名門インディーレーベル〈Rough Trade〉の設立50周年を記念して、脅威の音楽集団キャロライン(caroline)と、元ブラック・ミディ(black midi)のキャメロン・ピクトンが始動させたマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ(My New Band Believe)が揃って来日。9月30日(水)に大阪・Yogibo META VALLEY、10月1日(木)に東京・Spotify O-EASTで公演を行なう。


2024年に解散したブラック・ミディではベースを担当していたキャメロンだが、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴの同名デビューアルバムでは、自身の歌とギターを軸にストリングスを織りまぜ、アコースティック・サウンドの新たな可能性を追求。かつて参加してきたバンドから過剰なまでのカオスとスリルを継承する一方で、ロンドン・シーンのミュージシャンが多数参加し、「11のスタジオで、9人のエンジニアとともに、29日間を録音に費やした」本作では、入念極まりないエディットがもたらす斬新なサウンドデザインも聴きどころとなっている。

そんな本作のプロデュースを務めているのが、他ならぬキャロラインの頭脳、ジャスパー・ルウェリンとマイク・オマリーだ。「即興と編集」というポストロックの方法論をアップデートした傑作『caroline 2』は日本でも歓迎されたが、彼らはこのアルバムが「マイ・ニュー・バンド・ビリーヴと対の関係にある」と語っている。本誌による昨年のインタビューで、ジャスパーは「一つの世界に別の世界が混在し、ときにはさらにまた別の世界がその中に存在している。それがサウンドとして聴こえてくることに、なぜか美しさを感じるんだ」と語っているが、この言葉はそのままキャメロンの最新作にも当てはまるだろう。

両者のジョイント公演を記念して、キャメロン・ピクトン、ジャスパー・ルウェリン、マイク・オマリーのオンライン鼎談が実現。出会いとシンパシー、アルバムの制作秘話まで語り合う、世界的に見ても貴重なインタビューとなった。[質問作成:Kun/取材・文:小熊俊哉]

キャメロンと親交の深い没 a.k.a NGS(Dos Monos)が監督を務め、石川県珠洲市で撮影された「In the Blink of an Eye」ミュージック・ビデオ

キャロライン、2025年のライブ映像

ブラック・ミディとキャロラインの邂逅

ーまずは、みなさんの出会いについて教えてください。

マイク:最初はいつ知り合ったんだっけ?

キャメロン:たぶん〈Rough Trade〉絡みとかじゃない?

ジャスパー:いや、最初に会ったのはたぶんSomerset Houseでのライブだと思う(ブラック・ミディが2022年に出演、キャロラインがサポートアクト)。

キャメロン:ほんとに? だって僕、その前からキャロラインのライブに行ってた気がするんだよね。

ジャスパー:ライブでお互いを見かけたことはあったと思うけど、ちゃんと話したのはSomerset Houseが最初だったと思う。
少なくとも僕と君は。

My New Band Believe × carolineが語り合う black midi解散後に共鳴した2組の化学反応
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ブラック・ミディのX公式アカウントより引用

マイク:僕が最初に会ったのは……Green Man Festivalのトイレの近くで、キャメロンとセットの後にばったり会ったときだと思う(※ブラック・ミディとキャロラインが2021年に出演)。

ジャスパー:え、それ覚えてないな。自分はたぶんいなかったのかも。

マイク:絶対いたよ。で……そのときお互いがファンだって話したんだよね。その頃の僕はもう、普通にファン丸出しだったし。

ジャスパー:同じく。

ーお互いの活動、ブラック・ミディやキャロラインのことをどのように見ていたのでしょう?

