今年2月の第51回衆院選において、57年に及ぶ議員生活で初の落選を喫した小沢一郎。だが、その動きは今も活発だ。今月には自身の率いるグループ「一清会」の新事務所を都内に開設し、他の落選者の拠点にしたいと呼びかけた。近年稀に見るほどに弱体化した野党に活路はあるのか。過去二度の政権交代を導いた小沢氏が“大予測”を展開!
――小沢さんは高市首相が新進党に所属していた頃に党の代表を務めていました。
小沢 高市君が出てきた頃から知っているから。住専の不良債権に公的資金を投入するのに反対して、予算委員会室の前に座り込んだこと(※1)があっただろう。当時から目に付く存在だったね。
小沢 個人的に親しかったわけではないから人間性はわからないけど、今ほど右寄りではなかったよな。
――高市首相は1993年に無所属で初当選後、政策集団「リベラルズ」(※2)に合流しました。
小沢 (安倍)晋三君の影響だろうなあ。しかし、晋三君は発言が不評を買うと自制するところがあった。高市君は情緒的に本音を口にしてしまう。リーダーが他人の顔色を伺うのは良くないが、かと言って感情のままに発言してもいけない。政治家は常に冷静で、論理的でなくては。
――昨年の国会での台湾有事発言の際には、言動の軽率さが指摘されました。
小沢 あれは本心さ。ただ、それを口にすると大きな反発を買うと予測できなかったんだろう。その意味では、単純といえば単純、素直といえば素直だ。最近では多少の反省もしていると思うけど。
――台湾有事発言以降、日中関係の冷え込みが懸念されています。
小沢 高市君はあまり気にしていないんだろう。しかし、経済に悪影響が及べば、国民が黙ってはいない。原油高騰のうえに日中貿易まで冷え込めば間違いなく日本経済に影響が出てくる。そうなれば、見て見ぬふりをするわけにもいかなくなるよ。
「普通の国」とは「軍事国家」ではない
――3月の日米首脳会談では高市首相に対して「トランプに媚びた」との声もあります。先日、小沢さんはYouTubeチャンネルで「なぜ日本はNOといえないのか?!」という動画を公開されていました。小沢 フランスやイタリアは、イラン攻撃に関与する米軍機の領空や基地の利用を拒否した。対して、日本は佐世保の米軍基地から揚陸艦が出撃している。なぜ日本がNATO諸国のようにアメリカにNOと言えないのかといえば、日本人が甘えているからだよ。
トランプ以前から、日本の「安保ただ乗り論」(※3)は指摘され続けてきた。日米安全保障条約は、日本が武力攻撃を受けるとアメリが助けてくれるが、アメリカが攻撃されても日本は防衛の義務を負わない片務条約だ。日本がアメリカに一方的に守られているから、言いなりになるしかない。
沖縄で米兵の暴行事件があると日米地位協定を改定しようと声が高まるが、アメリカには鼻で笑われてしまう。
――小沢さんの長年の持論である「普通の国」(※4)論ですね。
小沢 当たり前の自立した大人の国になれと。「自立と共生」が僕の政治哲学の柱だからね。
――しかし、「普通の国」というフレーズが誤解されているように感じます。ただただ、軍備を増強することが「普通の国」であるかのように。
小沢 勘違いされているんだ。1993年に『日本改造計画』を出した後も「軍国主義を再来させるつもりか」と批判された。そんな話ではないんだ。他国が当たり前にやっていることを、軍備も含めて日本もやるべきだと言っているに過ぎない。
――高市首相の熱心な支持者にも「普通の国=軍備増強」との誤解があるように思います。
小沢 高市君の支持者だけじゃないさ。
高市政権のアキレス腱はインフレと物価高である
小沢 「今は」な。
――今後、ひっくり返る可能性があると。
小沢 ひっくり返るよ。細川政権(※5)なんて当初は70%以上の支持率だったんだ。支持率なんて脆いものだ。大勝したと言われている今年2月の衆院選も、自民党の比例票は岸田政権の頃と比べて大して増えていない。その後も地方選挙では負けが続いている。政権の支持率なんてタレントの人気投票のように移ろいやすいものだよ。
――高市首相が退陣するとして、引き金は何だと思われますか。
小沢 物価高だろう。夏にかけては電気代もガス代もさらに値上がりする。日中関係がより悪化すれば経済損失もさらに生じる。日中貿易の総額は日米貿易よりも大きいんだ。インフレが止まらず物価が上がり続ければ、政権の人気なんてすぐに崩れるよ。田中(角栄)先生のときもそうだった。政権発足時は支持率60%以上だったが、第一次オイルショックで狂乱物価(※6)に見舞われて人気を落としてしまった。
――高市政権の人気に陰りが見えるのは、いつ頃だと思われますか。
小沢 今年中には大きな政局が訪れると僕は思う。ごちゃごちゃになるから面白いんだよ(笑)。
政権交代には、「新党」と強いカリスマの存在が必要
――しかし、高市政権と相対する野党に勢いがありません。小沢 今の野党議員も、たった30年前の細川政権のことを覚えていない。一昨年の衆院選後の首相指名選挙(※7)は、野党が結集していれば政権交代できていた。細川政権のときは、そうやって勝ったんだから。政権を本気で取る気概が感じられない。
