◆第107回全国高校野球選手権 神奈川大会 ▽準決勝 横浜4―3立花学園(26日・横浜スタジアム)

 神奈川では、今春センバツ王者の横浜が2試合連続の逆転勝ちで、5年連続の決勝進出を決めた。最速146キロを誇るプロ注目のエース左腕で、4番を務める奥村頼人(3年)が2打席連続弾&好救援の活躍。

集結した8球団のスカウト陣の度肝を抜いた。27日には15地区で決勝が行われる。

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 反撃の号砲は横浜・奥村頼のバットによって鳴らされた。3点を追う4回先頭。強烈な弾道がバックスクリーンを直撃した。公式戦初アーチだ。「苦しい展開を自分の1本で変えたかった」。2万2000人に一瞬の静寂が訪れ、次の瞬間には歓声と悲鳴に変わった。

 もう止まらない。2点ビハインドの5回2死一、三塁。スライダーを捉えると、打球は右翼席に消えた。2打席連続アーチとなる逆転3ラン。

同校で夏の2打席連続弾は16年の準々決勝・横浜隼人戦で、藤平尚真がマークして以来だ。打席に入る前、伝令を通じて村田浩明監督(39)から「今日の勝負を決めるのは、お前の一打だ」と背中を押された。期待に応える2発を「思いが乗って飛んでいった」と振り返った。

 ワンマンショーだ。1点リードの9回1死三塁。4番手の織田翔希(2年)がピンチを招くと、カウント1ボール2ストライクから緊急救援。後続を封じた。その直前、8回の織田の打席。三振に倒れた弟分の表情が、精彩を欠いているのを見逃さなかった。「『最後に出番がある』と心の準備をしていた」と言った。

 悔しさが原動力だった。22日の準々決勝・平塚学園戦。

先発も2回途中を3失点で降板した。「あと1球」で敗退の危機から、阿部葉の逆転サヨナラ2点二塁打で勝った。涙があふれた。「準決勝は頼むぞ」。その言葉がうれしかった。前日は「アップも4倍やって」走り込み、この日に備えた。「並々ならぬ思いはすごくあった」と瞳を輝かせた。

 ネット裏には8球団が集結。巨人の森中スカウトは「横浜の1番を背負うだけでも相当な重圧なのに、4番でこれだけの打撃をするとは…すごいとしか言いようがない」と称賛した。

 村田監督も「僕は彼を信じている。やってきた練習量が他の選手と全然違う」と信頼を口にした。いざ決勝。

横浜は23年夏に慶応、昨夏は東海大相模に逆転負けの苦い過去がある。「決勝には悔しさもある。やるべきことをやれば間違いない」とエース。最後の瞬間。流す涙は、うれし涙と決めている。(加藤 弘士)

 ◆奥村 頼人(おくむら・らいと)2007年9月8日、滋賀・彦根市生まれ。小1から高宮スポーツ少年団で野球を始め、小6ではタイガースジュニアに選出。中1から滋賀野洲ボーイズでプレー。中3時は鶴岡一人記念大会に関西選抜として出場し、優勝。高校では1年春からベンチ入り。2年春からエースナンバー。特技はスキーで習字は1級。

179センチ、84キロ。左投左打。

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