キャメロン:その頃、ジャスパーとマイクたちはまだ、プールでのライブ録音を出していたくらいだったよね(※廃プールでライブセッション映像を収録、2020年2月に#1が公開)。

ジャスパー:いや、「Dark blue」(デビュー・シングル)も出していたよ。

キャメロン:ああ、そうか。そのシングルは聴いていて、すでにファンだったよ。
それに、バス・クラリネットをやっているアレックス(・マッケンジー)のことは、僕が18歳くらいの頃に知っていた。他のバンドに関わっていたりもしていたから、そういう意味でつながりも少しあったんだ。あと、キャロラインも〈Rough Trade〉に所属していたから、それ以前からなんとなく存在は知っていた。

ジャスパー:僕は、最初にブラック・ミディを聴いたときからかなりいいなと思った。最初に聴いたのがいつかは覚えていないけど、たぶん誰かに教えてもらったんだと思う。あの、ラジオ局で演奏している動画。ロンドンのどこかのラジオ。

キャメロン:NTSかな? Flesh and Bonesスタジオでセッションをやった時の(2018年)。

ジャスパー:ああ、それかも。だから、僕はけっこう後追いだったんだよね。

キャメロン:いや、あれはかなり初期のタイミングだったと思うよ。ロンドンのWindmillとか、そういうシーンとすでに繋がっていた人じゃない限り、あれが最初の入口だった人は多かったと思う。
実際、あそこから知ったという人はかなり多いし。

ジャスパー:そのあとにリリースされたものは全部聴いたし、特にビジュアル面がすごく印象的だった。そこがすごく惹かれたポイントだったと思う。映像も全部好きだったし。もちろん音楽も好きだけど、その組み合わせがすごく刺激的だった。当時はああいうギター音楽はあまり聴いていなかったんだけど、とにかく新鮮で、かなりワクワクしていた。ただ……キャメロンが僕たちのバンドを好きだっていうことは、正直あまり実感していなかったよ。

キャメロン:お世辞だと思ったの?

ジャスパー:まあね(笑)。実際、知り合ったあともしばらく……一緒に音楽を作り始めるまでずっとそう思っていた。「ああ、本当にキャロラインの音楽が好きなんだ」って実感できるようになったのはそこからだね。

ー今回、どうして一緒に制作することになったのでしょうか?

キャメロン:僕の方から声をかけたんだけど、さっきも話に出たように、キャロラインがSomerset Houseでブラック・ミディのサポートをやってくれたことがあってね。それがすごく良かったんだ。
たしか夕暮れ時の時間帯で、早めの枠だったんだけど、あのロケーションで彼らの演奏を観るのは本当に美しかった。Somerset Houseって、昔の公的な記録を保管している建物で、出生証明書とかを保管している場所なんだ。古いジョージアン様式の建物で、中央に大きな広場があって、夏のライブだとすごくいい雰囲気になる。

それから、ブラック・ミディが解散に向かっていた時期に、いわゆるソロ作品を作るとか、新しいバンドを始めるとか、そういう従来のやり方じゃなくて、既に活動している他のバンドと一緒にコラボ作品を作るっていうアイデアを思いついたんだ。その中でキャロラインは、いくつかの理由で魅力的だった。まずは音楽性がブラック・ミディとはかなり違うこと。それに、メンバーが少し年上であること。そして、もっと知りたいと思っていた人たちだったこと。最初に知り合ったときから好印象だったけど、ちゃんと一緒に過ごす機会がなかったから。

もうひとつ大きかったのは、僕が(キャロラインのなかに)入って歌うことが、バンドの構造を大きく崩すことにはならないと思ったから。彼らのバンドには明確なヒエラルキーがあるわけではないし、全員がいろいろな役割を担える柔軟なメンバーだからね。例えば……あくまで例だけど、もしアイドルズに声をかけていたら問題になっていたと思う。
彼らにはすでに専任のボーカルがいるから。でもキャロラインはそうじゃない。だから、すごく自然な形でできると思った。彼らも興味を持ってくれて本当に嬉しかったよ。

アコースティックの革新、対をなす二つの作品

ー「アコースティック表現の可能性を切り拓く」という点で、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴとキャロラインは共通項があるようにも思います。まずキャメロンは、今回のアルバムでどんなサウンドに挑戦したかったんですか?

