中国で、道などで倒れた高齢者を「見捨てる」事態が多発している。これまでに、倒れた高齢者を助けたところ、逆に「害を与えた」と訴えられるケースが発生したことが影響していると考えられる。
道で倒れた高齢者を女性が助けようとしたところ「やめとけば」と“善意の声”が上がった事例もあるという。中国新聞社が報じた。

 北京市に住む60代の女性は10日朝、道で転倒してしまった。膝(ひざ)の関節に持病があるので、なかなか起き上がれずに困っていたが、周囲を通る人は、ひとりとして助けてはくれなかったという。

 福建省福州市では12月29日、交差点近くで85歳の男性が倒れた。周囲に人が集まったが助けようとする人はなかなか現れなかった。男性は意識を失っていた。しばらくたち、見かねた女性が「持病なら、薬を持っているかもしれない」と思い、倒れた男性のポケットを調べ始めた。すると周囲から「やめとけば」と“善意の声”が上がったという。女性が携帯電話で連絡したので救急車がやってきたが、男性はすでに死亡していた。

 インターネットには、「やむをえない」とするユーザーの声が多く寄せられた。「人助けはもともと、中華民族の美徳だった。
しかし今の世では、その美徳を発揮することはできない。疑われてしまうからだ」、「かかわりになることは、できるだけ少ない方がよい。現代の人の心は複雑すぎる。ちょっとしたミスに難癖をつけられるだけ。私もひどい目にあったことがある」などと、困っている人を“見殺し”にするのも、現代の中国ではやむをえないとする主張だ。

 重慶市では2009年11月、中学2年生の男子が街で倒れた高齢者が起き上がるのを助けたところ、高齢者とその家族が「倒したのは中学生」として、保護者に損害賠償を求める裁判を起こした。周囲にいた多くの人が「少年に落ち度はなかった」と証言したので、一審は原告の高齢者側の訴えを退けた。原告側は控訴したが、二審の開廷当日になって取り下げた。

 “トラブル”になってから少年は口数が少なくなり、両親に対して時おり、涙ながらに、「人助けは楽しいことだと言っていたじゃないか」と言うようになったという。

 中国倫理学会の王偉副会長は「道徳的な行為が不道徳に罪をかぶでられる事件が多発すれば、人々すべての感情に悪影響を与える」と指摘。「表面的には道徳的な堕落だが、社会における人々の信頼心に深刻な亀裂をもたらす」と警告した。

 王副会長は、70代の高齢者が道で転倒したエピソードを紹介した。
周囲を通行する人が多かったが、高齢者を助け起こす人があらわれたのは30分後だった。高齢者は「ありがとう」と言ってから、「安心してくれ。私は人をゆするような人間じゃないよ」とつけくわえたという。

 王副会長によると、人と人の信頼が失われているからこそ、高齢者は「安心してくれ」との言葉を発した。「信頼を取り戻せないかぎり、道徳心が向上することは不可能だ」という。(編集担当:如月隼人)

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