中国語を知らない日本人と日本語を知らない中国人。台湾人や香港人も含めてですが、意思疎通のためにどうするか。
まず思いつくのが筆談です。もちろん、同様な漢字を使っても意味がピタリと同じではないし、文法は全然違う。互いに何とか分かり合おうとするのですが、考えすぎたばかりに勘違いということもあります。

■言葉が通じなくとも買い物は進んだ

 今から10年ほど前の話です。日本の大学の先生が台湾を旅行しました。この先生、とにかく資料の収拾に情熱を燃やす人でした。台北市内で大きな書店を見つけ、飛び込んだ。台湾には日本語ができる人がかなり多いのですが、その書店にはいなかったそうです。

 自分の専門分野はもとより、直接関係のない書物まで買おうとするものですから、購入予定の本はどんどん増えていきます。中国語はできないのですが、とにかく図版の多い本を中心に購入。買うことに決めた本を、店にあった机に積み重ねていきます。

 書籍漁りを続けること約30分。
すると突然、トイレに行きたくなった。「こりゃまずい。店のトイレを拝借できないか」ということで、この先生、筆談を試みました。ノートを取り出して「便所」と書き、店員さんたちに見せた。

 店員さんが大勢寄ってきて、議論が始まったそうです。最後に売り場の責任者らしい人が、「分かった。大丈夫」というような顔でうなずいて、店の奥の方に、なにやら大声で叫んだ。

 奥から出てきた店員さんは、地図帳を何冊も抱えていたそうです。

■簡単に通じるはずが、善意の勘違い

 中国語のトイレは「厠所(ツースオ)」。「便所(ビェンスオ)」でも十分に通じます。もう少し“上品”な言い方としては「衛生間(ウェイシェンヂエン)」、「洗手間(シーショウヂエン」など。「便所」で通じるはずなのに、なぜ「勘違い」が生じたか。
おそらく店員さんらに「この人は、とにかく本を買いたがっている」、「まさかトイレではあるまい」との先入観があり、「便所」の文字を「場所を知るのに便利な本」と思った。考えすぎた結果だったのでしょう。

 双方にまったく悪意はありません。それどころか、台湾の店員さんは「日本から来たお客さんのために、できるだけのことをしよう」と頑張ってくれたわけです。それでも「勘違い」はありうる。もちろん、言葉が通じたとしても、勘違いのタネは尽きません。この話を聞いて、どこの国の人と交流するにかぎらず、「相手のことを誤解している可能性」を前提に慎重に対処しないと、意思疎通がますます「ねじれて」しまいかねないと、改めて思ったのでした。

 ちなみにこの先生、懸命のジェスチャーで「緊急事態」を理解してもらい、ことなきを得たそうです。(編集担当:鈴木秀明)

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