キャメロン:僕がティーンエイジャーだった頃、ギターに興味を持つきっかけになったのは、ジョン・レンボーンとかバート・ヤンシュ(共にペンタングルに在籍)の影響だったんだ。そこからギターという楽器に本格的に惹かれていった。それで今回こういうことをやろうと考え始めたとき、アコースティック・ギターの演奏におけるいわゆる「革新」って、ラバー・ブリッジの派生くらいしかないように思えてね。それも正直かなりやり尽くされている感じがするし、そこが最終地点みたいになっているのが、ちょっと違うなと思った。だからむしろ、テクスチャーとしての可能性をもっと探りたかったんだ。レイヤリングとか、ナッシュビル・ストリング・ギター(12弦ギターの高音弦側のセットのみを張るセッティング)みたいなものを使ったりして、複数のギターを重ねつつ、タイムストレッチをかけたりして、全部がひとつの音みたいに聴こえるような。そういう方向性を試してみるのが面白いと思ったんだ。


ージャスパーとマイクにとって、このプロジェクトでの役割はどういうものでしたか?

マイク:プロジェクトが進むにつれて、僕たちの役割は少しずつ変わっていったと思う。最初はシンプルに、みんなでバンドみたいに曲を演奏するところから始まったんだ。僕は基本的にギタリストで、何カ月もこのプロジェクトに関わっていた。でも実際のところ、僕がギターを弾く必要はあまりなかったというか、どの曲にも僕のギターは特に必要とされていなかったんだよね。それで時間が経つにつれて、自然とその役割から離れていく方がしっくりきた。ちょうどその頃、僕たちは『caroline 2』をほぼ自分たちでプロデュースして作り終えたところだったし。

ジャスパー:いや、その頃はまだ完成はしていなかったと思う。

マイク:ああ、そうか。しばらく並行して進めていた感じだったね。僕たちの役割に関しては、「プロデューサーとして関わる方が自然だ」と気づいてから、かなりはっきりしてきたと思う。具体的には、大勢のミュージシャンが参加しているから、どの曲にどのプレイヤーが合うかを組み合わせていくこと。それから、演奏している人たちにディレクションを出したり、コンセプトがきちんと実現されているかを確認したり、録音場所を適切に選んだり。あとは日々のレコーディング・セッションを管理していくこととか。そういう意味では、かなり伝統的なプロデューサーの役割だったと思う。ジャスパー、何か補足ある?

ジャスパー:キャメロンがどう捉えているかにもよると思うけど……僕としては、プロダクションのアイデアという意味でも、僕とマイク、それからキャメロンのあいだで共通して興味を持っている部分があったと思う。たとえば、ぶつ切りだったり、かなり極端な対比やコントラストを作ることとか。『caroline 2』でも全体にわたってそういう手法をかなり掘り下げていたんだけど、ここでもそこに深く入り込んでいた感覚がある。キャメロンもそういう方向性に興味を持っていたけど、僕らとは少し違う視点からアプローチしていた印象で。

キャメロン:そうだね。

ジャスパー:だから、僕たちは3人で一緒にそこを掘り下げつつ、それぞれ違うアプローチで向き合っていた。それがうまく機能していたと思う。

キャメロン:ブラック・ミディとキャロラインは、サウンドとしてはかなり違うけど、レコーディングにおけるコンセプトのアプローチにはそこまで大きな隔たりはないと思う。たとえばぶつ切りを使うとか、マスターにエフェクトや歪みをかけることに対してオープンであるとか、そういう部分では近いところがある。それからもうひとつは、音楽的なスタイルが多少違っていても、大胆なことをやろうとしているという点では共通しているよね。

マイク:そういう意味では、(『caroline 2』と)同時期に作られた作品って感じがすごくあるよね。時間軸の中で並んでいるというか、対になっているような感覚がある。

キャメロン:うん。実際、Logic上でも素材や構造を並べて扱っていたしね(笑)。

ー1曲目の「Target Practice」は、キャメロンの別ソロ名義「Camera Picture」の頃はアコギ弾き語りだったのが、『My New Band Believe』では全く違うアレンジに生まれ変わっています。このプロダクションは3人のうち誰が主導したのでしょうか?