――30年前と今では状況が違いますか。
小沢 そうではない。状況は同じだ。野党の心構えが違うんだ。自民党政権を打倒したいのであれば、何が何でも政権を取る覚悟をしなければいけない。政権にすり寄って、おこぼれに預かろうとばかり考えているんじゃないのかね。
――たしかに、現在はねじれ国会なので、野党が結集すれば参議院では与党になりますが、本当に可能でしょうか。今の参議院の野党には、参政党などの自民党よりも右の勢力が一定の存在感を有しています。
小沢 今の野党は結集できないよ。
小沢 すべきだといくら言ってもダメなんだ。参議院だけではない。衆議院も同じで政権を自ら担う意識がない。細川政権の八党派連立では、第一党が社会党だったんだ。第二党が新生党。しかし、両党のどちらでもない細川君を担いだ。多くの人間が結集しようというときに「俺が俺が」と言い合っていては、いつまでもまとまらんよ。自分を殺して周りを生かすようなリーダーがいなければ。
――中道改革連合代表の小川淳也氏はいかがですか。自分を殺して周囲を気づかう振る舞いも見受けますが。
小沢 最近、あまり会っていないから、よくわからない。しかし、彼は性格的に強いほうではない。だから存在が薄れてしまう。
――中道改革連合は野党結集の中心になれるでしょうか。2月の衆議院選挙では改選前から大幅に議席を減らしてしまいました。
小沢 あれでは勝てるはずがない。結党前に安住(淳)君が何度か報告に来たが「君と野田(佳彦)君ではダメだ」と強く言った。公明党との合流は良いとして、それならば他の政党とも手を組んで、さらに大きな塊を作らなければいけないと。ましてや、新党を打ち出すのであれば野田・安住の体制では全く目新しさがない。あれでは新党ではなく古党だ。
――新党結成に必要な条件は何だと思われますか。
小沢 条件なんていう、理屈の話ではないよ。一般の国民の情緒に響いて「これはいける」と感じさせる集団でなくては。新しい顔を据えるのもいいだろう。民間人でもいいんだ。民間人でも国会議員になれば首相になれるんだから。
――高市一強と評される昨今ですが、政権交代の目はまだあると。
小沢 変わる。変わる。自民党にも、黙っているだけで不満のある人間はいる。支持率が落ちれば噴出するだろう。そうなれば、ごちゃごちゃだ。
――今の政界に、かつての小沢さんのように政権交代の中心となれる人材はいますか。
小沢 いないな。しかし、そういうものだ。「国乱れて忠臣あり」(※8)と言うだろう。安定した時代には誰が次のリーダーなのかわからない。世の中が混乱して初めて、頭角を現すんだ。
※1 予算委員会室の前に座り込んだこと
1996年、いわゆる「住専国会」で予算案の強行採決に反対し、当時の新進党若手議員が国会予算委員会室前で座り込みを敢行。高市のほか、野田佳彦前中道共同代表、河村たかしゆうこく連合共同代表なども参加していた。
※2 政策集団「リベラルズ」
「下町のケネディ」と称した柿澤弘治を中心に自民党内の政策集団として結成。後に、メンバーが自民党を離党し、高市らと合流して自由党(柿澤自由党)を結党した。
※3 「安保ただ乗り論」
「日本は自国の防衛コストをアメリカに肩代わりさせている」という主張。主にアメリカが日本の安全保障体制を批判する際に用いる。
※4 「普通の国」
小沢が1993年の著書『日本改造計画』で構想した国家像。安全保障を例外とせず、国際社会で責任を果たす国を目指すべきだと主張した。
※5 細川政権
1993年に非自民・非共産の8党派連立政権として発足。首相は細川護煕日本新党代表(当時)。小沢は新生党代表幹事として連立を主導した。
※6 第一次オイルショックで狂乱物価
1973年の第四次中東戦争に端を発する第一次オイルショックにより石油価格が高騰。田中角栄内閣が進めた積極財政策と相まって、翌年には消費者物価指数が前年比23.2%上昇した。
※7 一昨年の衆院選後の首相指名選挙
2024年10月の第50回衆院選後の首相指名選挙。自民・公明の与党は衆議院で過半数を割り込んだため、立憲、国民らの野党は結集を模索したが頓挫。自民の石破茂が首相に指名された。
※8 「国乱れて忠臣あり」
国家が危機に瀕したときに真の忠臣が現れるという故事。司馬遷の歴史書『史記』に由来。
【小沢一郎プロフィール】
1942年、岩手県奥州市生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、1969年に衆議院初当選。自民党時代に自治大臣、内閣官房副長官、幹事長を務め、離党後は新進党、自由党、民主党などで代表を歴任。選挙戦術と政界再編で強い影響力を持ち続けてきた。’26年5月、東京に一清会事務所を開設。
取材・文/島袋龍太 撮影/酒井よし彦
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