153センチの小柄なボランチがピッチで常にパワフルな存在感を放っている。でも、本人は「たぶん、みなさんが思っているほど自分って強くないんですよ。
いつも悩んで悩んで悩んで悩んでいるから。もっと強くなりたいです」と心の内を明かす。

 2025/26シーズン、サンフレッチェ広島レジーナのMF柳瀬楓菜が飛躍を遂げた。WEリーグでは序盤に怪我で2試合を欠場したものの、それ以外の全20試合に先発出場し、クラシエカップは全8試合にフル出場。皇后杯では全5試合にフル出場して初優勝に大きく貢献した。

 持ち前の豊富な運動量や球際の強さを活かし、ピッチを縦横無尽に走って戦い続けるパフォーマンスにはさらに磨きがかかった。これまでも「ピッチに何人もいる」と称されることはあったが、今季はその人数が増えたようにすら感じられる奮闘ぶりだ。

 本来の強みに加えて、今シーズンはゴールに迫る姿勢が明らかに向上した。「ゴールやアシストにはこだわっていきたい」と誓っていたレジーナの背番号23は、その言葉どおりWEリーグ公式戦で自己最多の計6ゴールを記録。特にシーズン後半戦は公式戦全14試合フル出場で5得点の圧巻の活躍でチームの好調を支えた。持ち味を活かしたパフォーマンスに、目にみえる結果も伴い、「2025/26 WEリーグ 優秀選手賞」にも初選出を果たした。

 初期メンバーとして広島に加入した高卒ルーキーはもう23歳になった。
5年目の今シーズンは、赤井秀一監督率いる新体制となり、開幕の前後にキャプテンの左山桃子などが相次いで負傷離脱する厳しいスタートを強いられたが、柳瀬は副キャプテンの1人としてチームをけん引し、ピッチ内外で欠かせない存在となった。

 今シーズンも苦悩の日々を乗り越えてきた。チームのことを考え行動し、サポーターたちの思いを背負って戦い、その仲間たちと喜びを分かち合ってきたぶん、また柳瀬は強くなった。確かな成長を今シーズンの活躍が証明しているが、それはさらなる躍進の始まりにすぎない。これからも持ち前のプレースタイルのように、上を目指してひたすら走り戦い続ける。

インタビュー・文=湊昂大

――まずは「2025/26 WEリーグ 優秀選手賞」への初選出おめでとうございます。選ばれた心境を教えてください。
柳瀬 ありがとうございます。特にシーズン後半戦に入ってからずっと求めていたゴールやアシストの数字のところで個人的に結果を出せていたので、その部分はすごく自信につながりました。WEリーグでも中盤は特にレベルの高い選手がいる中で、選んでもらえたことが素直にうれしいです。このチームでやれていたからこその結果だと思うので、チームのみんなに感謝しています。

――WEリーグ公式戦では自己最多の6得点を記録しました。
得点数が増えた要因をどう捉えていますか?
柳瀬 やっぱりゴール前に入っていくところが1番大きいですし、今のレジーナのサッカーが、奪った後もより前に出る攻撃的なサッカーなので、その部分で攻守にわたって自分の持ち味を活かせていると思います。守備だけじゃなくて、攻撃でも前線での関わりを増やせたことが大きいと思います。

――6ゴールの中でベストゴールを教えてください。
柳瀬 スタジアムの雰囲気も含めたら、やっぱりちふれASエルフェン埼玉戦(※「自由すぎる女王の大祭典2025/26」で1万7612人が来場)は、特に結果を求めていた中で自分が点を取れて勝てたので、すごく印象に残っています。(ゴールを決めた後は)スタジアムが盛り上がる瞬間が1番好きなのですごくうれしかったです。

――WEリーグ第19節のAC長野パルセイロ・レディース戦で決めた見事なミドルシュートのシーンのように、足を振る意識も今まで以上に高くなった印象です。
柳瀬 (長野戦は)自分がもらった時にフリーで、相手も来ていなかったので思い切って足を振ろうと思いました。やっぱり自分にチャンスがあったら足を振ろうと思っていますし、チームとしてもシュート数やゴール数の部分は監督からも言われているので、自分も積極的にゴールを取る意識を持って毎試合入っています。

――WEリーグ第21節のセレッソ大阪ヤンマーレディース戦で見せたロングスルーパスのように、決定的なパスでチャンスを演出するシーンも増えました。
柳瀬 今まではパスの質やタイミングのところで少しずれたり、相手のプレッシャーが強くてミスしたりが続いていましたけど、今シーズンは特に後半戦になってから、より落ち着いて周りを見てプレーできていて、味方を見ながら合わせていく部分はかなり自分の感覚とも合ってきたと思います。

――豊富な運動量や球際の強さといった本来の持ち味もパワーアップした印象ですが、手応えはいかがですか?
柳瀬 やっぱりチームで目指しているサッカーが特に中盤はすごく重要なので、周りもうまくカバーしてくれていますし、より自信を持ってプレーできていると感じています。