キャメロン:これはかなりオープンで、共同的なプロセスだったと思う。この曲はいろんなバージョンを経てきているんだ。最初はPress Playというスタジオで録音して、曲を最初から最後まで一通りやった。そのときはドラマーも入れていたんだけど、「この曲にはドラムは合わないし、いらないよね」という話になった。それでキーラン(・レナード)を呼んで、結果的にセカンド・ヴァースにはストリングスのアレンジが入ることになった。そうやって何カ月もかけて、「この曲には何が必要なんだろう」と考えて、それを実際に試していく、という流れだった。

あと、環境を切り替えていくというアイデアもあった。最初のコーラスは友達の寝室で録ったスマホの録音なんだけど、そこから別のスタジオに移って、さらにいくつかのスタジオの要素が混ざった状態になって、最後はMIDIギターのパートに行く。だから、「この曲にとって何が必要か」をずっと話し合いながら、それをどう実現するかを探っていった、かなり長いプロセスだったと思う。

この二人はそういう話し合いがすごく得意なんだ。それがブラック・ミディとのやり方との一番大きな違いだと思う。ブラック・ミディでは起こらなかったようなレベルで、何を目指すのか、それをどう実現するのかについて、かなり踏み込んで話し合った。もちろんこれはブラック・ミディへの批判というわけではなくて、単に全然違うアプローチだったということ。自分にとってはすごく新鮮だったし、長いこと別のやり方に慣れていたからこそ、面白く感じられたんだ。

あとアレンジに関して付け加えると、最初はヴァン・ダイク・パークスにお願いしようとしていたんだよね。それで、これは実際にキーラン本人が言ったのかはわからないんだけど、キャロラインのアレックスかマイクが「ヴァン・ダイク・パークスに頼むかもしれない」ってキーランに話したら、「自分にやらせてくれ。値段は10分の1で、クオリティは10倍にするから」って言った、みたいな話を聞いた記憶がある。

マイク:いや、そこまで自信満々ではなかったと思うけどね(笑)。

キャメロン:まあ、だいたいそんな感じだったよ(笑)。

ーたしかに「Target Practice」のストリングスは、ヴァン・ダイク・パークスの『Song Cycle』に通じるものを感じました。彼やあのアルバムのどんなところに惹かれますか?

キャメロン:もちろん彼のビーチ・ボーイズでのアレンジは大好きだし、すごく興味深い人物だと思う。ただ結果的に考えると、いろんな意味でキーランにやってもらって良かったとも思っている。というのも、このレコード自体がある意味でロンドンについての作品でもあるし、ロンドンの音楽シーンや、こっちで自分が関わっている人たち、いわゆるWindmill周辺だけじゃない、もっと広い音楽コミュニティについての作品でもあるからなんだ。だからそこにアメリカのミュージシャンが関わる形になっていたら、少しその軸が揺らいでいたかもしれないからね。もちろんアンドリュー・チータムみたいにヨークシャー出身の外部ミュージシャンも参加しているんだけど、それでも全体としては、ある種のまとまりというか一つの塊としての感触がある。その感じはヴァン・ダイク・パークスが入っていたら少し変わっていたかもしれない。だから結果的にはこの形で良かったと思っているよ。

ーちなみに、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴのアルバム全体に影響を与えた作品やアーティストを挙げるとしたら? ジャスパーやマイクと共有したリファレンスもあったりしましたか?

