◆JERA セ・リーグ 巨人6x―5阪神(21日・東京ドーム)

 阿部巨人が首位・阪神を相手に希望をつなぐ大逆転劇で、前半戦を締めくくった。5―5の9回、吉川尚輝内野手(30)の中前適時打で今季5度目のサヨナラを決め、連敗を4で止めた。

5点を先行されたが、7回に6本の長短打を集め、リチャードの3ランで同点。このカードで5点差以上をひっくり返したのは、35年ぶりだった。借金2の3位で、猛虎とは10ゲーム差。苦境で見せた意地が、26日から始まる後半戦で、反攻の原動力となる。

 バットを投げ捨てた吉川が、右拳を突き上げて走り出した。長野を先頭に突進してくる仲間を、今度は両手を上げて迎え入れる。「みんながつないでくれたので、続こうと。最高の形で勝てて良かった」。7月13試合目で初打点が通算7度目の劇打。令和のサヨナラ男が、前半ラストゲームに最高の結末をもたらした。

 ナインの執念を結実させた。前打者の佐々木が11球粘って四球をもぎ取り、5―5の9回2死満塁で打席へ。

「なんとか打ちたい」と3球目の外角140キロ直球を鮮やかに中前へはじき返した。7回に打者一巡の猛攻で5点ビハインドを追いつく熱闘。「リチャードが(同点3ランを)打って、まだ分からないぞって雰囲気にさせてくれた。全員で諦めなかったことが一番」。3安打1打点の3番打者が、逆境をはねのけた打線の中心にいた。

 4連敗中は14打数3安打で打率2割1分4厘。午前10時前から主力では異例の早出特打に参加した。阪神先発左腕・伊藤将に見立てた松本コーチから逆方向へ丁寧に打球を飛ばした。吉川は「早出練習? 僕じゃないですよ」とけむに巻いたが、亀井打撃コーチは「あそこで打つ勝負強さはすごい。毎日、早出をやってもらおうかな(笑)」と努力を結果に結びつけた背番号2を称賛した。

 他競技で戦う猛者から受け継いだ不屈の魂がある。プロボクシング元世界4階級王者の田中恒成さん(30)だ。

吉川にとっては中京高(岐阜)の1学年後輩だ。高校3年時の副担任がボクシング部の顧問を務めていた縁があり「良かったら見に来ない?」と19年12月の世界タイトル戦を初観戦。3ラウンドでKO勝ちする姿を見て「スピードとかめっちゃすごいよ。やっぱ強いなって」と心を動かされたのをきっかけに、交流が始まった。

 田中さんは右目の網膜剥離(はくり)を負い、6月に引退を表明。「ずっとめちゃめちゃ頑張ってたから。今はいろいろと忙しいだろうし落ち着いたら連絡しようと思っています」と吉川。けがと闘いながらリングに立ち続ける姿を目の当たりにし、刺激を受けてきた。

 首位と10ゲーム差。まだ虎の尾は遠いが、逆転Vへの望みをつなぐ白星をつかんだ。「僕たちは1個ずつ戦っていくしかない。どこが相手でも勝てるように頑張っていきたい」。

どれだけパンチを浴びても、諦めたりはしない。野手陣の大黒柱として、ミラクルへの道を切り開く。(内田 拓希)

◆巨人を背負う存在に成長…村田真一「Point」

 さすが尚輝やね。外の真っすぐを逆らわずにセンターに。お手本の打撃よ。コントロールのいい伊原がカウントを整えにくるだろう外を狙っていたのかもしれんね。(岡本)和真不在の今は、この試合の内野のメンバーを見渡しても引っ張っていくのは尚輝しかおらん。4番を打ったり。精神的にも大変やと思うけど、それは巨人を背負っていく存在に成長したということよ。後半もまずはけがをせず、阪神を追いかけるチームの中心にい続けてほしいよね。(スポーツ報知評論家・村田 真一)

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