――今シーズンの個人のパフォーマンスをどう自己評価していますか?
柳瀬 個人的にはシーズン前半戦は物足りなかったと思っています。
守備も攻撃も全然自分の納得いくようなプレーではなかったし、自分の弱さもすごく見えたなと感じました。自分自身で流れが悪いなとか、今はあんまり良くない時間帯だなと思っている中で、何も改善できなかったっていうところは、試合後に『ああしとけばよかった』、『こうするべきだった』と言う後悔が残ることが多かったです。やっぱり守備でも攻撃でも常にチームを助けられる存在でありたいと思っていますし、それが1番目に見えてわかるのは数字なので、その部分は常に自分自身に求めていきたいと思っています。

――今シーズンのチームの戦いを振り返ってください。
柳瀬 前半は主力選手が長期離脱する中で、いろんな組み合わせやって、すごく難しい状況でしたけど、その中で皇后杯は特に勝ち進んでいく中でも課題を見つけながら、そこにみんなで目を向けていった中で優勝できたので、本当にチームとして成長を感じました。苦しんだ中でもああいう形でタイトルが取れたことは、すごくチームとしても大きいと思いました。シーズン後半戦になってから新加入選手が加わって、より自分たちがやりたいサッカーができていると感じましたし、そこで結果もついてきたのですごく自信になりました。その中でも、相手に対策されて自分たちのサッカーが出せなくなったときのもう1歩先のところは、まだまだ今後も課題だと感じました。

――シーズン前半戦で直面した苦しさはどういうものでしたか?
柳瀬 目には見えないチームの雰囲気もそうですけど、どうしても試合の流れが悪い時間帯、うまくいかない時間帯がある中で、チームとしてどういうプレーを今選択するべきなのかができていないように感じていました。やっていく中でもお互いが共通意識を持ってできていないんじゃないかなというのは、試合中にすごく感じることはありました。

――その苦しさを乗り越えるきっかけは何でしたか?
柳瀬 やっぱり話すことが大事だなと今シーズンは1番感じましたし、コミュニケーションも増えました。今までは左山選手が後ろから声をかけて引っ張ってくれていたので、その部分で任せっきりになっていたことを自分自身痛感しました。
話さないと前後の選手がどう思っているのかはわからないですし、そこで今何をするべきかという認識がバラバラになってしまうと、どうしてもチームとしてのまとまりに欠けてしまうので、そこは『今うまくいってないからこうしよう』と話すことでお互い理解できるので、改めてすごく大事だと感じました。

――苦しい時期もありながら皇后杯を勝ち進みましたが、初優勝まで辿り着けた要因をどう捉えていますか?
柳瀬 勝ち進んでいく中で、自分の中でちょっと引っかかるところがあって、勝ってはいるけど、試合の内容を見たらやっぱり全く物足りなかったと思います。1番は失点が多かったところがすごく気になったので、その部分でどうしていけばいいか、小川選手をはじめチームメイトと話して改善していきたいっていう相談はしました。コミュニケーションを取って、みんなで同じ方向を見ることが1番大きかったと思います。

――チームを引っ張ってきた近賀ゆかりさん(現・日本女子代表コーチ)や福元美穂(現・岡山湯郷Belle)が退団し、開幕直後にキャプテンも負傷離脱で不在になった中で、副キャプテンとしてどういうことを意識していましたか?
柳瀬 ピッチで表現するところでは、背中で見せるじゃないですけど、スイッチを入れるためにも1つひとつのプレーで戦う姿勢は必要だと思っています。何より1番はチームのことを考えるようになりました。あまり言葉で伝えるのはうまい方じゃないので、それよりも戦う姿勢で伝えたいと思っていますし、試合中もそう考えるようになりました。

――今季から赤井監督のもとでプレーして、チームとして成長できた部分や実際にピッチで戦っていて変化を感じる部分を教えてください。
柳瀬 ボールを保持できるようになった部分もそうですし、特に5得点取れた長野戦がわかりやすくて、攻撃の部分でより質が上がってきたなと感じています。より前に人数をかけるサッカーですし、出したら追い越すとか、そういう攻撃の部分で、すごくみんなが躍動していて、よりレジーナらしいサッカーを表現できていると思います。

――個人的に赤井監督のサッカーだったからこそ成長できた部分はありますか?
柳瀬 攻守においてすごく運動量を求められるポジションなので、より自分の強みを自信を持ってピッチで表現できていますし、その良さをすごく引き出してもらえたと思います。自分自身もやりやすいですし、やっていて1番楽しいです。


――その楽しさはどういったところで感じますか?
柳瀬 考えること。『今はここが空いているから、そこから攻めた方がいい』、『相手がこう出ていくから自分たちはこうしよう』とかを考えながら、味方と話をして変えていく部分は新たな楽しさになっています。やっぱり相手も対策をしてくる中で、『自分たちがどう変えていけばいいか』ということは常に考えているので、相手を見て自分たちが変化をつけられるところが楽しいです。