キャメロン:スタジオではいろんな音楽を流していたよね。『Shaft』のサウンドトラックをかけていたのを覚えているし、ジャスパーがハナ・ストレットンを教えてくれたよね。

ジャスパー:うん。それと『19 Masters』(サヤ・グレイ)もかけていた。

キャメロン:ああ、そうだそうだ!

ジャスパー:サウンド全体という意味では、『19 Masters』みたいな作品が、自分の中ではかなり大きな基準になっていたと思う。『Caroline 2』の制作中にも聴いていたよ。制作のかなり終盤だったと思うけど、リファレンスになっていたと思う。

マイク:(収録曲の)「I FOUND A FLOORBOARD UNDER THE SOIL!」だよね。

ジャスパー:それこそ、(『My New Band Believe』制作中に)『Caroline 2』も聴いていたのかな?

キャメロン:たぶん聴いたと思う。

マイク:制作の途中で、まだ作りかけのものを少し聴いたんじゃないかな。コンセプトの話をしているときに、「こういう感じ」という例として挙げて、少し参照した程度だった気がするけど。

録音という「箱」の入れ子構造

ー先ほど「ぶつ切り」の話がありましたが、アルバム全体でもう一つ印象的だったのが、ほぼ全曲が突然終わる/展開することです。

キャメロン:今回に関して言うと、たとえば語り手が急に切り替わるとか、歌詞のテーマが変わるとか、あるいは曲の中で別の視点を提示したいときに、ああいう変化が生まれているんだと思う。「Actress」の中盤にあるミュージカルっぽいパートとかがそうだね。あれは完全な「ぶつ切り」というよりは、いくつも展開が切り替わっていく感じに近いと思う。実際のところ、自分の感覚では、いわゆる音楽的に唐突で違和感のあるカットはそこまで多くないと思っている。タイミング的に外れたようなカットで思い当たるのは、「Target Practice」の最後くらいかな。それ以外は、少なくとも自分の中ではわりとシームレスにつながっている感覚なんだよね。もう何百回も聴いているからそう感じるだけかもしれないけど。

ー『caroline 2』の「U R UR ONLY ACHING」でも、途中で墓地での録音に突如切り替わる瞬間がありました。このジャンプスケア的な手法は、どういう効果を生むと思いますか?

ジャスパー:ひとつ言えるのは、ああいう手法って、いま聴いているものが「録音されたものだ」と気づかせる効果があると思うんだ。たとえスタジオ録音でも、普通はその音楽が鳴っている空間をあまり意識しないと思うし、むしろスタジオ録音ってそういう文脈を消して、音やリズムだけに集中させようとするものだと思う。でもああいうふうに急にカットすると、それが編集可能で操作できる「録音物」であることが一気に露わになる。つまり、どこか抽象的な空間に音が存在しているという幻想を崩して、「これは録音物で、別の録音物へと突然移動できるものなんだ」と提示することになる。その裏側を覗くような感覚というか、そういうところが面白いと思うんだよね。

キャメロン:「Pearls」の最後でも似たようなことをやっているね。あそこは完全なぶつ切りではないけど、発想は近い。曲の最後でドラムとシンバルだけが鳴っている状態になって、そのときジャスパーがZoomのハンディレコーダーを持って、ドラムの部屋からスタジオの外に歩いて出ていくんだ。それで最終的に、風の音でマイクが歪み始めたところで曲が終わる。スタジオの中から現実の外の世界へと物理的に連れ出されるような感覚で、アプローチは違うけど同じ発想だと思う。

ー『caroline 2』の「Coldplay cover」でも似たような手法が取られていたように思います。

マイク:ああいうのって、箱の中にいるみたいな感覚でもあるよね。何かを聴いているときって、ある種の「箱」の中にいるような感じがあるけど、突然それが別の箱の中に入っていたと気づかされるというか。その箱がさらに別の箱の中にあって……みたいに無限に入れ子になっていく感じ。

