◆第107回全国高校野球選手権茨城大会 ▽4回戦 水戸啓明7―0水城(21日・ノーブルホーム水戸)
茨城では、最速146キロを誇る水戸啓明の今秋ドラフト候補右腕・中山優人(3年)が第2シードの強敵・水城を相手に、夏の茨城では47年ぶり2人目の完全試合を達成。8強入りした。
球場内は異様な興奮で満たされた。強烈な太陽光線に照らされ、中山は腹を決めた。9回2死。フルカウント。「最後は一番自信のある真っすぐで、三振を取ろう」。ミットをにらみ、しなやかに右腕を振った。打球は二遊間に転がった。二塁手の本城海輝(3年)が好捕し、一塁へ送球。きわどいタイミングに誰もが息をのんだ。
「スコアボードを見た時に『すごいことをしたんだな』と。少し意識していました。四球を出す不安もあったが、自分を信じて投げた。一人一人の打者に全力で投げた結果です」
182センチ、65キロの、投手らしい細身の体形が特徴的だ。春夏計1度ずつの甲子園出場経験がある春4強の強敵・水城を相手に、オーバースローから投げ込むこの試合の最速は145キロ。2ストライクに追い込むと、スプリットを落とし三振を奪った。2巡目からはスライダーを交ぜ、3巡目からは左足を上げるタイミングを変えた。毎回の14Kは全て空振り。
高校入学時は175センチ、59キロ。中日でプレーした春田剛監督(38)の指導を受け、才能が開花。7センチ伸びた理由に「寝ることが好きなんで」と中山。切れ味鋭い変化球を操る原点は、幼少期にある。父・俊高さんは言う。「保育園から小学校と、レゴブロックでずっと遊んでいたんです」。研ぎ澄ませた指先の感覚は、この日の112球に生かされた。
猛暑の中、11球団13人のスカウトが集結。以前から注目する巨人・大場スカウトは「まっすぐにキレがあり、力強さもある。左打者の内角を突くところに気持ちの強さが出ている」と称賛。
春田監督も完全試合には「みんな気づいていました。あっぱれです」とエースの偉業をたたえた。準々決勝は春夏5度の甲子園出場を誇る県立校・藤代と激突する。「強い相手。水城さんの分まで勝ちきりたい」と中山。水戸短大付時代の96年以来、29年ぶりとなる真夏の聖地へ、最高の仲間と勝ち進む。(加藤 弘士)
▼夏の茨城大会2人目の完全試合(9回) 水戸啓明・中山優人が完全試合。夏の茨城大会では、78年7月17日1回戦対水海道一(土浦市営)の大洗・飛田嘉弘以来、47年ぶり2人目。中山は投球数112、アウトの内訳は奪三振14(毎回)、内野ゴロ6、内野フライ2、外野フライ5で、快挙を達成した。
▼夏の大会で完全試合達成(9回)の主な投手
(年度、回戦、相手、奪三振、投球数、★はプロ入り)
▽★池永正明(下関商)
63準々 柳井 9K102
※2年生で達成
▽★江川卓(作新学院)
71準々 烏山 8K103
72〈3〉回 石橋 17K105
※1年生(夏の栃木大会 初)、2年生で2年連続同 じ7月23日に達成
▽★津田恒美(南陽工)
77〈1〉回 熊毛北 11K97
※2年生、「マダックス」 で達成
▽★野茂英雄(成城工)
85〈2〉回 生野 10K104
※2年生「背番号10」
▽岡崎淳二(川越商)
89〈2〉回 川本 16K103
90〈2〉回 行田 19K118
※2、3年生と2年連続。 東洋大・鷺宮製作所
▽★小島和哉(浦和学院)
13準々 埼玉平成 9K97
※2年生。9回2死後、 ライトゴロで達成
◆中山 優人(なかやま・ゆうと)
☆生まれ 2007年4月18日、茨城・鉾田市。18歳
☆球歴 当間小1年から当間スポーツ少年団で野球を始め、鉾田南中では水戸青藍舎ヤングでプレー。水戸啓明では1年春からベンチ入り。初のエースナンバーは2年春
☆サイズ&投打 182センチ、65キロ。右投左打
☆データ 最速146キロ。スプリット、スライダーを操る。50メートル走は6・3秒。遠投115メートル
☆有望株 中学時代は沖縄・興南など強豪私学を含む約15校から入学の誘いを受けたが、春田監督の「ウチで勝ってくれ」という言葉に胸を打たれ水戸啓明に
☆好きな音楽 韓国の6人組ガールズグループ「IVE(アイヴ)」のファン
☆好きな言葉 恩返し