――赤井監督もよく言う「相手を見てプレーする」という部分は、初代監督の中村伸さんも言っていた部分ですが、そこの成長をどう感じていますか?
柳瀬 やっぱり1年目は自分自身のことでいっぱいいっぱいでしたけど、そのときと比べて今は組む選手の特徴を活かしたいと思うので、その選手の得意なことを活かせるようなポジショニングやプレーは意識してやるようになりました。

――選手たちからは「自分たちでいい雰囲気を作らないといけない」といった声を聞きましたが、そういった主体性の部分はどう捉えていますか?
柳瀬 サッカーはうまくいかない時にどうするかがすごく重要だと自分は思っています。うまくいっているときは自然と何もしなくても、いい流れで自分たちのサッカーができると思うので、相手に対策されたり、自分たちで流れ悪くしたり、いろんな状況があるときに、『どうしたらチームがいい流れで、いい雰囲気でできるのか』ということは考えていますし、今はまだそこは足りていないと思っています。

――シーズン序盤は結果が伴わない試合が続いた時期もありましたが、皇后杯以降やシーズン後半戦は連敗や未勝利が続くことがなくなりました。切り替えの部分はどう捉えていますか?
柳瀬 今シーズンはシュウさん(赤井監督)が『一喜一憂しない』とずっと言ってきたので切り替えはできていると思います。特にクラシエカップ(準決勝第2戦)で負けた後は切り替えがすごく難しかったですけど、自分自身はアウェイのスタジアムで見たファン・サポーターの方たちが忘れられなくて、この応援してくれる皆さんを決勝の舞台に連れて行けなかったことがすごく申し訳なくて、その思いはずっと持ち続けたいと思いました。自分はピッチでしか返せないと思っていて、その人たちの思いを背負っていることをすごく感じながら切り替えて長野戦に臨んだので、あのミドルシュートもそういった思いを背負って戦えていたからこそのゴールだったと思います。

――今季のリーグ戦ではシーズン総入場者数合計6万3554人を記録し、昨季打ち立てた最多記録を更新。アウェイでは常にサポーターの応援があり、練習場にも約300人が見学に訪れた日もありました。
そうした環境でサッカーをする思いを改めて教えてください。
柳瀬 自分たちはピッチでサッカーをする姿を見てもらえていますが、それだけじゃなくてトレーニングしたり、自分自身と向き合ったり、いろんな壁にぶつかったり、見えないところで努力している姿がみんなそれぞれあります。それと同じように、サポーターの方たちも毎試合、横断幕を張ってくださったり、旗を振ってくださったり、太鼓を叩いてくれたりして、当たり前のことじゃないと思いますし、その横断幕を運んでくれるような見えないところのサポートはすごく大変なことだと思います。毎試合どんな遠いアウェイの中でも相手チームよりも声を出して応援してくれているのはすごく伝わっていますし、それに応えないといけない責任も同時に感じていますけど、だからこそ勝った時に一緒に喜べるのはすごく幸せですし、その瞬間がこのチームに入って大好きになりました。

――今シーズンは目標としていたトップ3やその先の優勝には届かなかったことをどう受け止めていますか?
柳瀬 今シーズンは皇后杯で初めてタイトルを取れたり、カップ戦は目指していた3連覇に届かなかった悔しさがあったり、本当にいろんなことがあったシーズンでした。リーグ戦はシーズン後半戦で負けなしで結果がついてきた中で、相手が自分たちを対策してくるという今までにない状況だったので、そこでまたこのチームが成長できるなと思いました。より上に行くためには引き分けじゃダメで、『どうやって勝ち点を積んでいくか』に目を向けられるようになっているので、今まで以上に優勝を目指していけるチームになっていくと感じています。

――より上を目指していくために、来シーズンどういったことが必要になると思いますか?
柳瀬 強いチームは、どんな状況でも点を取れて勝っていくチームだと思うので、相手がいろんな対策をしてくる中で、そこをどうこじ開けて点を取るかが重要になってくると思います。そこも、来シーズンはまた新しい攻撃の部分を出せると思うので、それを自分自身も楽しんでやっていきたいと思っています。

――来シーズンはサポーターにどんな試合やどんなサッカーを見せたいですか?
柳瀬 初年度からこのチームでやらせてもらっていて、(観客が)数百人ぐらいだった頃を考えると、今は本当に幸せなことだと思いますし、このエンブレムを背負って、このチームで戦えていることを誇りに思っています。あんな最高のファン・サポーターがいる中で、『レジーナのサッカーって楽しいね』って言ってもらえるようなサッカーを、チーム全員でピッチで表現していきたいです。

――楽しいサッカーを見せる上で個人としてはどんなプレーを見せたいですか?
柳瀬 戦う姿が1番伝わりやすいと思います。諦めずに最後まで走る、泥臭くゴールを奪い、ゴールを守る姿を見せていきたいですし、やっぱり点を取ってファン・サポーターと一緒に喜びたいなとすごく思います。
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