キャメロン:ロシアのマトリョーシカみたいな。

マイク:そう、それ。二つ目の層が現れるまでは、自分が箱の中にいることにすら気づかないんだよね。

ジャスパー:そこが重要なんだと思う。

マイク:うん。もちろん滑らかにつなぐこともできるけど、あえて急に切ることで、同じくらい、あるいはそれ以上に強い効果が出ることもあると思う。それに、いくつかの録音が時間軸上で連続して並んでいるということを、そのまま提示するほうが面白い場合もある。全部を溶け合わせて滑らかにするんじゃなくて、「これは別々の録音が順番に起きているんだ」と見せることで、独特の引力が生まれる気がするし、そうやって提示すると、それはそれでちゃんと成立するんだ。

ー今回のアルバム、参加ミュージシャンのクレジットが膨大ですね。キャロラインのメンバーだけでなく、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのチャーリー・ウェイン、Cafe OTOの重鎮スティーヴ・ノーブルなど、様々なシーンの人たちが集まってます。これは最初から計画していたことでしょうか? それとも結果としてこうなったのでしょうか?

キャメロン:最初の段階では、自分とキャロラインのメンバー、合わせて8人か9人くらいで演奏できる形にしようというイメージだったんだ。でも制作を進めていくうちに、だんだん広がっていった感じだね。さっきマイクも言っていたけど、このプロジェクト自体、進める中でずっと変化し続けていたから。そもそもブラック・ミディの次に何をやるかは完全には決まっていなかったけど、アルバムは作りたいという気持ちはあって、その前提自体がかなり開かれていたんだと思う。だから、その中でいろんなやり方を試していくような感覚だった。

それと単純に、一緒にやりたいミュージシャンがたくさんいたというのもある。ブラック・ミディで2019年から2023年半ばくらいまで、コロナの時期を除けばずっとツアーしていたから、ロンドンにミュージシャンの友達はたくさんいたのに、実際に一緒に演奏する機会がほとんどなかったんだよね。ツアーをしていない時期なら、単発のギグで共演するような機会もあるけど、僕はツアーでずっと忙しくてロンドンにほとんどいないような感じだったから。だからこれは、音楽的な意味でロンドンの人たちともう一度つながり直すためのやり方でもあったと思う。

ージャスパーとマイクへの質問で、キャロラインのメンバーに対して、今回のアルバムにどのように貢献してほしいというやりとりがあったのでしょう?

ジャスパー:最初の段階では、基本的にかなりフラットというか、8人全員が同じような立場で関わっていたと思う。ただ時間が経つにつれて、そこは少しずつ変わっていった。普段のキャロラインだと、キャスパー(・ヒューズ)も僕やマイクと同じような役割を担うんだけど、今回は彼が忙しくて参加できなかったんだよね。それで普段は、僕らが他の5人にある程度方向性を示しながら、プロジェクト全体のビジョンを舵取りしていくんだけど、今回はそこにキャメロンがいて、全体の方向性をリードしていた。だから僕らはその中間にいるような立場だったという意味で、普段とは違っていたと思う。

ただ一方で、他のメンバーの即興を導いたり、方向づけたりするというダイナミクス自体は変わっていなかった。録音のときも、今回はバンド全体で一斉に演奏するというより、個別にスタジオに入って録ることが多かったから、その点も普段のキャロラインとはかなり違うと思う。メンバーの中には、そうやって一人でスタジオに入って演奏する経験があまりない人もいる。普段のキャロラインの制作だと、もちろん個別に録ることもあるけど、同時に4人とか5人で一緒に演奏することも多いし、そのときは僕ら自身も演奏しているから、コントロールルームから誰かが指示を出すという形でもない。だから今回はかなり違うやり方だったと思う。そのぶんメンバーにとってもいい経験になったと思うし、ある意味ではいきなり本番に放り込まれるような感覚もあったと思う。

