https://ZaraLarssonJP.lnk.to/GirlsTripRS
〈収録曲〉
1. Midnight Sun with Pink Pantheress
2. Blue Moon with Kehlani
3. Pretty Ugly with JT and Margo XS
4. Girls Girl with Emilia
5. Crush with Eli
6. Eurosummer with Shakira
7. Hot & Sexy with Tyla
8. The Ambition with Madison Beer and BAMBII
9. Saturns Return with Malibu and Helena Gao
10. Puss Puss with Robyn
11. Midnight Sun
12. Blue Moon
13. Pretty Ugly
14. Girls Girl
15. Crush
16. Eurosummer
17. Hot & Sexy
18. The Ambition
19. Saturns Return
20. Puss Puss


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