マイク:それは僕らも同様だったよ。

ジャスパー:たしかに。

マイク:ただ録音の段階では、やり方自体はある意味いつもと近い部分もあったと思う。というのも、普段と同じような言葉で(キャロライン以外のメンバーとも)コミュニケーションできたから。「こういう感じで一回やってみよう」とか、そういう言い方で通じるんだよね。僕らのバンドでも、たとえば「このヴァイオリンはこう弾いて」と具体的に指示することはあまりなくて、「このあたりでこういう質感を試してみよう」みたいな、かなり抽象的な言い方で進めることが多い。それでも最終的にはビジョンに沿った形に収まっていく。その意味では、プロセスや感覚的なやり取りは普段とかなり近かったと思う。結局のところ、長く一緒にやってきたメンバー同士だから、そのあたりは自然にできたんだろうね。

「曲」が求めるサウンドの追求

ー歌詞が印象的なアルバムでもありますが、歌詞について三人で話し合うことはありましたか? 歌詞の内容によってサウンドのあり方が変わっていくこともありましたか?

ジャスパー:そこまで頻繁に話していたわけではないと思う。もちろん歌詞も曲も把握していたけど、細かく踏み込んで議論することはあまりなかったんじゃないかな。

キャメロン:そうだね。ただ、「Target Practice」の歌詞について話したのは覚えているよ。あの曲のコーラス(サビ)ってネガティブにも聞こえるけど、実はポジティブなチャントとしても解釈できるんじゃないか、っていう話をジャスパーとしたよね。

ジャスパー:どの部分だっけ?

キャメロン:「Dont cry, you deserve this」のところ。

ジャスパー:ああ、あそこね。それは面白い解釈だなと思った。

マイク:全体としては、歌詞とか声が、自分たちが普段やっている音楽よりも前に出ている感じがあって、そこが興味深かったかな。少なくとも歌詞は、曲の中でより重要な要素として存在していたと思う。その点は自分たちのやり方とは少し違っていた。

ジャスパー:キャメロンのアルバムって、収録されているバージョンとは別に、その根底に「曲」が存在している感じがあるんだよね。彼は基本的に一人でも、曲を成立させることができると思う。そういう意味で、キャロラインとは根本的に違う。キャロラインの曲はそういうことができないから。もし僕やマイクがソロでキャロラインの曲をやろうとしても、全然成立しないと思う。だからこれは、ある種まったく違う音楽的な伝統に基づいているとも言えるよね。キャメロンの作品はソングライターという存在が前提にあって、その枠組みを押し広げているように感じる。一方でキャロラインにも曲はあるけど、そこには特定のソングライターがいるわけではないし、「曲の核」を取り出すこと自体が難しい。仮に抽出できたとしても、それはメロディや歌詞を持った曲というより、アイデアやプロダクションのコンセプト、あるいは二つの音が交互に鳴るだけのようなものになると思う。

マイク:曲が他の要素から独立して存在しているわけではないんだよね。

ジャスパー:まさにそういうこと。そういう意味でも、僕やマイクにとってはかなり新鮮な経験だったと思う。ソングライターがいて、その人の曲をもとに一緒に制作するというやり方を、それまで二人でやってきたことがなかったから。

「Target Practice」キャメロンのギター弾き語り動画

ージャスパーは以前、キャロラインについて「演奏するのと同じくらい多くの議論をする」と語っています。今回の制作で、三者の意見が最も割れたのはどのトラックで、 誰がどんなことを主張しましたか?

ジャスパー:トラックリストを見てみようか。正直、大きく意見がぶつかった記憶はあまりないんだよね。

キャメロン:でも「Heart of Darkness」の最後を別トラックに分けるべきだって、ジャスパーは言ってたよ。

ジャスパー:ああ、そうだったね。

キャメロン:何度か提案してくれたと思うけど、僕はずっと流していたんだよね。「いいアイデアだね」って(笑)。

ジャスパー:完全な対立ではないけど、ボーカルのテイクについては途中で少し方向性を見直したことがあったと思う。最初はもう少し違うスタイルで録っていたけど、途中で「少し変えたほうがいいかもしれない」と感じるようになって、結果的に録り直したよね。どの曲だったかははっきり覚えていないけど、いくつかの曲でそういうことがあった気がする。

キャメロン:そうだね、ボーカルの音やニュアンスは、納得いくまで少し時間がかかったと思う。

ジャスパー:でも、大きな意味でのプロダクションの対立みたいなものはなかったと思う。

マイク:うん、基本的にはかなりまとまっていたと思う。何かに対して意見が割れるというよりは、「まだ理想に届いていない」と全員が感じている状態のほうが多かった。つまり、やりたいことが実現できていないとか、まだうまく形になっていないという感覚だね。

キャメロン:その辺りは、はっきりした締め切りがなかったことも大きかったと思う。このアルバムの制作は、いろいろ試してみること自体がプロセスの一部だったから、その時点では懐疑的なアイデアでも、とにかく最後までやってみようという姿勢だった。「とりあえずやってみて、ダメなら消せばいい。まずはどこまで行けるか試そう」という感じ。あと、さっきジャスパーも言っていたように、このアルバムは曲そのものの存在感がかなり強いんだ。録音とは別に、もともとの「曲」がしっかりある。だから多くの場合、その曲自体がプロダクションの方向性をある程度示してくれる。あとは、その中でいろいろ試して、最終的にしっくりくる形を見つけていく、というプロセスだったと思う。

ー出来上がったマイ・ニュー・バンド・ビリーヴのアルバムを聴いて、どんな点に手応えを感じています?

キャメロン:最終的には、曲がもともとそういう音で鳴るべきだったと思えるような仕上がりにしたい、というのが目標だったと思う。その意味では、ちゃんとそこにたどり着けた感覚があるね。特に「Love Story」は、自分の中でかなり明確なイメージがあって、できるだけ完璧に近づけたいと思っていた曲なんだけど、かなりそのイメージに近いところまで実現できたと思っているし、そこにはすごく満足しているよ。

マイク:最初にこのアルバムに取りかかり始めたときは、とにかく大きなプロジェクトになるという感覚があって、何カ月もかかるだろうと最初からわかっていた。最終的に一枚のアルバムとして完成すると、当時はなかなか実感できなかったというか。どこか現実味がなかったんだよね。それくらい野心的で複雑な内容だったと思う。

キャメロン:初期の段階では曲数ももっと多くて、15曲くらい候補があって、どれが残るのかも全然わからない状態だった。アルバムに入っている曲のなかにも、当初は「これはないだろう」と思っていたものもあったし、逆にアルバムの核になると思っていた曲が最終的には入らなかったりもしている。

マイク:そうだね、B面に回ると思っていた曲が残ったりもしているし。だから、このアルバムが辿ってきた過程を振り返るのはすごく面白いし、最初に思い描いていた完成形を無理に追いかけるのではなく、自然に形になっていく流れに任せたのも良かったんだろうね。誇りに思っているし、単純にすごく楽しい作品になったと思う。

My New Band Believe × carolineが語り合う black midi解散後に共鳴した2組の化学反応

ROUGH TRADE 50TH ANNIVERSARY
featuring:caroline, MY NEW BAND BELIEVE
2026年9月30日(水)大阪・Yogibo META VALLEY
2026年10月1日(木)東京・Spotify O-EAST
開場・開演:18:00
チケット:前売:10,000円(税込 / 別途ドリンク代 / オールスタンディング)
※未就学児童入場不可
公演詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15803
チケットリンク:https://linktr.ee/roughtrade50

My New Band Believe × carolineが語り合う black midi解散後に共鳴した2組の化学反応

マイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
『My New Band Believe』
発売中
日本盤:ボーナストラック2曲追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15646

My New Band Believe × carolineが語り合う black midi解散後に共鳴した2組の化学反応

キャロライン
『caroline 2』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14915
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